1話:仕事中にパソコンのアップデートが走る。サボっていると思われないか心配で死にたくなる。
いつものように仕事をしている最中、突然の悲劇が襲ってきた。
何の前触れもないのが甚だ憎たらしい。パソコンのアップデートが勝手に走ってしまったのである。「更新しています。電源を切らないで下さい」という文字が現れている。これでは何も作業ができない。
パソコンのアップデートは長いときだと一時間以上かかるときもある。一時間も作業ができない。これでは仕事を進めることができない。今日は残業マシマシになるのが確定してしまった。だが、本当に辛いのはそれではない。
パソコンのアップデートが進んでいる間、一体何をしていれば良いのだろうか。この待っている時間、ずっとパソコンと睨めっこしているだけで手を動かしていないという状態になってしまう。こうなると、何がまずいのかというと、上司が自分の所へやってきて「おい、何サボってんだ」って怒鳴りつけてくるんじゃないかっていう心配がある。いや、そこで「パコソンが現在使えないんです……」って言えば上司も「そうかすまんな」って返してくるのだろうけれど、上司の誤解が最終的に解けたところで、結局最初に怒鳴られるのは変わらないのだ。これが自分は凄く嫌であった。
上司以外の人の視線も気になってしょうがない。周りの人から仕事をサボっている人だと思われたらどうしよう。そんな不安にどうしても駆られてしまう。
だから自分はパソコンをアップデートが大嫌いなのだ。
喫煙者であれば、「タバコ部屋」という最強の逃げ場がある。もちろんそこで一時間もつぶす訳にはいかないが、15分だけ潰して、その後にトイレで15分潰せば、後30分だけなんとか辛抱すれば良いだけになる。なんと羨ましいことか。
喫煙者でもない僕はただただ机に座っている他はない。
サボっていると思われたくないので、自分はパソコンのキーボードをカチャカチャ動かしていた。しかしこれはこれで危険な行為なのである。もし画面を覗かれたりしたら、パソコンが使えない状態なのに何キーボードカチャカチャ鳴らしてんのかってことになる。それは凄く嫌だ。
自分は人目をやたらと気にしてしまう悪性がある。
この悪性のおかげで自分は何度悲劇に見舞われたことだろう。人目さえ気にならなくなれば、どんなに人生が楽園であることか。本当に辛い。
人目を気にしない方法をネットで調べたりしてみた。しかしどんな対処法もあまり自分には効果がなかった。本とかも買ってみたが同じことだった。
どうにかしてこの苦しみから逃れることはできないだろうか。
そんなことを考えながら、自分は残業を終えて自宅へと帰っていく。今日はもう自炊をする体力はない。コンビニの弁当で済ましてしまおう。そう考えて、自分はコンビニへと入っていった。
いつもの弁当を手にとって、自分はレジへと向かった。
店員さんに小銭をわたしてお弁当を受け取った。
「レシート入りますか」
自分はレシートなんて要らなかった。だが間違えて受け取ってしまった。しまったとおもったときにはもう遅い。レシートはつい流れで受け取ってしまう。絶対に不要なものなのに。
レシートを捨てる透明な箱が一応レジにはある。だが、一度受け取ってしまったレシートをゴミ箱に入れるのはおかしくないだろうか。店員から訝しがられないだろうか。自分はそんな心配をしてしまい、結局レシートはお釣りと一緒に財布に入れた。
気がつけばまた財布の中がレシートで溢れている。家に帰ったら一度掃除しないといけない。
やっぱり自分はどうしても人目が気になってしまう。
家に帰ってからアニメを見た。最近Amazonプライムに入会したことにより、一部のアニメを無料で観ることができていた。
アニメの住人はとても良い。人目を気にせずに自由に生きている感じがひしひしと伝わってくる。
「一層のこと異世界にでも飛ばされないかなあ」
僕はいつの間にかそんな独り言をつぶやいてしまっていた。
そんなことをつぶやいた所で異世界になんていける訳がない。
自分はもう大人なのだしそんな二次元にあこがれているような幼稚なことは本来考えるべきではないのだ。それよりもいかにして人目を気にしないで生きることができるのか。もっと建設的に考えろ。
明日からは絶対に人目を気にしない自由に生きてやる。そう決意した。
しかし自分はそう決意しても毎度のごとく、明日になればその決意は彼方へと吹き飛んでいるのである。
もうこの地獄からは逃れられないのだろうか。こんな生活いやだ。
正直死んだ方がマシなんじゃないかって思ったこともある。だが死ぬ勇気なんてとてもじゃないが持てそうにない。
という訳で自分はある手段に出た。
それは酒だ。
酒をガバガバ飲んで、嫌なことは全て忘れる。そうだそれが一番良いことだ。
冷蔵庫からチューハイを取り出してぐいっと飲む。酔っ払う。この糖質ゼロのお酒はなんでこんなに酔うのだろう。度数はそんなに高くないはずなのに。
僕は酔った。酔いまくった。明日は会社も休みなのに酔いつぶれることも心配せずに酔った。
気がつくともう一缶飲み終えてしまった。残念ながら冷蔵庫にはもう残っていない。
という訳でさっき行ったコンビニへもう一度向かうことにした。
さっき行ったばかりなので、たぶん同じ店員がいるだろう。普段の自分なら、同じコンビニに連続で2回も行くなんてしたら「店員になんて思われるだろう」って心配になって足が震えてしまう所である。しかし、今の自分は超サイヤ人なので、そんなことは全然気にしない。ゆうゆうとコンビニへと向かっていく。
だが、そこで事件は起こった。
酔っ払っていた、なんて言い訳は通用しない。自分は信号が赤であることに気が付かず歩道を渡っていた。
次の瞬間自分はトラックに跳ねられた。
なんというあっけないさいごであろう。先程死にたいとは言ったが、何も気持ち良い最中に死ななくても良かった。さめて酔いが覚めてから死にたかった。
僕は天国の存在も地獄の存在も信じてなければ、生まれ変わりの存在も信じていなかった。死んだら最後、もう無になるのだと思っていた。朦朧とする意識の中自分は「無」に対する恐怖におびえていた。救急車のサイレンが鳴り響いていた。だがもう助からないと自分で分かった。