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飴色の耳飾り  作者: 月葉
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ご都合主義につきご注意ください


わたしにとって、生きることは至極つまらないものだ。


こんな国など、いっそ滅びてしまえばいいのにと、願わずにはいられない。

だけど故郷をなくすのは、もう、イヤだって思ってる。........だから、わたしは。







――――



勝てば官軍、そんな言葉を耳にして、憂鬱な溜息をつきたくなる。

滅びの呪詛すら吐きたくなってしまうが、ここは天下の往来。

ヘタしたらあの国の兵士がいるかもしれない。

ぐっとこらえて目的地までの道を黙々と歩き続ける。


ユースティアはイライラしていた。

全く関係のない通りすがりの人にすらその感情のない顔で睨み付け街の中を歩く。

理由は簡単である。父親が唐突にティアを呼び出したからである。

彼女を呼びつける時など、大抵が面倒な内容なのだ。普段それほど感情を露わにしない質であったが、彼に関わることだけはどうしても彼女をイライラとさせたのだった。

今回隠れるようにして王都の大通りを歩いているのは、その話を聞くのが嫌だったせいである。

第5王女なんて肩書と共に生まれてしまったからには、いずれ通らなければいけない道なのだが。


歩みを進めるたびに、鼈甲を溶かしたようなつややかな色彩を持つ小粒の丸い首飾りが揺れる。


「あ、ティア!」


ぼーっと、それでも睨みながら歩いていると、いつの間にか目的についていた。

黒が混じる茶髪の彼女は、店のトレードマークであるパンを模したマスコットキャラクターの付いたエプロン姿であった。

丁度仕事が終わったのだろう。その手には、親父さんから貰ったであろう大きなパンを持っている。


「メグ。ごめんな。呼び出して」


ティアは手を合わせて謝ると、彼女は胸を張って答えた。

美人とは言えないが、身長が平均より少し下回っている彼女はくりくりとした目でかわいらしい系の女の子である。

日に焼けた健康的な肌が、引きこもりであるティアには眩しすぎた。


「全然かまわないって。寧ろうぇるかむよ!」


「それは良かった」


「取りあえず着替えるから家まで行きましょー」


「・・・流石にそのパンを持って街をうろうろするわけにはいかないな」


メグの現在の格好を眺めぽつりとつぶやく。

彼女の今の仕事は、パン屋である。

こじんまりとした店であるが、店主であるおやじさんのパンがおいしいと評判で、行列が並ぶほどである。

とはいっても、大量生産できるものではなく直ぐ完売するためそこまでは並ばずに終了するのだが。






「そういえば、例の本新作入荷したらしいよ」


メグの家に着き、紅茶を飲みながら彼女の着替えを待っていると、部屋の戸を開き少し顔を出していった。

早く着替えして話せばいいのに、せっかちなことだ。


「へえ。で、どうだ。面白い?」


テーブルに置かれた薄い装丁の本をめくりながら尋ねるとメグは口をとがらせ自室に引っ込んでいった。


「ティアちゃんは前話はあんまりお気に召さなかった感じ?」


「そうねえ。もうちょっと相手の方がガッツリ系だと良かったのだけど」


「あー、。うちは好きなタイプだったけどねえ。設定では両方草食系だもん。仕方ないよ。でも、今作みて欲しいかも!マジ鬼畜ってるから」


「?お相手が変わるってこと?」


「いや、違うの!なんと!ろーるきゃべつ系だったのさ!」


「ろ、ロールキャベツ系?草食系の親戚?」


ティアは、彼女のその単語に首をかしげた。

多分、男子の種類だと思うけれど、初めて聞いた言葉である。


それからメグの言葉が聞こえなくなって悶々と考えていると、外出用の服に着替えた彼女がティアの前の席に座った。


「ロールキャベツってさ、こうさ、お肉をキャベツに包んで煮込む料理じゃん?」


そういって、右手を肉に見立ててグーの状態にし左手で包んで見せる。

草食系と見せかけた肉食系というやつか。


「それがもうホントやばくってさー。ギャップがたまらんの。3巻で大人しめなアレだったのに4巻に入ると一気に!!やばいって!」


「興奮しているのは分かったからヤバイヤバイ連呼するな。バカっぽいぞ。まあ、お前完全に作者の術中にはまってるな。買った意味あったんじゃないか」


その様子を見て、ちょっと見てみたくなったのは内緒である。

前の巻すら最後まで読み切ってないのに次の巻を要求するのは困るだろう。

滅多に抜け出せないのだ。ずっと持っている訳にもいかない。

まあ、彼女は読む用保存用布教用を3冊買うタイプであるため気にしていないとは思う。


「そう!うち、ヒルダ先生に一生ついてくよ!次の即売会は、ティアちゃんも一緒に行こうね!」


「日が合えばな」


いくら第5とはいえ王女として表舞台にでなくてはならない事が多くあるのだ。

国外に行くとなると、一週間で帰ってくることが出来ないことがざらではない。

目の前の彼女と会えなくなる日も来るかもしれないと考えると更に憂鬱を増していく。


「いつでも待っているから、焦らなくてもいいんだよ!」


「ありがとな、メグ」


いつもポジティブな彼女を見ていると、ティアのもう少し前向きに物事を考えなければ。

そんなことを考えながら紅茶をすすると、彼女が唐突に爆弾を落としてきた。


「そういえば、ティアちゃん結婚するんだって?」


思わず紅茶を噴いてしまったのは自分のせいじゃないと思う。


「結婚?何それわたし初耳なんだが?」





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