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LASKAー勇者はとりあえず依頼をこなすー  作者: 朝舞
最終章 勇者はとりあえず依頼をこなし……
6/6

勇者はとりあえず依頼をこなし……




ーーー




「民族というものは、互いに交わろうとしないどころか、反発していたものです。」


祭りの最中。姉さんと、そんな会話をしていた。


「未だに、差別や偏見は残ってはいますが…それでも、随分と変わりました。」


異を拒んでいた人々が、互いに興味を示し、受け入れるようになっている。多様な民族衣装に身を包んだ者達が、同じ地にいる。


かつて、それは夢物語だと思われていたが、改革派である現国王や神官の働きで、少しずつ変わっていったのだと。


「今ある光景は、積み重ねられた努力が生み出した奇跡なんですね。」

「ええ。いずれは、種族をも超えた平穏を実現させたいものです。」


ほとんど不可能な奇跡を願うのではなく、確固たる未来を実現させようとするように、彼女は力強く言った。


「種族を、超えた……」


姉さんにつられて、ラスカは呟いた。


種族。

人間と、獣人と、魔人。


この世界の人は、大きくその3つの種族に分かれていて、それらは大なり小なり争いを頻発させていた。


種族をさらに細かく分けたのが民族だ。

この民族祭りに獣人や魔人の姿が見えないのは、『人間の』民族を対象にしているからだった。


「姉さんは…」


どうしてそこまで想う事ができるだろう、とラスカは不思議に思った。

冷たかった情勢の中で、なぜ純粋に理想を追い求めることができたのだろう。


自分は彼女のようにはいかないかもしれない。

差別や偏見は良くないと分かってはいるが、異を受け入れられない人々の気持ちも理解はできる。

自分と違う存在、未知の領域を持つ相手がーー怖いのだろう。


「姉さんは、正義感が強いんですね。」


結局、それだけ言うに留めた。

彼女の芯の強さの理由を訊くことさえ、恐れ多い気がしたからだ。


「……いえ。これはマスターからの受け売りでございます。私は、彼の側にいるだけ。彼の夢が、私達の夢であり、希望となっていたのでしょう。」


ラスカから見たマスターは、かなり自由人だ。留守番以外の仕事をしているのを見た事がない。

しかし、人徳があり、何か信念を貫き通していることは知っている。


彼女や、キットやゴートが彼を主人マスターとよび、慕っているのは、そこに惹かれたからかもしれない。


「そう難しいことではないはずです。人間も、獣人も、魔人も…種族は違えど、みんな同じ人なのですから。」


そう微笑む姉さんの横顔を眺めていると。

突然、風に揺れた水面のように、その輪郭がぼやけて見えた。


それに重なる、青年の姿ーー




★★★★★




私は、驚いて彼の横顔を見上げた。


『ーーみんな同じ人なんだよ。』


そう言って、こっちを見て笑いかけてくる。

いつものような柔らかな声。


()()()というものは、きっと彼の声のようなものの事をいうのだろう。

心地がよくて、あたたかいもの。


ーーだけど、どうして?


青年を見上げながら、私は不安を覚える。


ーーどうして、そんな目をしているの?


『みんな、同じ人なんだ。僕も、君も。』


もう一度、同じような事を言う。

優しい声。

笑っているのに、深い、暗い目。

いつもの優しい目とは違う。


ーーああ、この目はきっと……


()()()目。




★★★★★


ーーー




「ラスカ?聞いてる?」


前を歩いていた少年が、訝しげに振り返る。


「……え?」

「やっぱり聞いてない……。」


少し不貞腐れた様子のレイに、ラスカは小さな声で謝った。


「ごめんなさい、ちょっと考え事をしてました。」


あの祭りの夜。姉さんと未来への希望を語っていた時。

ラスカにとって、何か重大なことがあった気がするのだが……思い出せないでいた。

掴んだはずの大切な何かが、するりと指の間からこぼれてしまったかのようなーー


ーー()()()()()()()()()()()()()()()ーー


『……だいじょうぶ?』


そっと手を握り顔を覗きこんできたのは、心配そうな表情のルイだ。


ーーいけない。


思っていた以上に考えこんでしまっていたらしい。

ラスカはふぅと息を吐くと、眉間の辺りの力を抜いた。


「大丈夫ですよ。」

「……。」


ちらりと、振り返ったディークリフトと目が合ったが、彼は何も言わずに再び歩を進める。


「ほら、向こうを見てよ。」


何事もなかったかのように、レイが話題を戻す。彼は誰かの心理には簡単に干渉しようとはしない。

それは、ディークリフトも同様だ。


無関心なのではなく、干渉する必要はないと判断したのだと、ラスカはちゃんと理解している。


指し示された場所には、建造物が遠くに見えた。アレスティアと同じように、城壁が連なっている。


「セレイーンだよ。」

「あれが……」


水の都、セレイーン。

先程の沈んだ気分は何処へやら。新たなる地を前に、すぐに胸の高鳴りを覚える。


「魔道の、国……。楽しみ……だね。」


もの静かなサーシュでさえも、高揚しているようだ。いきいきとした瞳が、彼の心持ちを充分に表していた。


『るーは、ふねに、のりたい!』

「ふね……ゴンドラ、だね。確か……水路の、移動に使う……。」

「観光に行く訳じゃないんだけどな……。まぁ、そのうち乗る機会もあるかもね。」


自然と明るい話題になる面々に、ディークリフトもまたさらりと言った。


「どんな人形(ドール)がいるか楽しみだ。」

ーーそれはちょっと……


彼を除く全員の気持ちが一致した瞬間だった。






とにかく。


勇者(+α)はとりあえず依頼をこなし、新天地へと成り行きで向かう。


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