五章・チーム結成
「……が、……て……だ……い。」
……眠い
「煋雅、起きてください。」
ん? シャロンの声?
「煋雅、朝です。起きてください。」
「んあ、あ~~~」
大きなあくびをしながら起き上る。そうだった。昨日からシャロンがうちに居候することになったんだった。
「おはよう、シャロン。」
「おはようございます。よい朝ですね。」
外を見ると、雲一つない快晴の空が広がっている。
「そうだな、起きて朝飯食ったら学校行くか。」
「はい。」
シャロンは既に制服に着替えていた。
まさか、俺が寝ているうちに着替えたのか⁉
くそっ、サービスシーンを逃し……ん、げほん。
「俺も着替えようかな~」
そうつぶやき、クローゼットとタンスから必要な着替えを出していく。
「……………………」
「着替えはじめようかな~」
寝間着のボタンを外し始める。
「……………………」
「シャロン、なぜこっちをじっと見ているんだ?」
質問に答えずにこっちを凝視し続けるシャロン
「……………………」
「頼むから後ろを向くか部屋からでてくれ!」
「わかりました。後ろを向いています。」
そう言うと、立ったまま後ろを向いた。これだとちょっと恥ずかしいのだが、別に俺は女の子じゃないからそのまま着替えはじめる。
数分後。クラスル学園の制服を着た俺がこの部屋にいた。
「シャロン、お待たせ。朝ごはんだ。」
「はい。」
リビング行き、朝食を準備している母さんにあいさつする。
「おはよう、母さん。今日はシャロンに起こされたよ。」
「煋雅、あなたは早く自分で起きられるようにしなさい。」
「この二、三日がたまたま起こされただけだよ!」
これは俺にもっと早く起きろと言っているのか?
「お母さん、おはようございます。」
「あら、シャロンちゃん、おはよう。煋雅起こしてもらっちゃってごめんね。」
「いえ、早く煋雅と話したかったので。」
「シャロンちゃんたら可愛いわね。」
「か、可愛くなんてないです。」
顔を赤くして下を向くシャロン。照れてるみたいだ。
「とりあえず食べようか?」
「そうね、早く食べて早く行きなさい。」
シャロンと二人、朝ごはんを食べて家を出る。
「んじゃ、行ってきます。」
「行ってきます。」
「行ってらっしゃい。」
そして、二人並んで学校へと歩いていく。
「なあ、シャロン。」
「なんですか?」
今話しかけた時に改めて思ったが、シャロンは俺を見上げる形になる。上目づかいっぽくて可愛いな。
「今日は<双剣の誓い(デュアルレゼリション)>を結んで上がった能力を特訓するんだろ?」
「そうですね。実は<剣>を<双剣の誓い(デュアルレゼリション)>を結んで最初に扱うのは危険ですから。」
え…………俺ら、めちゃくちゃ危険なことしてたんじゃん。
「どんな特訓をするんだ?」
「能力を鍛えるには使うことが一番なのですが、まずは体を慣らすところからですね。」
「そうか、放課後が楽しみだな。」
「煋雅は特訓の前にやることがありますよ?」
………………そうでした。
***
今日も何事もなく六限の授業まで終わり、放課後となる。
「はぁ、来てしまった。この時が。」
ため息をつきながらアルセリアを呼びに行くために五組の教室へと向かう。
「煋雅、早く終わらせてください!」
「そうよ、もたもたしてないでよね!」
なぜか落ち着きが無い二人。
「わかっているよ。そう急かさないでくれ! つか、もしかしたら契約が済んでいるかもしれねぇしな……。」
とりあえずアルセリアの元へと急ぐ
「煋雅もなかなか苦労人だね。」
秀樹が苦笑いで言う。
二年五組に着き、入り口付近にいた生徒にアルセリアを呼んでもらう。
「せ、煋雅さん⁉ な、何か用ですの?」
「今からみんなでまた <無の領域>に行く。一緒に来てくれ。」
「煋雅さんのお願いでしたら断りませんわ! どこまでもお供いたします!」
了解を得たところで、全員人気のない場所へ移動する。
「じゃあ、今度は俺が<ナザレータ>を出してみようかな?」
「力に慣れるためにもそのほうがいいですね。」
シャロンに肯定され、
「龍煋が何もできなかったら意味ないもんね。」
チセからは辛い言葉をいただく
「で、どうすれば出せるんだ?」
全員がこける。
「し、知らなかったのですか。」
いつも表情のないシャロンでさえ苦笑いしている。
「いや、俺は二人と違って特訓積んでないし。」
「もう、相変わらず龍煋はバカね。私が教えてあげる。」
「いや、面目ない。」
恥ずかしくて頬をかく。
「煋雅はやっぱり天然だね。」
むむ、隣で失礼なことを誰かが言っているな?
「龍煋、一回で覚えなさいよ?
まず、意識を集中させて<リミニ>を片方の腕に集めて。
そのあとに行きたい場所を思い浮かべれば<ナザレータ>が現れるわ。」
「了解、ありがとよ、チセ。」
お礼を言って笑うとチセがうつむいた。
「お、お礼なんていいのよ。こ、こんなの初歩の初歩なんだから。」
照れてるようだ。可愛い。
「…………むぅ、東雲さんにいいところを持っていかれました。」
「ん、シャロン?」
「い、いえ、何も言っていません。」
……なんかいつもより口調が強い気がする。これ以上聞くのはやめよう。
「とりあえずやってみますか。」
意識を集中して、右腕に<リミニ>を集める。
「よくわからないけど、こんなもんかな。」
右腕に不思議な感じがまとわれているのがわかる。
そして、この前にシャロンとチセが戦った場所を思い浮かべる。
「はあああああぁぁぁぁぁぁ!!」
力を放出し、<ナザレータ>を生み出す。
「さすが煋雅です! 一回目で成功するんなんて。」
少し嬉しそうなシャロン。
「なかなかやるじゃない。龍煋はかんがいいわね。」
なぜか自分が偉そうにするチセ。
「わ、わたくしはまったくわからないのですが……」
一人困惑気味なアルセリア。
「と、とりあえずみんな入ってくれ。」
場を流し、みんなを促す。
そして、場所が変わって<無の領域>
「アルセリア、聞きたいことがあるんだがいいか?」
「どうしたんですの煋雅さん?」
不思議そうな顔でこちらに来るアルセリア。
「お前、この前の保健室のでまさか<双剣の誓い(デュアルレゼリション)>結んでないよな……?」
「え、ええと、その煋雅さんに話を聞いて、わたくしも、一緒に戦いたいと思いまして……」
どうやらこの前の“アレ”は契約のためだったらしい。
「アルセリア、これは遊びじゃないんだ! もしかしたら一昨日みたいな怪我をするかもしれないんだ! 俺はアルセリアに傷ついてほしくない。
なあ、アルセリア、生半可な気持ちで契約したのなら今すぐ契約を破棄してくれ。頼むからこれ以上――
「なんでわかって下さらないの!」
――⁉」
アルセリアが俺の言葉を遮り、声を張り上げた。
「煋雅さんはいつもそうですわ! わたくしがどんなに親しく話しかけても学園長の孫のおふざけだと思って聞き入れてくださいませんし、挙句の果てには傷ついてほしくないだなんて!
わたくしはただ守られるだけのお嬢様ではありませんわ!
小さいころから、周りは過保護でわたくしのやることに少しでも危険を伴うとやらせてくれません。今回のこともそうですわ!
煋雅さんに守られるのではなく、肩を並べたいんですの! 一緒に戦って、<剣の世界>を救う手伝いをしたいと、わたくしは本心から思っていますわ! いつまでもか弱い女の子だと思わないでください!」
俺は雷に打たれたかのように全身がしびれた。
「そう、だったのか……俺が、アルセリアを力の無いお嬢様だと決めつけていたのか……
俺のせいでアルセリアを傷つけたのか……
アルセリア、ごめん。俺、頭のどこかで、アルセリアは守ってあげないと傷ついちまうと思い込んでいたみたいだ。でも、そのせいで逆にアルセリアを傷つけていたんだな。
そうだよな、いつまでも守ってもらうだけなんて嫌だよな。アルセリア、じゃあ、俺から頼んでもいいか?
……俺と一緒に、スルトを倒すために、戦ってください。」
お詫びとお願いの二重の意味で深く頭を下げる。
「ほ、本当に仕方ありませんわね。こ、このわたくしが力を貸して差し上げれば一騎当千ですわ!」
「ありがとう、アルセリア。これからよろしくな。」
「はい。」
「ねえねえ、ちょっとあんたたち。何いい雰囲気出してんのよ。
クラスル、あんた<剣>出してみなさいよ。仲間の戦力は知っておくものよ。」
チセが居心地悪そうに言ってきた。
「そうだな。一体どんなのが出てくるのかな?」
全員の視線がアルセリアへと集中する。
「そ、そんなにみられるとやりにくいですわ!
もう、仕方ありませんわね。
現れなさい、わたくしの<剣>」
天から光が降り注ぎ、何かが下りてきた。
「剣……いや、あれは盾じゃないか⁉」
「そんなはずはないです! 契約で召喚されるのは剣のはずです!」
珍しくシャロンが驚いている。
「でも、今目の前にあるのは盾じゃない。どういうこと!?」
「よくみてよ、あれはちゃんと剣だよ。」
一人冷静な秀樹。
「あ、ほんとだ。盾の裏に剣がある。」
「これが……わたくしの<剣>ですのね。」
その盾を手に取り、微笑むアルセリア。
「そうか、多分アルセリアは自分の身は自分で守るって思いが強く出て、もしくはそれ以上に誰かを守りたいって思いがあったんじゃねぇか? それで盾が付いているんじゃないか?」
「誰かを守りたい気持ち……」
そう言って俺に視線を注いできた。
「俺は守ってもらうほどやわじゃねぇな。あ、ピンチの時は助けてもらうぜ?」
「わたくしにお任せくださいな。」
「だ、か、ら! 早く先に進めなさいよ! 能力はなんなのよ!」
再びチセが割ってきた。
「そうですわね、では。」
盾を手に取り、盾に収まっていた細長い剣を抜き放った。
「行きますわよ!」
<剣>を構え、前方に向かって振る。
「せぇいっ!」
――パシンッ
「へっ?」
「は?」
「なっ?」
「へぇ~」
全員が驚きの声を上げた。
「な、なんでわたくしの<剣>、曲がってしまったんですの⁉」
そう、アルセリアの<剣>が力を込めた途端、刃の部分が曲がったのだ。そして、少し刃の部分が伸びていたような気がする。
「あれって鞭か?」
思ったことが口から出る。
「そのようですね。」
「敵を鞭でいたぶるお嬢様……あんたにピッタリね。」
おかしそうに笑うチセ。
「わ、わたくしにそんな趣味はありませんわ!」
そう言って鞭をふるった。
――パシッ、ググッ
「な、なによ、これ。ぐ、ぐる、じい。」
アルセリアの持っていた鞭が伸び、チセの首に巻きついていた。
「質量変化型の<剣>ですか⁉ 珍しいです!」
「そうなんですの?」
<剣>の能力を切り、元の長剣になった剣を眺めながらアルセリアが聞いた。
「たいていの場合は、例えば炎、水、石などを生み出して操るものです。
しかし、<剣>自体の変形は耳にしたことはありません。」
アルセリアのはレア武器か?
「盾付きに質量変化能力って、チートすぎだろ……」
「全員の契約が完了したので特訓に入りましょう。」
シャロンのこの一言で特訓がやっと開始された。
「皆さんにはこれから瞬発力を鍛えてもらいます。
私が50メートル四方の正方形を地面に書きますので、一人ずつそこに入って、力を試してもらいます。」
そう告げたシャロンは地面に線を引き始めた。
***
数分後、きれいな正方形の枠ができていた。
「この中で自分の<剣>を使って標的を切っていってもらいます。
そして、使い慣れていない<剣>に慣れてください。」
ん、ちょっと待てよ?
「シャロン、中には何もいないぞ?」
正方形を見渡しながら聞く。
「大丈夫です。人が入れば自動で出現します。それでは煋雅、中へどうぞ。」
「お、おう。」
恐る恐る正方形の中へと足を踏み入れる。
――フッ
背後に結界のようなものができた。
「こ、これ、なんだ?」
「これは龍煋の思った通り、結界よ。
制限時間内はここからで出ることはできないのよ。せいぜい頑張ることね。」
ほうほう、いったいどのくらいの時間なんだ。
「制限時間は10分間です。それまでは標的が出現し続けます。瞬発力と<剣>への慣れ、索敵能力を鍛えます。」
「よし、わかった。やってやるぜ!
我が身に眠りし光よ、今我が声に応え、顕現せよ
<ライトフラグメント>」
俺は光輝く剣を召喚し、腰を落とし、両手でその剣を構える。
「煋雅行きますよ。それでは、はじめ。」
――ずずずず
シャロンが合図をした直後、地面から何かが現れた。
「か、かかし⁉」
そんなことをつぶやいている間にも続々と出現を続けるかかし(?)
「容赦なくいかせてもらうぜ!」
かかしの塊に突っ込んでいく。
「はあぁぁぁ!」
剣を振り下ろし、切断してもかかしは微動だにしない。
「なんだ、手ごたえねぇな。まだまだ行くぜ!」
次々に出現するかかしを次々に切り裂いていく。
「はあ! せぁぁ! はっ! せいやぁぁぁ!」
切り上げ、突き、振り下ろし、剣筋は途切れることなく続く。
「そろそろ体も慣れてきたことだし、少し能力を使いますか!」
<剣>を持ち直し、横なぎの渾身の一撃を放つ。
「ライジングブレイク!」
しかし、昨日のような稲妻は起こらず、ただの力任せの一撃となっていた。
「なんでだ? この前はできたのに……」
俺の手にある<剣>を見つめ、考える。
集中力の問題なのか? 力をこの剣に込めればいいだけじゃないのか?
でも、昨日はシャロンを守るのに必死だったから放てたのかな……
「煋雅さん! 危ないですわ!」
アルセリアの声に振り向くと突然脇腹に激痛がはしり、視界が反転する。
「ぐあああぁぁぁぁ!」
傷口が開き、来ていた服が赤く染まる。さっき俺が立っていた場所を見ると、かかしがいた。
「こいつ、攻撃してくるのかよ!」
「すみません煋雅! 説明が足りませんでした。
この標的は相手の強さによって強くなります。なので、油断せず、気を付けて戦ってください。」
そうなのか。
「へへ、面白れぇ、そう来なくちゃ!」
右手に握った<ライトフラグメント>に意識を集中し、全身にみなぎる<リミニ>を感じ、体の中心に集め、右腕へと注ぎ込む。
「ふう……」
集中だ、集中……
呼吸を整え、迫ってくるかかしにさっき不発だった技をぶつける。
「<ライジングブレイク>」
剣に稲妻がほとばしり、強烈な光の筋がかかしを襲う。俺の周りにいたかかしがすべて真っ二つになり、倒れていく。
「ま、こんなもんかな、あぅおっと。」
――ボスッ
危うく後ろからまた殴られるところだった。
「二度目はくらわねぇぜ!」
下から斜めに切り上げて倒す。
「あと何分あんだよ……」
あんまし長くやると傷にも響きそうだな……
――ズズズズズズ
「なんだ?」
音のした方向を見ると、かかしが一か所に集まり積みあがっていた。
「ほほぅ、これがボスというわけだな?」
完全に合体し、巨大になった元かかしを見る。
「俺の身長の5倍はありそうだな……」
見上げてつぶやいた。
巨人が腕を振りかぶり、その後ものすごい勢いで振り下ろしてきた。
「特訓だし防いでみるかな。」
――ズガンッ
「ぐっ!」
剣で受けたが、ものすごく重い一撃で片足が地面にくいこんだ。
「お、まえなかなかやるな。だが、俺には、勝てねえよ!」
剣で腕を押し返し、そのまま切り落とす。
「残念だったな、あいにく力は有り余っているんでな。」
再び集中し、力をためる。
「はああぁぁぁぁ……」
集中だ、剣先に力を集めろ。これで決まる。
俺の<剣>が再び白い輝きを放つ。
「行くぜ、俺の全力でなぁ!」
足に力を込め跳躍する。
その後、空中で空気を蹴り(・・・・・)、勢いをつけた状態で地面に立つ巨人を切りさいた。
着地と同時に跳躍し、再び巨人を切り裂く。
「これで終わりだ! <雷の斬撃の舞>」
敵の周りを縦横無尽に飛び回り、擦れ違いざまに切り裂く。
数十往復後、再び高く舞い上がる。
「はああああああぁぁぁぁぁぁぁ!」
最後の一撃で巨人の胸を貫き、巨人の後ろに着地する。
「お前の負けだ。」
……決まった。
――ズシーン
巨体が倒れる音が聞こえる。周囲を見ると、結界がなくなっていた。
「もう10分たったのか。」
俺は剣を片手に結界の境界線の外に出た。
「煋雅! お疲れ様です。さすが煋雅です!」
「このぐらいでやられていちゃ、話にならないわよね~」
「わ、わたくしにはできる気がしないのですが……」
アルセリアが震えている。
「アルセリア、大丈夫だ。俺は怪我してたからてこずったが、お前なら大丈夫だ。」
そう言って、落ち着かせるように頭を撫でてやった。
「そ、そうですか、せ、煋雅さんがおっしゃるのなら……」
そう言ってアルセリアがうつむく。
よほど怖いのかな?
「煋雅、私も怖いです。」
「わ、私もなんか、煋雅の戦いみていたら、その、震えが止まらなくなっちゃった。」
シャロンとチセが真顔で言ってくる。
「え、ええと、二人なら、余裕だと思うよ……」
「「むぅ」」
なぜか不満そうだ。
仕方ない、話題に上ってないやつにしようか。
「秀樹、次はお前が行って来いよ。お前なら余裕だろ?」
「え、ええと……僕で行けるかな?」
不安そうに聞いてくる。
「大丈夫だ、よし、行って来い!」
半ば無理やり正方形へと押し込んだ。
「じゃ、じゃあ、頑張るよ。」
秀樹は頼りなくも、そういったのだった
***
そして、秀樹が特訓を始めてからしばらく眺めている俺だった。
秀樹はやはりまだ慣れていないようで<剣>の振り方がぎこちなかった。
「秀樹~後ろがら空きだぞ?」
秀樹はあまり動かずに腕だけ振っているみたいだ。
「くっ、二刀流って、なかなか難しいものだね。」
かかしをさばいて一人愚痴る秀樹。
「そろそろ能力使ってみろよ!」
「そうしてみるよ。」
秀樹が腕を止め、力を溜めはじめる。
この時ですでに七分が経過している。
俺と違ってまだかかしは攻撃してきていない。
「はぁぁぁぁ。」
秀樹が力を溜めはじめた。
「いくよ!」
秀樹が飛び上がり、剣を振りかざす。そして、まわり始めた。
「せああぁぁぁぁぁ!」
剣の先から水しぶきがほとばしり、水がまるで龍のようにかかしを飲み込んでいく。
「はああぁぁぁぁぁぁ!」
水龍が意識を持っているかのごとく暴れまわり、蹴散らし終えるとパッと消えた。
秀樹は空中からゆっくりと降下し、地面にストッと着地した。
「ふぅ、すごく疲れるね。」
「お疲れさん。なかなかだったぞ? 今の技は<水龍の舞>と名付けよう。」
頑張っていた秀樹にねぎらいの言葉をかける。
「ありがとう、煋雅。
フェリエンスさん、僕の戦いはどうだった?」
「そうですね……まずまずのところでしょうか。」
戦い方のコツをつかみ始めたってところか?。
「これから頑張るとするよ。」
謎のスマイル。これで女の子を落としているのか。
「それじゃ、次はあたしね!」
「いや、お前は最後だ!」
即ツッコミを入れる。
「なんでよ、私が次じゃダメな理由があるの!」
「あるね、お前の<剣>は伝説級だ。また暴走されたらたまったもんじゃない。
だから、全員の力を試して、<剣>を扱える状態にして、最悪の場合は全員でお前を取り押さえることになるからな。」
理由を言うとチセの表情が固まった。
「う……わ、わかったわよ! 最後でいいわ!」
「それでは、わたくしの出番ですわね。行ってきますわ。」
アルセリアが堂々と歩いていき、結界の中へと入った。
「わたくしの手にかかれば、造作もないですわ。」
<剣>を召喚し、余裕のアルセリアだった。
……まあ、なんだ、頑張れ。
「さあ、行きますわよ、準備は万全ですの?」
気合が入りすぎてかかしに話しかけている。
――シュラン、ザンッ、ザンッ、スト
剣を抜いた直後、アルセリアはかかしをすべて切り捨てていた。
「へぇ、さすがアルセリア、運動が得意なだけあるな。」
速くて剣筋が見えなかった……
俺も負けてらんないな。
「それでは、わたくしも能力を解放いたしますわ。」
目をつぶり、集中し始めると、手に握る<剣>が光り輝く。
「さあ、わたくしにかかってくるといいですわ!」
すると、時間がたち、アルセリアに合わせてレベルの数段階上がったかかしがアルセリアに突っ込む。
しかし、アルセリアは俺たちの中で唯一身を守る手段を持っている。
「甘いですわ!」
アルセリアがそう言って盾を体の前に突き出した。
アルセリアの手にある盾が光り輝き、かかしを弾き飛ばした。
そして、敵がひるんだうちに剣を変形させ、鞭のように振るい、切断していく。
「ほ~どんな敵も弾き飛ばせそうな盾だな。<絶対なる守り(アブソリュートシールド)>と呼ぼうかな。」
アルセリアの<剣>は鞭のようだが、剣の質も残していて、敵を切断できるみたいだ。
「えい、やぁ、はいっ!」
見る見るうちに敵が減っていく。
「クラスルさん、終了です。」
ここでシャロンからのストップがかかる。
「はぁ、はぁ、煋雅さん、わたくしの戦いはいかがでしたか?」
「おう、アルセリアが強いことがよくわかったよ。」
「そ、そうですの。あ、ありがとうございます。」
照れているのか、頬を染めている。
「んじゃ、次はシャロンだな、頑張れよ。」
そう言ってシャロンの頭をポンポンと軽くたたいてやる。
「煋雅ほどではありませんが、頑張ります。」
無表情が崩れ、小さな笑みがこぼれた。
***
「永きにわたる時を超え、私に聖なる力を、いでよ
<ホーリーフラグメント>」
シャロンが<剣>を召喚し、戦闘態勢となる。
「準備はいいわね? 始め!」
シャロンがやる番なのでチセが合図をする。
――ずずずず
先ほどと同様に地面からかかしが出現する。
「それでは、参ります。」
滑るような動きで次々とかかしを切り裂いていく。
「はぁ!」
「やっ!」
「せいっ!」
なめらかな剣筋に圧倒され、声も出ない。
「これが……シャロンの剣……か……」
俺が守ってやる、なんてことを言ったがそんな次元の動きではなかった。
「はは、こんなに強いんじゃ、俺が守ってもらうほうだったのかもしれねぇな。」
「そうね、龍煋みたいな乱暴な戦いじゃないし、的確に相手の急所を狙ってる。やっぱりそれだけ一人で特訓を積んだのね……悔しいけどこの中では一番強いわ。」
俺の独り言に反応するチセは冷静に答えた。
俺がもっと強くなって、シャロンを守れるようにならないと!
ふと視線をシャロンに戻すと、背後からかかしがせまっていた。
「シャロン、後ろだ!」
シャロンが声に気付き、答える。
「大丈夫です。<セイクリッド・フィールド>」
剣を地面に付きさし、侵されざる聖域を展開する。
「「「ぐががががが」」」
光の壁に当たったかかしたちは次々と弾き飛ばされていく。
そして、シャロンは<セイクリッド・フィールド>を解除し、言った。
「これで終わりです。<闇を消し去る矢>」
すると、<ホーリーフラグメント>が輝きはじめ、シャロンがそれを天につきだす。
――キーン
何かが共鳴するような音が鳴り響いた。
「って、俺の<剣>が光っている?」
どうやら手に握った<ライトフラグメント>が共鳴していたらしい。
「はあぁぁ!」
シャロンが剣を横なぎに振り、虚空を振りぬいた。
その剣筋から光の矢が出現し、かかしへと突き刺さっていく。
その後、かかしは一体残らず消滅した。
「フェリエンス、終わりよ。」
チセがシャロンへと終了を告げる。
「シャロン、お疲れさん。」
「ありがとうございます。」
「フェリエンスさん、お疲れ様。強いんだね。驚いたよ。」
ナチュラルに褒める秀樹。こいつ恥ずかしくないのか?
「いいえ、私の力ではまだまだスルトには敵いません。」
「スルトって、そんなに強いの?」
突然不思議そうに尋ねる秀樹。
「そうです、<剣の世界>(グレイシス)の騎士団を退けるぐらいですから。かなりの力を持っていると考えても間違いありません。」
「そうね。騎士団は<剣の世界>の中でも精鋭ぞろいなのに、ぼろぼろにやられたって聞いてるわ。」
事情を知っている二人が苦々しく話してくれる。
「なあ、そういえばスルトってやつはどんな<剣>を使うんだ?」
「そういえば言っていませんでしたね。対策を練るためにも敵の武器の形状を知っておくのは悪くないです。
スルトの扱う<剣>の形状は珍しいもので、日本のか――」
―――ゴオッ
突然荒まじい暴風が巻き起こり、俺たちは吹き飛ばされた。
「ぐっ! な、なんだ⁉」
「ようやく見つけられたか。まさか<無の領域>にいるとは、簡単に見つかるものだ。」
暴風の中、聞き覚えのある声が聞こえた。
「お、お前はあの時の!」
風が止み、砂埃が晴れるとそこには思った通り大剣を肩に担いだ大男が立っていた。
「最後に言ったはずだ。お前は俺が潰すとな。前回は油断していたが、今回は本気で行かせてもらう。」
「本気も何も、お前はもう<双剣の誓い>を結んだ仲間が消えて(・・・)力が使えないはずだ!」
そう、最初に大剣の男と一緒にいたナイフの男を能力の暴走のようなもので消し去ってしまった。だから、大剣の男はもう<剣>の召喚や能力の使用、肉体強化などができないはずだ。
「あいつは俺の契約相手ではない。一時的にペアを組んだだけに過ぎない。」
俺が驚いているとシャロンが近くに来てつぶやいた。
「煋雅、勘違いをしてます。
<双剣の誓い>はそもそも相手が死んでも契約は破棄されません。お互いが正式に契約の破棄を認めた場合のみ破棄可能となるものです。それに、相手の契約相手は他にいるといってますよ。」
「……そうだったのか知らなかった。てっきりパートナーが死んだら破棄されるものかと思ってた。」
「龍煋、あいつがあんたの言っていた逃がした大剣使いね?」
チセが緊張したように聞いてきた。
「そうだ。でも、この前と違って、力が外にもあふれてきている。本気で俺たちを殺しに来たみたいだ。」
俺は再び大剣の男へと視線を送る。やはり気迫がこの前とはまるっきり違う。
「相談は終わったのか? スルトの邪魔をしようがしまいが、俺はお前を潰す。あの時の雪辱を今果たしてやる。」
男は大剣を構え、戦闘態勢へと入った。
「みんな、来るぞ! 相手は衝撃波を生み出してくる。気をつけろ!」
そう言って俺は相手に真っ直ぐ突っ込んだ。
「いくぜぇ!」
「気を付けろと言ったのは自分だろう。」
相手が大剣を振ると、大きな風の刃が生み出され、俺の左腕を切り裂いた。
「ぐあぁ!」
警戒を促した俺が一番に攻撃を食らっちまった……
でも、自己治癒能力が上がっているからそこまで大きな傷じゃない!
「シャロン、衝撃波の威力が上がってる。あいつは衝撃波じゃなくて風を操っているみたいだ。
この前とは格段に出している力が違う。」
「……<剣>所有者は四人か……人数では負けているが、経験の多さはこちらが上だ。」
大剣の男は何かを考えるかのようにつぶやくと、大剣を大きく薙いだ。
「<音を亡くす音速の刃>」
何がくるのかわからず咄嗟に剣でガードした。
――ギンッ
「ぐっ⁉」
重い刃のようなものが当たった感触があり、大きく後退した
「皆、大丈夫か!」
そう言って振り返った。
シャロンとチセは見切ってよけたらしく、アルセリアは持っていた盾で防いでいた。
しかし、一人だけ経験もなければ防具も持っていないのがいる。
「秀樹⁉ 大丈夫か!」
秀樹が一人地面に倒れ伏していた。
「煋雅……早くて見えない斬撃が来たよ……やっぱり僕はまだまだだね。」
傷を見ると、足を大きく切り裂かれていた。
「今の攻撃をよけたか。やはり常人ではないか……」
男はシャロンとチセを忌々しげに睨みつけた
「くそ、このまま突っ込んでもあいつの衝撃波でやられるだけだ。」
何か打開策がないか周りを見る。一つ、可能性が見えた。
「チセ! ちょっと来てくれ。」
チセを呼ぶが、相手からは目をそらさず、剣も構えたままだ。
「龍煋、どうするの? このままじゃ全員やられちゃうわよ。相手はかなりの場数を踏んでいる手練れみたいだし……」
チセもやはりそう感じたらしい。
「チセ、この状況を動かすのはお前の力が必要だ。耳を貸せ。」
チセが真剣な顔つきで耳を傾ける。
「…………、…………。
任せるぞ?」
「わかったわ。私に任せなさい」
チセはそう言って前に出た。
「お前が最初に殺されたいのか?」
「いいえ、違うわよ。やられるのはあなたよ!」
「<剣>も持たぬお前に何ができる?」
やはり相手はチセが<双剣の誓い>を結んでないと勘違いしているようだった。
「封印されし太古の剣よ、私に伝説と呼ばれし力を与えたまえ。
降臨せよ<バルムンク>!」
チセが詠唱し、<剣>を呼んだ。
――ゴゴゴゴゴ
地面が揺れ、亀裂が入り、チセの足元から巨大な剣が現れた。
「なに、お前も契約者か⁉
くそっ<音を亡くす音速の刃>」
相手は動揺を隠しきれず、すぐに風の刃を放ってきた。
――ザッ
チセは大剣を薙ぎ、刃をはじいた。
「甘いわね。私の剣は土。あなたの風とは相性がいいのよ!」
「くそ!」
明らかに相手が焦っているのがわかる。
「いくわよ! <アースブレイク>」
岩の塊が生み出され、大剣の男へと降り注ぐ。
「その程度ではやられん!」
男は風の力を利用して岩の勢いを殺し、その後岩を大剣で砕いていた。
「やるじゃない、今度はどうかしら?<グラウンドランス・バレット>」
土が猛スピードで回転しながら凝縮し、巨大な槍となり、敵へと突き進む。
「な⁉
くっ、はあああぁぁぁぁぁぁ<ウィンドコントロール>」
大剣の男が叫んだ直後、槍の軌道が微妙に反れ、男のすぐ横に突き刺さった。
「ふ、残念だったな。こんな大技を何発も打てるわけではないだろう。
しかし、俺にここまで力を使わせるとは……」
「防ぎきってホッとしているとこ悪いな、お前の負けだ!」
チセが時間を稼いでいるうちに俺とシャロンはアイコンタクトをかわし、大剣の男を二人で一直線上に挟むような位置に移動していた。
本当ならチセの技が決まっていたらそれでよかったが、失敗した時のためにもな。
「まだだ、俺は本気を出していない!」
すると、大剣の男の周りにすさまじい風が起こった。
「くっ、まだこんな力を残していたか! だがな、俺とシャロンの技は伝説の勇者の技なんだよ。そん所そこらの技とは格が違う!
行くぞ、シャロン!」
「行きます、煋雅!」
「「<ライトジェット・クロス>」」
――ズバンッ
俺とシャロンが一瞬で敵に距離を詰め、風を切り裂き、その後敵を交差するように切り裂いた。
「俺はスルトを倒すんだ。お前なんかにやられてらんねぇよ!」
「くっ、子供一人も、倒せずに、お、俺が……」
男のセリフは最後まで聞けず、前にナイフの男を消した時と同じようにまぶしく輝いた直後に消えた。
「おわっ……た……のか?」
皆の顔を見渡しながら呟く。
「そのようですね……」
同じくシャロンも周りを見渡す。
「そうだ! 秀樹は無事か!?」
急いで秀樹が倒れていた場所へと向かう。
「秀樹っ、大丈夫か!」
「ああ、煋雅。僕は全然問題ないよ。さっき切られたところも契約のおかげで癒え始めているしね。僕はいいから女の子たちを見てきてあげなよ。」
「そ、そうか。怪我が大きくなくてよかった。安心したよ。
動けるようならこっちに来てくれよ?」
そう言って秀樹の元を離れ、女性陣の安否を確認する。
「シャロンは無事だったからアルセリアかな。」
「煋雅さん? わたくしの安否を最初に確認するべきではなくて?
私だけまったく見せ場なしだなんて許せませんわ!」
な、なんか怒っている⁉
「え、ええと、申し訳ない……その、怪我とかはしてないか?」
「いえ……あ、フフ……イタタタタタタタ!」
突然アルセリアが地面にうずくまった。
「あ、アルセリア! どうした⁉ まさか敵にやられていたのか⁉」
すぐに駆け寄り、アルセリアを抱き起した。
「どこをやられたんだ!」
「せ、せせせ、煋雅さん⁉ な、ななな、何をし、しているんですの!?」
アルセリアは突然俺を弾き飛ばし、顔を赤らめながら叫んだ。
「何って、アルセリアの様態を見ようとしただけなんだが……」
「な、そ、そうだったんですの……わ、わたくしが勝手に勘違いで一人変な想像をして馬鹿みたいですわ……」
アルセリアが何かつぶやいている。
どうやら俺の行動がデリカシーにかけるものがあったらしい。
「い、いや、ごめん。で、怪我のほうは大丈夫か?」
「大丈夫ですわ……煋雅さんが遅いのでからかって差し上げただけですわ。」
そう言うと、ぷいっと顔を仰向けてしまった。
「そうか、怪我がないならよかったよ。安心した。
じゃ、俺はチセを確認してくる。」
チセは確か、あの時バルムンクを召喚していたな……心配だ……
少し横を向くとあの大きな<剣>が地面に突き立っていた。
「あの大剣……目立つなぁ。
チセ、怪我はない……か……」
突如、俺の首筋にさっきの大剣が付きつけられていた。
「あいつを倒せてよかったわね。次はあんたを殺してあげようかしら?」
「なっ⁉」
俺の嫌な想像が当たったらしく、再び精神を乗っ取られて……ん?
よく見るとチセの目はいつもの碧眼だった。
あの時は灼眼に変わっていたもかして……
「チセ、わるふざけはよせよ?」
すると、大剣が引かれ、チセから言葉がこぼれた。
「はぁ、さすが龍煋ね。悪ふざけには引っかからないのね。ま、龍煋ならわかると思ってたけどね。」
「ほほう、なかなか信頼されたもんだな。それより怪我はないか?」
チセの全身を軽く見ても怪我らしい怪我は見当たらなかっった。
「な、何眺めてんのよ! 変態なの⁉」
「ち、違うだろ! 今の言葉の後なんだから理解しろ! 怪我をしてないか確認しただけだ!」
思い切り勘違いされた。
いや、断じて違うからな? 神に誓えるぞ?
「ふーん、ま、いいわ。
私がこんな敵にやられるわけないでしょ。見て分からない?」
「そうか、なら全員が無事だな。よかったよかった。」
実際、秀樹とアルセリアの二人は危なかった。アルセリアも盾が無かったら風の刃にやられていたと思う。そう考えると、本当によかった。
「煋雅、そろそろ戻りましょう。特訓も一時中断して、このメンバーで今後のことについて話をしておいたほうがいいと思います。」
「そうだな。秀樹、アルセリア、チセ。戻るぞ、えーと、なあシャロン。俺たちが住んでいる世界ってなんていえばいいんだ?」
ふと、疑問に思い、シャロンに尋ねる。
「私たちの世界ではこう呼んでいます。<全ての始まり(マザーワールド)>と。」
「そうか、<全ての始まり>……か。」
もしかしたら“異世界”も俺たちの住んでいる世界から生まれたのか?
「まあ、いいか。とりあえずまずは戻ろうか。」
「そうですね。」
そして、俺たち5人は<無の領域>を再び去った。