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問い尋ねると、彼女は噂でしか知らないけどと前置きし、語った。
その噂の源はあのキザったらしい男で、おおよそ間違いないだろうが、大声で否定したい気分になる。
クソ親父、そんな事を今日言うつもりだったのか。
そういう結婚の話は前々から交わされているのが普通だ。
嵌められたという事である。
「ティアちゃん凄いよー。あの大国にお嫁に行くなんて」
「何がいいものか。あいつがいるにしろ、この国を出るのは嫌だったというのに」
ティアが結婚させられる相手というのも、隣国のウルブリヒトという馬鹿でかい国の次期王様という事である。まだ、王が未だ現役のため、王太子ということであろうが、ともかく一般人ではないということだ。メグと共に働くという夢もまた夢となってしまうのだろうか。
溜息をつくと、背伸びをする。
父親に直談判してくるか?だが、そうすればウルブリヒトから非難を食らって戦争が起きるなんて言うのもあるしな。ああ、でもウルブリヒトは好戦的な国で、その土地を広げてきたのも侵略の結果というのだから、ここで国が乗っ取られるってのもいいかもしれんな。
ウルブリヒトの王は、間違っても民に無理な要求はさせないのだから。まあ、王家に関してはノーコメントだ。
「でもでもっ!うちと同じ国の人とかいそうかも!本、いっぱいあるかもしれないよ」
「ああ。・・・・・・それは魅力的なお話だな」
王都に構える国内最大級のヴェネチック国立図書館は、本の冊数がそこそこあるものの大体は覚えてしまったのでそろそろ開拓しなくてはと思っていたところだったのだ。国中の図書館は、残すところそこだけであったし、ラスボスといっても過言でないほど楽しみにしていた。しかし、ほかの図書館と被っている本も多く、大体ななめ読みを終えてしまっている現状である。それでも、3年は費やしたのだが。
来週あたり、郊外にある本屋のリストを頼りにめぼしい本を探す予定であったのだ。
しかし、本目当てでもなあ。とティアが天井に目線をやり悩んでいると、メグは彼女の手を取っていった。
「というか、行こうよ。うちも着いていくからさ」
にっこり笑って、はっきりといった。
恐る恐るメグに顔を向けると、その目は否定させねえぞと言わんばかりの光を放っていた。
友人にはとことん甘いティアは思わず頷きかけ、慌てて横に首を振る。
声に出そうとするときっと了承してしまうと分かっていたのだが、行動でも示してしまうところであった。
落ち着けと、自分に念じる。
「待て。何でそんなに興味津々なんだ」
「既に言ったし。うちは、この国に縛られているけれど、ティアちゃんの側にいることは許されてるじゃん」
「・・・・・なるほど。わたしを使って、この国を出るってことか。前から言ってたしな」
彼女は訳あって、この国に縛られている。
だからこそ、彼女のかねてからの願いであった、同郷人探しはこの国の中で完結せざるを得なかった。
他の国にも行ったことはあるものの、それがのんびりとしたものでなく、そして自らの命をも脅かす事態であったため、探すことすら頭から離れてしまっていたのだった。
「で、ティアちゃん。行くの、行かないの」
はっきり言おう。
ティアはごねることはすれど、彼女の頼みはある悩みの他は、全て受けいれる。
友人である以上に、下手なことは言われないと信頼しきっていたのだった。