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四章・我が家の事情


<ナザレータ>をくぐった後、俺はシャロンと家に向かっていた。長い時間<無の領域>にいたのだが全く時間が過ぎていないことに驚いた。

 シャロンは激しい戦闘の後なのに、もう既に回復したらしくケロリとしていた。

「なあ、シャロン。さっきのチセ、おかしくなかったか?」

気になっていたことをシャロンに問いかける。

「そうですね……。私も剣を交えていて気づきました。

先ほどの東雲さんはあの伝説級<(グレス)>に支配されていました。私も目にするのは初めてですが、<剣の世界(グレイシス)>にも身に余る力を手に入れてしまい、周りの家族や友人を傷つけてしまった、という例は耳にしました。」

やはりそうだったのか。

「てことは、チセにはあの剣を扱えない、ってことなのか?」

「いいえ、特訓を積み、憎しみや怒りなどの負の感情を持たなければ最強クラスの聖剣であろうと扱うことができます。」

「そうか、ありがとう。」

チセも俺もだが、みんな特訓が必要だな。

「そういえば、シャロン。お前どこに住んでいるんだ?」

「<剣の世界(グレイシス)>の廃墟です。」

女の子がそんなところで寝泊まりしているのに放っておけないな。

「シャロン、俺の家にしばらく止まらないか?」

「いいえ、大丈夫です。」

きっぱり断られた。

「女の子がそんな場所で寝泊まりしているのは見過ごせないよ。母さんに頼めば居候ぐらいさせてもらえると思う。」

「…………」

シャロンは少し考えることにしたらしい。

そして、数十秒考えたのち、答えた。

「わかりました、煋雅の言葉に甘えさせてもらいます。」

「よし、決まりだな。」

そして家に付き、ドアを開ける。

「ただいまぁ。」

いつも通りに入っていく。

「煋雅、あなたどこへ行っていたの? 心配したのよ?」

 開口一番に飛び出たセリフに、自分が学校から一日帰ってきていなかったことを思い出した。

「あ、ああ、ごめん。ちょっと貧血おこしちまって。保健室でそのまま寝てた。」

「そう、無事に帰ってきてくれてよかったわ。」

その時、上からものすごい音が聞こえた。

――ズドンッ、バンッ、ダダダ

――ダンダンダン

「煋雅、何者かが接近してきます!」

「いや、敵じゃないからな?」

――ダダダダ

「お兄ちゃあぁぁん!」

心葉(このは)が俺に飛びついてきた。

「わ、私、もう、帰ってこないのかと、思ってた。よかった。帰ってきてくれて。うっ、うっ、わあぁぁぁん!」

心配をかけたみたいだ。安堵したのか泣き始めた。

「心配かけてごめんな、心葉。俺はこの家だけが帰ってくる場所だ。何があっても帰ってくるよ。」

心葉の頭をなで、落ち着かせる。

「えへへ、ありがと、お兄ちゃん。」

なぜかお礼を言うとそのまま部屋へと戻っていった。

「あら、そういえば、あなた女の子を二人もつれているのね。」

母さんが不思議そうに聞いてくる。

「え、あ、ああ。ちょっと大事な話があってな。」

「背中にいるのって千歳ちゃんじゃない。久しぶりね。煋雅のこと覚えていたかしら?」

やっぱり母さんは一目見ただけでわかっちまうんだな。

俺……一目見ただけじゃわからなかった。

「俺、ちょっとチセと話があるからさ、シャロンをもてなしてあげてくれないか?

ああ、そうだ紹介するよ。俺のクラスメイトのシャロン・フェリエンスだ。」

「煋雅の“彼女”のシャロン・フェリエンスです。よろしくお願いします。」

「あら、かわいい子ね。煋雅の母です。こちらこそ、煋雅をよろしくね。」

それぞれあいさつを済ませた。

「いいえ、こちらこそ煋雅にはお世話になっています。」

「煋雅が迷惑をかけてすみませんね。」

んん?

「いいえ、私のほうが迷惑ばかりかけてしまって。」

「この子ったらホントへたれで。」

「いいえ、私のほうが煋雅の足を……」

なんか無限に続きそう。

「と、とりあえず、よろしく頼むな。」

逃げるように二回の自分の部屋へ向かう。

部屋の中に入り、ベッドにチセを横たえる。

死んだように眠っているチセの横顔を眺めながら思い出す。

チセ、小学生のころはめちゃくちゃ男勝りだったんだよな。今ではこんなに女の子みたいに可愛くなって……

そして、考え始める。

なんでチセは<剣の世界(グレイシス)>から来たなんて言ったんだ? しかも自己紹介で<双剣の誓い(デュアルレゼリション)>について聞いていたし。一体何があったんだ?

「ん、いっ、たぁ。」

チセが目を覚ましたみたいだ。

「チセ、無理はするなよ。肋骨が治りかけだから。」

「龍煋……ここはどこ?」

まるで、何かにおびえるように部屋を見回すチセ。

「安心しろ、ここは俺の部屋だ。」

「そ、そうなんだ。……りゅ、龍煋の部屋……」

チセが何やらきょろきょろし始めた。

「どうした?」

「え、あ、ああ、な、なんでもないわ。

はぁ、りゅ、龍煋、さっきは、その、ごめんなさい。」

珍しく(俺の記憶だと数年前のものだが)素直に謝ってくる。

「なあ、それよりも教えてほしいことがあるんだけどいいか?」

先ほどから気になっていたことを聞く。

「いいよ、私が知っている限りなら何でも答える。こんなことになっちゃったのに何も説明しないなんてできないわよ。」

「まず、なんでチセは<双剣の誓い>について知っていたんだ?」

「それはね、長くなるんだけど、聞いてくれる?」

「わかった、全部話してくれ。」

       ***

私がこの出来事に出合ったのは中学の頃。正確には中学二年生の冬。私は『フレイム・ファランクス』に襲われたの。

そう、恐らくはフェリエンスと同じ理由。でも、龍煋たちとは状況が決定的に違うの。

私は『フレイム・ファランクス』の抹殺に巻き込まれた(・・・・・・)の。

異世界からこっちの世界に逃げてきた一組のペアの転移先が、たまたま私の帰り道の私の目の前だったの。

そして、そのペアを追ってきた刺客の炎で私は焼かれた。

傷は完全に炭のようになっていて、治療は不可能な状態だったって聞いてるわ。

その時私は、刺客をぎりぎりで退けたその一組のペアに、<剣の世界(グレイシス)>へと連れて行かれた。そこで、まるで魔法とでもいうような治療が施されたらしいの。こっちの世界だと下手をしたら死んでいるような大怪我を一日で跡形もなく治してくれた。

私は<剣の世界>の人たちに説明を求めた。そうしたら、申し訳なさそうにその中のリーダーのような老人が全てを説明してくれた。こっちの世界との違い、『フレイム・ファランクス』。

そして、驚くべきことに“龍ヶ峰煋雅”のことを。

ある、未来予知の能力を持った<(グレス)>を使う人の予知に、『フレイム・ファランクス』を倒す英雄が出てきたらしいの。

龍煋が誰かと戦っている声だけを聴いたのか見たのかはわからない。でも、やられる相手が悔しそうにその名前をつぶやいていたらしいわ。

私は、最初は誰のことかわからなかった。

その予知をした人も名前しかわからなかったみたいで、私は龍煋の本名を忘れていたからぴんと来なかったの。

それから私は<剣の世界>で生活を始めた。<リミニ>を使う特訓をして、『フレイム・ファランクス』に対抗できる力を持った人が少しでも多く必要だったの。

<剣の世界>を救うのに協力してほしいって命の恩人から頼まれたのを私は断れなかった。死ぬはずだった私の命をつなぎとめてくれた人のためなら手を尽くしたかった。

家族を中学生に上がってすぐに火事で失くしていた私は寮制の私立女子中に通っていたんだけど、学校では孤立していて居場所がなかった。

私は学校を中退して<剣の世界>の命を救ってくれた人の家で居候させてもらった。

それから数年がたって、予言がさらに進行した。その英雄の顔がわかったの。

予知能力者の見ている映像を映し出すと、その顔は私の見知ったものだった。昔よりも成長していて、幼さが抜けていたけど、その顔は確かに龍煋のものだった。

私はすぐに自分が知っている人物かもしれないことを伝えた。

すると、<剣の世界>の人たちは私に龍煋と契約をして、連れてきてほしいと頼んだ。

そして、この世界を救ってほしいと。

私に居場所をくれた人のお願いを断れるはずもなく、私はこっちの世界に戻ってきて龍煋を探し始めた。

それが今年の4月のこと。私は<剣の世界>で資金としてもらったお金で普通の高校に通いながら時間を見つけては龍煋を探し続けた。でも、いくら探しても龍煋は見つからない。

そして、つい3日前のこと。こっちの世界で初めて<リミニ>を感じたの。この世界で<リミニ>を扱える人なんているはずがないから、本当はありえないはずなのに、<リミニ>を感じたほうに行くとそこはある高校だった。

さすがに中に入るわけにもいかないから、その日は一度部屋に戻って、次の日に同じ高校に行くと今度こそ収穫を得られたの。

生徒の中に龍煋がいたのよ。

私は龍煋の通っていた高校を調べ、学園長に転入の許可をもらった。それで、今日転校してきたの。これが、私の知っていることと、目的のすべてよ。

      ***

「そんなことがあったのか。俺、何も知らなかった。チセ、ほんとにごめんな。」

「いいのよ。こうやって煋雅と再会できたわけだし。」

それにしても、俺が<剣の世界(グレイシス)>を救う英雄だなんて。そういえば、シャロンも同じことを言っていたような?

「龍煋、お願い。私と<剣の世界>に来て! それで、<剣の世界>のみんなを救って!」

真剣な眼差しでチセからお願いをされる。

「いや、それって世界を救って、って言ってるみたいなもんだろ? 俺はまだ高校生なんだし、そんなの無理だろ?

それに、俺らよりももっと戦い慣れた人が勝てないのに俺が勝てるはずないな。」

<双剣の誓い>によって得た力を使ってはいるが、いまだに完全には信じ切れていないというのもある。

――ダンッ

突然ベッドからチセが俺に飛びかかってきて床に押し倒した。

そして、泣きながら俺に訴えかける。

「龍煋! あんたには世界を救えるような力があるのよ! 中学生の頃だってどうせ、

『俺が力を解放してこの腐った世界を変えてみせる!』

とか言っていたんでしょ! だったら、力が宿った今、その言葉を現実に証明しなさいよ!」

……否定できない。そんなことを言っていた気がする。

「俺は、みんなが傷つかないように守りたいだけなんだ!

わざわざ戦いに行ってシャロンや秀樹、それに、チセを傷つけたくないんだ!」

チセがハッとしたような表情を一瞬する。しかしそれもほんとに一瞬だった。

「っ! じゃあ龍煋、あんたは自分の周りの人が幸せであれば、ほかの人はどうだっていいって言うの! いつからそんなに腑抜けちゃったのよ! 昔の龍煋だったら絶対にそんなことを言わなかった。いじめられている私を助ける時も相手を傷つけないようにしてたのよ!

皆が最後には笑えるように!」

頭をガツンと殴られたような感じがした。

小学生、中学生の頃の記憶がフラッシュバックする。

「………そうだったな。

 チセ、俺はさ、中学、高校と成長していく中でこの世の中の実態を痛いほど学んだ。

悪を倒す正義のヒーローは存在しないし、絶対に負けない人もいない。

それに、人ひとりの手で世界を大きく変えられないってこともわかった。

 それで俺は、世の中に失望して、かなわない力を追い求めることをやめた。

でも、違ったんだな。

シャロンが来て、チセと再会して、今、やっとするべきことができた。それに父さんからも言われた。泣いている女の子がいたらどんな時も力になってやれって。」

そう言ってチセの瞳から流れる雫をぬぐった。

「りゅう、せぃ……」

「ありがとよ、チセ。お前のおかげで俺のやるべきことができた。俺がどの程度力になれるかはわからないし、たかが高校生の力じゃたかが知れているかもしれねぇ。

 でも、俺は全力を尽くす。」

「龍煋……ありがとうっ!」

マウントポジションからさらに抱き付かれた。

お、おおおおお、微かなふくらみがぁぁ!

「ち、チセ! は、離してくれ!」

「あ、ご、ごめん。つい……」

離れたチセの顔は真っ赤になっていた。

「とりあえず、シャロンを呼んでくる。」

部屋からでて、一階のリビングにいるシャロンを呼びに行く。

「シャロン、そろそろ来てくれないか? ……ん?」

リビングのドアを開け、部屋を覗き込むと、何かを見て

二人で盛り上がっていた。

「なぁ、何見てんだ?」

二人がそろってこっちを向き、答える。

「「煋雅の中学校のアルバムよ(です)。」」

「おおおおお、ま、マイブラックメモリアル!!」

急いで机に向かい、二人の見ていたアルバムを閉じ、抱えて離れる。

「な、なぜこれを持っている!」

「なぜって、普通に煋雅の部屋にあったのよ? この前掃除したときに床に落ちていたから私の部屋にしまっておいたの。」

「み、見てないよな? そうだと言ってくれ。」

願うようにシャロンを見る。

「す、すべて拝見させていただきましたよ? 将来を共にする者として、相手のことを詳しく知っておく必要があります!」

なぜか顔を赤くして断言するシャロンがいた。

あ、見られた。終わった。さよなら俺の明るい高校生活。

「煋雅、小さくてかわいかったです。小さいころから戦うのが好きだったんですね。」

「……はっ?」

んん? そうか、シャロンにはわからないのか。よし。

「そ、そうなんだよ、実は戦闘マニアだったんだよ~でも戦う相手がいなくてさ~」

「そうだったのですか。」

な、何とかごまかせたかな?

「とりあえず、シャロン、話があるから来てくれ。」

「将来の話ですか?」

「頼むシャロン。お前だけはまともな女の子でいてくれ。」

これ以上俺の周りに変な女の子が増えたら精神が持たないよ。

ちなみに、先ほどのアルバムは俺がまだ厨二病な時のものであったりする。

「じゃあシャロン、俺の部屋に。」

「せ、煋雅の部屋ですか⁉ 楽しみですね!」

いつもより少し声が高い気がする。

そんなシャロンを連れて自室へと向かった。

「チセ、お待た……せ?」

チセが俺の枕に抱きついていた。

「は! り、龍煋、今のは違うの、別に匂いなんてかいでないんだから!」

俺ってそんなに臭うのかな……

「とりあえず、シャロンを連れてきたから、今後のことについて話そう。」

「そうね。その子とは話したいことがたくさんあるわ。」

「同じくです。」

なぜか敵対心丸出しな二人。

「とりあえず、落ち着いてくれ。これから俺たちはチームなんだから。」

「ふーん、龍煋ハーレムってやつ?」

チセがジトッとした目で見てくる。

「違う! <剣の世界(グレイシス)>を救うんだよ!」

「煋雅、この人は放っておいて早く作戦を練りましょう。時間の無駄です。」

なぜシャロンとチセはこんなにも仲が悪いのか?

「そ、そうだな。とりあえず現状の確認だ。」

「ふ、二人して酷いわね! 今のは冗談に決まっているじゃない。」

顔を赤くして抗議してくる。

「現状では煋雅と契約を結んだのが、仁科さん、東雲さん、そして、私の三人です。」

「人数的に見れば多いかもしれないけど、誰一人上がった身体能力すら制御できてないわね。って言うか、あの龍煋の友達も契約したんだ……

「そう考えると、やっぱり特訓が必要だな……」

「ねえ龍煋、あの金髪の子とは契約結んで無いの?」

そういえば、アルセリアには全部話したんだっけ。

「クラスルさんと契約を結んではいかがですか? <剣の世界>のことを知っているのに契約を結ばずにいるのは襲われたときに危険です。」

「そ、そうね、私もあんまり好ましくないけど、あの金髪は龍煋ともそこそこ相性よさそうだし。」

「んあ、そうなのか?」

「……私がもしも逆の立場だったら除け者は嫌ですので。」

「……あの金髪の気持ちはわかるから、私たちだけ得しているのは可哀そうだし。」

二人がうつむいて何かぼそぼそ言っている。

「二人ともどうしたんだ?」

「な、なんでもありません。」

「あの金髪とき、キスして契約しなさい!」

突然大きな声で言い出す二人。

「チセ、金髪じゃなくてせめてクラスルと呼べ。

契約かぁ~、またキスかよ。キスか……キス……アルセリアと……あれはキスなのか……」

呟いた途端二人が突然まくし立ててきた。

「煋雅、それはどういうことですか!」

「龍煋、その話、詳しく教えなさいよ!」

……?

「ええと、お二人さん……? どうされたんですか?」

「どうしたじゃないわよ! あの金……クラスルとき、ききキスしたの⁉」

なんで俺こんなに問い詰められてんの⁉

「したかしてないかと聞かれましたら、したような気がする、としか……」

「煋雅、はっきりしてください!」

シャロンまで……

「い、いつの間にかされていました!」

意を決し、本当のことを言った。

「龍煋って隙だらけよね……」

「煋雅はもっと周りに気を配るべきです。」

なんで?

「明日クラスルさんに確認を取ります。もしかしたらすでに契約が結べているかもしれません。」

「……わかった、じゃあ、明日だな。もしも契約ができてなかったら?」

「その時はもう一度してもらいます。」

「クラスル……やるわね。」

チセが何やら悔しそうな顔をしている。

「それでは、私は煋雅とまだ話があるので、東雲さんお先にどうぞ。」

チセがちらっとシャロンを見る。

「フェリエンス、抜け駆けは無しだからね!」

「そんなつもりはありません。」

再びにらみ合う二人。

「二人とも何の話してんだ?」

「いえ、なんでもありません。」

「じゃあね、龍煋。また明日学校でね。」

チセはそれだけ言うと、部屋を出て帰っていった。

「よし、そしたら母さんに話してくるわ。ちょっと待っていてくれ。」

「はい、煋雅のためならばいつまででも待ってます!」

な、なんか重い……

そして再びリビングへ。

「なあ、母さん。無理なお願いかもしれないんだけどいいかな?」

「どうしたのよ、突然。」

「あのさ、シャロンをうちに居候させてあげられないかな?」

「煋雅。本気なの?」

驚いたように言う母さん。

「聞いてくれ。シャロンはさ、今までずっと両親がいなくて一人だったらしいんだ。それで、俺と出会って、初めて心から信頼できる人ができた、って言ってたんだ。今住んでいるところは廃墟でなんだとさ。だから、せめて、暖をとれるうちに呼んであげようかなって。」

しばらく考えるようにしていた母さんだが、顔を上げると答えた。

「煋雅、あなたが言いたいことはわかるわ。でも、こればっかりは私一人では二つ返事で答えることはできないわ……お父さんが帰ってきたらそうだんしてみましょ。」

「そうか……まあ、そうだよな。無理言ってごめん。」

その後、その話は流れ、父さんが帰ってくるのを待つことにした。

「とりあえず部屋に戻りなさい。シャロンちゃんはお客さんなんだからほうっておいちゃダメでしょ?」

「わかった。」

部屋に戻り、シャロンにその旨を伝える。

「そうですか……。さすがに、そこまで迷惑をかけるわけにはいかなかったので大丈夫です。」

「そうか、期待させてごめんな……今夜はうちで夕食をご馳走してくれるらしいから食べてってくれ。その時に父さんと話すから。」

「わかりました。」

その後、床に寝転がり、寝る。

「シャロン、申し訳ないが少し寝かせえもらえないか? ここ数日いろいろありすぎて肉体的にも精神的にもまいっちゃってさ……」

シャロンが何か言いたそうに口を開いたが、微笑み、

「わかりました。お休みなさい。煋雅。」と優しくささやき、俺は本当に疲れ切っていたのか意識がプツンと切れた。

       ***

「爆睡しちまった。」

寝転がったまま窓を見ると、暗くなり始めていた。

「やべ、起きないと。」

起きようと体を動かすと腕に何かが当たった。

――フニッ

「んんっ、あぁ……」

「?」

当たった右腕を見て驚いた。

「しゃ、シャロン⁉」

俺の右腕を抱いて眠っていた。さっきの感触はシャロンの胸だった。

「い、一緒に寝てたのか……」

やわらかくて気持ちよか……

「いやいや、何考えてんだよ、俺。」

起こさないように、そして触れないように反対の腕で体を――

――プニッ

「……っ!」

反対側にも未知なる感覚が⁉

「な、こ、心葉(このは)⁉ お、お前もか!」

左腕は心葉によって抱きかかえられていた。

「すぴー、すぴー」

どうすればいいんだ? 俺の理性がいつまで持つかわからんぞ⁉

両端からフニプニフニプニされ、まともな思考すら働かない。

「あ~、頭痛くなりそう……」

その時、両腕から声が聞こえた。

「う、ふあぁぁぁ、せいがぁ? おあようございあす。」

「お兄ちゃん、おはよ~」

寝起きでろれつが回っていないシャロンと、

いつも通り寝起きの良い心葉。

「ふ、二人ともおはよう……て、時間でもないか。」

とりあえずあいさつしとく。

「むぅぅ、眠ってしまいました。」

「私も寝ちゃったみたい。」

なんで心葉まで一緒にいるんだろう?

「あああ! なんであなたも一緒に寝てるんですか!!」

「いいえ、こちらのセリフです。」

なんでこんなに仲悪いの⁉

この二人初対面だよな?

「お、おい二人とも落ち着け。何があったんだよ!」

二人に事情を聞く。

「今この人が煋雅を取ろうとしました。」

「この人が私のお兄ちゃんを奪おうとしたから!」

何言ってるかわかんねぇ。

「俺が寝ている間に何があったか説明してくれ!」

「……わかりました。」

       ***

時を遡ること数時間前

「お休みなさい。煋雅。」

横になり、目を閉じるとすぐに寝息をたてはじめる煋雅。

よほど疲れがたまっていたみたいです。

「短い時間ですが、ゆっくり休んでくださいね。」

そう言って煋雅の手を取る。

大きくてがっしりしてる。温かいです。

煋雅の手と自分の手を合わせ、そのまま握る。

「煋雅の手、私の手よりも大きいです。」

煋雅の手をそのまま胸元に持っていき、抱きしめる。

「今だけは、煋雅は私だけのものです。」

煋雅と同じように横になり、煋雅の腕を抱く。

「煋雅、撫でてください。」

煋雅の手を自分の頭の上に乗せる。

「こうしていると、落ち着きます。」

再び煋雅の腕を抱きながら眠っている横顔を見る。

煋雅は鈍すぎです。なんでみんなの気持ちに気付かないのですか? 今はそれでもいいです、少しずつ私と煋雅が同じくらいの強さになったら……

私、なんで会ってから二日しかたっていない煋雅をこんなにも好きなのでしょうか?

なんで煋雅はあんなにも強いのですか? 現時点でも、<剣の世界>で特訓を積んだ私よりもはるかに力を使いこなせています。

私も早く、煋雅と背中を合わせて、たたか、える、ような……

「ふぁぁあ、おやすみなさい。煋雅。」

シャロンは煋雅の隣にいるだけのつもりだったが、そのまま一緒に眠ってしまった。

       ***

――シャロンが寝てから一時間後。

「お兄ちゃん、いる? すごく静かなんだけど。」

そこにはお兄ちゃんと、さっき一緒に家に来た女の子がくっついて寝てた。

「……………。これは夢なんだね。だからこんなに静かなんだよ。そうだよ。私最近睡眠不足だから。」

そうひとり呟いて扉を閉め、隣の自分の部屋に戻ってほっぺたをを思いっきりつねる。

「い、いいい、痛い、痛い! で、でも、これは夢じゃない。よし、もう一度確認ね。」

もう一回お兄ちゃんの前に行ってドアを開ける。

「やっぱり…………なんでお兄ちゃんがこの人と一緒に寝ているの? もしかしてそういう関係なの!」

寝ているお兄ちゃんともう一人をよく観察してみる。

「むむむ、この人なかなか可愛い……お兄ちゃんは私よりもこの子がいいのかな。」

寝ているお兄ちゃんの横にしゃがみ込み、お兄ちゃんのほっぺたを突っつく。

「私、本当に心配していたんだよ? それなのに女の子を二人もつれてきて。どうせお兄ちゃんのことだから、ただ何気なく助けた女の子の一人なんだろうけど。」

そして、お兄ちゃんの腕を抱いて寝ている女の子を見る。

「どこの人なんだろ? きれいな銀髪だし。」

もう一度お兄ちゃんを見る。

寝ているお兄いちゃん見ていたら私まで眠くなっちゃったよ。

「おやすみ、おにーちゃん。」

お兄ちゃんの腕を抱きしめ、反対側の女の子と対象になるようにして、私も寝てしまった。

       ***

二人の話を聞いていると俺が寝ていたから寝てしまったみたいだ。 

原因が寝てた俺のような気がする……

「せいが~、このは~、シャロンちゃ~ん。夕飯の支度が出来たわよ~」

おお、ナイスタイミング母さん!

「二人とも、夕飯だから下行こうか。」

「はい、煋雅。」「わかったよ、お兄ちゃん。」

……二人の声がハモった。

「「むうぅ」」

睨み合っているし……

「心葉、ひとまず休戦にしてシャロンを歓迎してやってくれないか?

 これから居候するかもしれないんだから。」

なだめようとしたが逆効果だったらしい。

「なんですってぇぇぇぇぇぇぇ!?」

「落ち着け、ホールド、ユア、ホルセズ。」

「煋雅、それを言うならホールド、ユア、ホースェズですよ?」

横から慣れない英語を訂正された。

「お兄ちゃん、ううう、私というものがありながら……」

「心葉、申し訳ないが俺はお前を妹以上に見ることはできないぞ?」

「ぐはぁ!」

まるで殴られたかのように腹を押さえる心葉。

「お、お兄ちゃん、なかなかやるわね。」

いえ、何にもしてないです。

「わかったよ~シャロンさんを認めればいいんでしょ? だから私を好きになってぇ!」

飛びついて来ようとする心葉をかわし、言う。

「んじゃあ、決まりだな。母さんたち待ってんぞ。」

「っく、お兄ちゃんのくせにやるじゃない。」

なんか俺を見下している気がするけどほっとく。心葉の扱いは大体こんなもんだ。

「よろしいのですか?」

「ああ、そのうち元通りになる。」

       ***

 リビングについて机の上を見ると、嬉しいことに母さんお手製の手作りハンバーグだった。

「おお、うまそう。俺が寝ているうちにこんなものを用意するとは……」

「煋雅、あなた女の子放っておいて寝てるなんて……彼女できないわよ。」

「そ、それは仕方ないことだ。うん、眠かった。スイミンダイジデス。」

「そうです、煋雅に彼女は必要ありません。私がずっとついています。」

なんか重い、重いぞシャロン!

「あら、煋雅よかったじゃない。とりあえずご飯にしましょ。」

「母さん、なんか突っ込んでくれ!」

「はい。」

「んご!」

口にきゅうりを突っ込まれた。

「ガリッ、あ、俺の好きな浅漬けだ、ってそうじゃない! 突っ込むの意味が違う!

……もういいや、ご飯にしようぜ。」

そう言って椅子に腰を下ろす。すると、待っていたかのように両隣が埋まる。

――スッ

シャロンが右に、心葉が左に陣取った。

またこの二人に挟まれるのかよ……

――ガチャンッ

「今帰ったぞ。」

父さんが帰ってきたみたいだ。一度席を立ち玄関へ向かう。

「父さんお帰り。ちょっと話があるんだけどいい?」

「どうした?」

「シャロンをうちに居候させてあげたいんだけど……」

「しゃ……ろ……ん……」

父さんがシャロンの名前をつぶやき、考え始めた。

「いや、だめならいいんだけど、女の子なのに廃墟で生活しているっていうから……」

「その子を連れてきてくれないか?」

「え? ああ、わかった。」

疑問に思いながらもシャロンを呼ぶ。

「シャロン、父さんが呼んでいるから来てくれないか?」

「煋雅のお父さんが……? わかりました。」

シャロンもやはり疑問に思ったみたいだが来てくれた。

「シャロン、この人が俺の父さんだ。」

「…………! し、ししょ……もごご……」

「父さん⁉ 何してんの!?」

父さんが突然シャロンの口をふさいでいた。

「煋雅、先に母さんたちと食事を始めていてくれ。俺はこの子と少し話してから食卓に着く。

 母さんにもそう伝えてくれ。いいな?」

「あ、ああ、わかった。」

父さんどうしたんだろ。随分取り乱していたみたいだけど……

「母さん、父さんはシャロンと話しているから先に食べてろってさ。」

「あら、そう……なら仕方ないわね。」

母さんはそれを聞いてあっさりと受け入れた。

「何も聞かなくて、いいのか?」

「別にいいのよ。あの人は隠し事が多い人だけど、考えていること、やることは間違っていたことがないわ。だから、何も話してくれないときは特別な事情があるの、私はお父さんを信じるだけよ。」

母さんは父さんを心から信頼しているんだな。話してくれなくても信じる、か……俺もそんな信頼できる人が将来できたらいいな……

しばらく三人で食事をしていると、シャロンと父さんがリビングへとやってきた。

「母さん、この子をうちにおいてやることにした。煋雅に言われたからではなく、俺の個人的な問題もあってだが。申し訳ないがいいか?」

「そう……お父さんが言うならそれなりの理由があるのね……煋雅の人助けはやっぱりお父さん譲りなのかしら……」

母さんは突然そんなことを告げられ、困惑しているようだが了承したようだった。

「煋雅、この子の面倒はお前が見てあげるんだ。元をただせばお前の責任だ。部屋も寝泊まりだけだろうからお前の部屋を半分ぐらいあけてあげなさい。

それと、後で話がある。食後にお前の部屋に行くから片付けておきなさい。」

「え、あ、そ、そうだよな。わかったよ。……シャロン、よくわからんが後で何があったか聞いていいか?」

「…………正直私も少し困惑をしているのですが、食事の後に煋雅のお父さんが三人で話したいことがあるそうなので、その時にわかると思います。」

意外なことにシャロンも状況がうまく飲めていないようだった。

 いったい何を話してきたんだ……?

「さ、シャロンちゃんもお父さんも食べちゃって。」

「ああ、すまないな。」

「は、はい。いただきます。」

そして、夕食は静かに済まされた。

       ***

夕食が終わり、父さんとシャロンの三人で俺の部屋へと向かった。

「父さん、どういうこと? 俺はてっきりだめだと言うと思ったんだけど。

 それに、父さんと話した後のシャロンの様子がきになってさ。」

「せ、煋雅、それは――」

「それは俺から話そう。」

シャロン焦ったように言おうとしたが、父さんに遮られた。

「え、どういうことなんだ?」

「焦るな、全部話す。だが、今から話すことは母さんにも話していないことだ。

 母さんと心葉には話さないように頼む。」

「……ああ、わかった。」

本当に大切な話らしい。いつにもまして険しい顔つきだ。

「話を始める。

 まず、俺の勤める会社は<()の(・)()()>に(・)あ(・)る(・)。」

……………今のは俺の聞き間違いか!?

「父さん……今<剣の世界>って言った?」

「ああ、言ったが? 聞き取れなかったか。」

え、ちょっと待て、は? 嘘だろ?

「父さん、それ、本当なのか? それって要するに異世界だよな?」

「ああ、間違いない。信用できないようならフェリエンスから聞けば確信を得られるだろう。」

突然話題に上り、シャロンがビクッと肩を震わせた。いつもの落ち着いた態度とは一変して幼い子供のようだ。

「は、はい。ええと、この方は、わ、私に体術を教えてくださった、し、師匠です。」

「………。はぁぁぁぁぁぁぁ⁉」

え、ちょっと待って、どういうこと?

「煋雅、詳しく話すから聞いてくれ。」

俺は生まれて初めて父親の職業の正体を知ったのだった。

       ***

まさか自分の息子が“異世界”に関わるとは思っていなかったから、はじめにフェリエンスから聞いたときは少しばかり耳を疑った。

だが関わってしまった以上話さないわけにはいかない。

俺の仕事は、<剣の世界(グレイシス)>で<(グレス)>の研究と、体術を教えている。フェリエンスはその体術訓練の生徒の一人だった。

「そうか、だから父さんは俺にあんなにも格闘技をやらせたのか。」

まあ、そういうことになる。人を守るときに自分が弱くては話にならないからな。

 俺は母さんと結婚した後に<剣の世界>の存在を知った。

 事の発端は十年前。

その時はさすがの俺でも驚いた。突然目の前に黒い靄が現れたと思ったらそこから人が出てくるのだから。

そいつは突然俺に襲いかかってきた。

力がかなり強く、一瞬驚いたが体術を駆使して返り討ちにすると、なぜか突然態度を変え、ついてきてほしいと言って半ば強引に靄の中へと引きずり込んだ。その中は巨大な帝国だった。中心に城があり、そこを取り囲むように町があった。

俺を引きずり込んだ男は俺に力の強さだけでなく、技術を駆使する体術を生徒に教え込んでほしいと頼まれた。俺は状況が全く分からず、男に説明を求めた。

すると、恐らく煋雅もフェリエンスから聞いたと思うが『フレイム・ファランクス』についてのことを聞いた。

俺は完全に部外者だがどうも、やはりこの性格のせいかどうも放っておけず、つい引き受けてしまった。

一応教師として扱われるのか、高い給与が出るようだったから前に勤めていた会社には辞表を出してきた。

「なぜに⁉」

人を助けるなら全力でやらないと気が済まなくてな。

体術を教えると同時に<剣>についての研究にも携わった。言っておくが煋雅、お前よりも<双剣の誓い>については詳しいからな。

ちなみに俺は移動のときに使用する<リミニ>の供給源としてほかの研究者と握手(クロサー)で契約を交わしている。

<剣>はナイフだったな。

フェリエンスと知り合ったのは三年前で体術訓練の生徒だった。高い能力があって教えがいがあったな。

しかし、ここしばらく見ないと思ったらこっちに来ていたわけだ。それを咎めるわけではないがもしかしたらスルトにやられたかもしれないと心配していたのだが、まさか俺の息子と契約を交わしていたとは、いくら予言にあったとしても驚いた。

<剣の世界>には東雲もいたが口止めしておいたからお前は知らなくて当たり前だ。

俺の説明は以上だ。

       ***

父さんが語り終え、一息ついたところで俺は父さんに言った。

「あんたはいったい何をしとるんじゃぁぁぁぁぁぁ!」

渾身の叫びだった。

「煋雅、うるさいぞ。別に問題はないだろう。<剣の世界>を救う手伝いをしながら家族を養える。これは理想的な仕事だ。」

「はぁ、もういいや。まさか父さんが<剣の世界>で働いているとは……」

「私も師匠が煋雅のお父様だとは知りませんでした。」

だけど、父さんの人助けもここまで来るとさすがに度が過ぎているな。

「母さんには言わないのか?」

「母さんと心葉には話さない。下手をしたら巻き込んでしまう。本当はお前にも話さないつもりだったが、俺の教え子が勝手な行動をとったから巻き込んでしまった。だからやむを得ず話しただけだ。二人には絶対に知られないように注意するんだぞ。

 二人に探られないようにお前たちにはこの煋雅の部屋で過ごしてもらう。窮屈な思いをするかもしれないがフェリエンスを助けると思えば煋雅もいいだろう?」

「まあな、父さんから女の子はとりあえず助けてやれって言われたからな。」

少し胸を張って父さんに言い放つ。

「煋雅、それはたとえの話であって、別に女の子だけを助けてあげろと言ったわけじゃないんだが……小さいころだし仕方はないか。

煋雅、それと、これだけは言っておくぞ? 予言を見て俺は知っていたんだが、現実となった今お前はこの先『フレイム・ファランクス』と戦うことになるだろう。だが、絶対に死ぬな。<剣の世界>を救うことも大切だが、それ以前にお前は俺の大事な息子だ。お前の性格も考えて、無茶をするなって言うのは無理だと分かっている。だが、絶対に死なないでくれ。これは父さんとの男と男の約束だ。頼んだぞ!」

父さんはそういうと立ち上がった。

「話はこれだけだ。お前たちは母さんと心葉に感づかれないようになるべく自然にふるまってくれ。それと、俺の仕事についても話さないでおいてくれ。」

そして、それだけ言うと、部屋から出て行った。

「はぁぁ、疲れた……まさかシャロンと父さんが知り合いだったなんて。」

「そ、そうですね。」

まだシャロンの様子がおかしい。

「どうした、シャロン?」

「い、いえ、その、師匠はとても厳しいので、えと、少し、苦手意識が……」

まだ小刻みに肩が震えている。

父さんはいったいどんなスパルタ教育をしたのだろうか?

「安心しろシャロン。」

そう言って頭をなでる。

「せ、煋雅?」

「大丈夫だ。俺の父さんは厳しいけど優しい人だ。怖がる必要はない。」

「そう、ですか……わかりました。煋雅、もう少し、このままでいいですか?」

そう言ってシャロンが寄り添ってきた。

「落ち着くまでいつまででもいいよ。」

俺はそう言って、シャロンが眠ってしまうまで、まるで子を見守る親のように優しくなで続けた。

       ***

なんだかんだあって、シャロンと二人で同じベッドで寝ることになってしまった。

何かのトラウマを刺激されたかのように怯えるシャロンを見ていたらそばから離れられなかった。

…………これは拷問か?

――ふにゅん

――ふにふに

――すーすー

背中全体にシャロンのやわらかい感触が、薄い寝間着越しに伝わり、首筋には寝息がかかり、さらにシャロンの体温まで感じる。

当の本人は既に夢の中だし、シャロンの小さいけど確実に女の子を主張している胸が俺の背中にもろで当たっているため、思春期真っ只中である俺にはとても我慢しがたい状態である。

「おお、収まれ俺の煩悩。シャロンは俺を信頼しているからこんなに無防備なんだ。俺が何かをしてはならん!」

無心になれ、心を空にするんだ!

――ふにふに

再び背中にやわらかい感触が……

シャロンが寝ながらも強く抱き付いてきたらしい。

「せいが、それ以上は、あ、」

……⁉

変な寝言を言わないでくれ!

「しかたないか……」

シャロンを優しく離し、ベッドから出て床に寝っころがり、やっとのことで睡眠をとった。



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