三章・過去の知人と伝説級(レジェンドクラス)
「ん? ここは?」
目を開けると見慣れない場所にいたので一瞬焦ったが、
昨日のことを思い出し、保健室だと気付く。
「ああ、あの後知らないうちに寝ていたのか。」
ハッとして布団の中を覗く。
「……すぅ、……すぅ。」
シャロンが気持ちよさそうに寝ていた。
「どうするかな、そろそろ先生が来そうだから出てもらいたいんだけど起こすのは可哀そうだな……」
しかし見つかったら大変なことになりそうだ。
「シャロン、起きてくれ。」
言いながら頭を軽くポンポンと叩く
「んぁ、ぁぁぁ。おぁよぅございます。」
眠そうにあくびをしながら布団から出てくるシャロン。
「煋雅ぁ、あったかいです。ぎゅうってしてください。」
そのまま俺の腰に抱き着いて寝息をたて始める。
「お、おい、シャロン⁉ 起きてくれ頼む! 誰かが来ないうちに!」
そのとき、やはり誰かが病室へときた。
「龍ヶ峰君、調子はどうかしら?」
「……」
「……」
「……は、はい。なかなかです。」
「龍ヶ峰君、昨日は帰りなさい、と言ったはずなんだけど……しかも女の子をベッドに連れ込むのは……」
そういってジトッとした視線を送ってくる。
「い、いや、違くないけど違うんです!!」
「わかったから、静かに。」
「はぁ、わかってくれてよかったです。」
先生は扉を開け、出ていくときにさらっと言った。
「龍ヶ峰君、とっとと教室に戻りなさい。」
「…………」
完全に誤解されてしまった。
「はああぁぁぁ。」
大きなため息が出た。
「煋雅、悩み事ですか? 私が聞きます。」
俺の腰に抱き着いたままシャロンが言ってくるが、その原因はシャロンなんだけどな。
「シャロン、教室戻るぞ。」
「はい、わかりました。」
俺はシャロンと共に教室へと向かった。
***
――ガラッ
「おはようございます。遅れました。」
――サッ
なぜか視線が集中した。
「なんだ、龍ヶ峰かよ。」
「二人で仲良く遅刻かよ?」
「龍ヶ峰、大丈夫か? 怪我したんだってな。」
どうやら先生からみんなに伝えられたらしい。
「俺がタフなのはみんなが知っているはずだろ? 俺はこの通りピンピンしているさ。」
「煋雅、ちょっと。」
秀樹が手招きして呼んでくる。
「なんだ?」
「なんかね、このクラスに転校生が来るらしいよ?」
あれ、昨日シャロンが来たばっかだよな?
「はぁ? 転校生?」
「うん、そうなんだよ。また、転校生が来るんだよ。」
少しというか、かなり不思議だ。この時期にシャロンも入れて同じクラスに二人も転校生が来るなんて。
いや、でもそうだな、
「この学園ならおかしくもないか。」
「そうだね。今先生が転校生を呼びに行ったところなんだけど、その時タイミングよく煋雅が来たからみんな期待しちゃったんだよ。」
「そうだったのか。だから視線が集まったのか。」
「とりあえず座っておきなよ。」
秀樹に促され、席に着く。
――ガラガラ
「お待たせしました。転校生を紹介します。
東雲さん、どうぞ。」
――ガラッ
「失礼します。」
――カツカツカツ
――カタッ、カッカッカッ
その転校生の少女は教室に入るなり、チョークを握り名前を書き始めた。
そして、書き終えた後振り向き、自己紹介を始めた。
身長が高く、スラッとしている(胸囲も)。髪は水色でシャロンより長く、アルセリアよりも短いぐらいの長さの髪を一つに縛っている。顔は整っていた。目つきはなんだか攻撃的で瞳は緑色をしていた。碧眼だっけか?
「今日からクラスル学園高等部2年1組に転入します。
東雲 千歳です。よろしくお願いします。」
自己紹介をする彼女だったが、なぜか俺を睨みつけている気がする。
その時、チャイムが鳴った。
「皆さんに一つ質問です。
“デュアルレゼリション(・・・・・・・・・・)”って知っていますか?」
「「「!!!」」」
俺たち三人は言葉を失った。秀樹とシャロンも驚いたようだ。
「知らないみたいですね。ありがとうございました。」
「はい、個性的な自己紹介をありがとうございます~。
席は……どこが空いているかしら?」
「先生、僕の後ろにスペースがありますよ?」
誰かが答えた。
「では、東雲さんはあそこの席ですね。委員長と副委員長はまた机といすを運んできてくださいね。」
「「はい」」
「ホームルームを終わります。各自で休み時間にしてください。」
そして、転入生は先ほど言われた場所に移動する際に、俺の横を通り過ぎる時、耳元でこういった。
「”龍煋“、私は<剣の世界>から来たのよ?」
「っっ!?」
すぐに振り返ったが、彼女は何食わぬ顔で机といすを運んできた委員長と副委員長にお礼を言い、席についていた。
ちなみに美少女にお礼を言われた二人は舞い上がっていた。
その後、授業中などに時々東雲の様子を見たが、特に気になる点はなかった。
***
『連絡いたします。龍ヶ峰煋雅さん、シャロン・フェリエンスさん、仁科秀樹さん、東雲千歳さん(・・・・・・)の四人は放課後に第二会議室にお集まりください。』
帰りのホームルーム中に、アルセリアの声でそんな放送が流れた。
なんなんだ? それに、あの転入生もか?
「今呼ばれた人はちゃんと行ってくださいね。それではホームルームを終わります。」
「起立、気を付け、礼」
「「「「さよなら」」」」
そして、放課後となった。俺、シャロン、秀樹の三人で第二会議室室に向かいながら、場所がわからないようで後ろからついてくる東雲へと視線を送った。
「二人とも聞いてくれ。」
「なに?(なんですか?)」
二人が耳を寄せてくる。
「あの子が、さっき俺に<剣の世界>から来たって言ったんだよ。どう思う?」
「まだよくわかりませんが、私と同じ世界から来ましたか……」
「僕にはよくわからないけど、気を付けたほうがいいね。」
話しているうちに会議室へと着く。
「「「「失礼します。」」」」
「皆さんこんにちは。座ってくださいますか?」
シャロンと秀樹が俺の両端に座る。
「アルセリア、俺たちはなんで呼ばれたんだ?」
「それは順番に話していきますわ。煋雅さんも座ってくださいな。」
全員が席に着いたところでアルセリアが話し始める。
「昨日煋雅さん無事を確認した後に、わたくしが学園長室に戻ると学園への転入希望者がいました。その方はわたくしにこう言いました。
『龍ヶ峰煋雅と<双剣の誓い(デュアルレゼリション)>を結びたいんだけどこの学園にいるわよね?』
と、こんな感じです。その転入希望者がそこにいます、東雲さんですわ。」
三人の視線が東雲へと向かう。
「なんで東雲は俺のことを知っているんだ?」
「龍煋、やっぱり覚えてないわね。あんたはいつもそうなんだから!」
ずっと黙っていた東雲が突然キレた。
「お、おい、どうしたんだよ? そもそも俺の名前は煋雅だぞ。誰かと勘違いしてんじゃねぇのか?」
「信じらんない! それまで忘れたの!」
さっきまでは大人しい子だと思っていたが違うようだ。
「いや、俺は東雲と初対面だろ!」
「……じゃあ、これなら、わかる?」
東雲は突然うつむき、恥ずかしそうに言い、髪をほどき始めた。
そして、その水色の髪の両端をを持ちツインテールにした。
「……ああああぁぁぁぁぁぁ!!! お前、“チセ”かよ!?」
「はぁ、やっとわかってくれたわね。久しぶり。」
小学生の頃の記憶が一気にフラッシュバックした。
「そうだ思い出した。俺の名前をそのまま呼ぶのは嫌だから私だけの呼び方をしたいっつって龍ヶ峰煋雅の龍と煋を取って、“龍煋”ってあだ名で呼んでいたな。そのくせ自分はチセって呼んでって言ったきり本名教えてくれないし。」
「し、仕方ないでしょ! ……みんなと同じは嫌だったんだから。」
下を向いて何やらごにょごにょ言っている。
「まあ、なんだ、昔とすげぇ変わっていたから気づかなかったんだ。ごめんな、チセ。」
「わ、わかってくれればいいのよ。」
「申し訳ありませんがよろしいですか? あなたは煋雅さんのなんですの?」
と、しびれを切らしたアルセリアが割って入ってくる。
「私は龍煋の幼馴染で将来を約束した仲よ。」
無い胸を思いっきり張っている。そしてなぜかドヤってる。
「煋雅さん、わたくしとのお付き合いを拒んでいたのはこの方がいたからですの⁉」
「いや、チセとの婚約は両親が決めたものだから、お互いの思い人ができたら破棄されるもんだ。
アルセリアにはもっと能力の高いやつがあっていると本当に思っているからだよ。
こんな美少女から本気で告白されたら断れねぇよ。」
「び、美少女だなんて、煋雅さんったらもう。」
照れているようで、両手で頬を押さえて身をよじっている
「それでは、その婚約は破棄ですね?」
突然シャロンが会話に混じった。
「どういうことよ!」
シャロンをキッと睨むチセ。
「煋雅の思い人が私だからです。」
ああ、またしてもシャロン、君がこの場をかき回すのか……
「な、なああ、あ、う、嘘よ! そんなの嘘に決まっているでしょ!」
「本当です。煋雅から初めてをいただきました。」
「な、あ、あああ、煋雅! どういうことよ!!」
チセが涙目でこっちを向いた。
「お、おいチセ。落ち着け、ちゃんと説明するから。大人しくしてくれ。」
そういいながら俺はチセの頭をなでる。すると、秀樹を除く二人がいきなり足を蹴ってきた。
なんで⁉ しかもシャロンまで!
「りゅ、りゅうせい……、ほんと? 私がわかるように、説明してくれる?」
「ああ、最初から話すから、落ち着いて、な?」
やっと泣き止むチセ。
「ふ、ふん、じゃあ聞いてあげるわ。私が納得いかなかったらだめだからね!」
「わかった。一から説明するぞ?」
そして、今日のこの時間までのいきさつを説明した。
***
「な、なんですってええええぇぇぇぇ!?」
聞き終わるなり悲鳴のような声を上げるチセ。
「だ、だから、お、落ち着け、驚くような話だということはわかっていたけど!」
「そこじゃないわ! 私が言っているのは、なんでそこの小さいのと、龍煋が契約を結んだのか、よ! そもそも私は<双剣の誓い(デュアルレゼリション)>については知っているから!」
そうだった、チセは俺に<剣の世界>から来た、って言ってたしな。
「あれは成り行きで仕方なかったんだよ。」
「……龍煋は成り行きで女の子とキスするんだ。」
「え? 今なんて?」
すると、突然チセが顔を上げ、こちらに飛びかかってきた。
直後、チセの顔が目の前にあった。
「んっ、こ、これで契約完了ね。」
チセは顔を赤らめながらそう告げた。
「…………」
俺は頭が真っ白になり、いまだに理解ができていなかった。
「し、東雲さん! あなたという人は! 煋雅さんの唇を勝手に奪うなんて! 煋雅さんはわたくしのものですのよ!!」
いや、だからアルセリアのもんじゃねぇし。
「シャロン・フェリエンス。これで私とあなたは対等よ。私と勝負しなさい! 負けたほうが煋雅との契約を破棄するのよ! いいわね?」
全く話に追い付けなかった。
「わかりました。そこまで言うなら引き受けます! 煋雅は私のパートナーです!」
なんかシャロン、少し怒っている?
「じゃあ、今から私が<ナザレータ>を生み出すからみんな付いてきなさい!」
……話が読めぬ。
「ムーブ<無の領域>」
チセが何やら唱えるとあの黒い靄が出現する。
「入って。ここは何もない空間だから思いっきり戦えるわ。」
「お互いに腕試しにはちょうどいいですね。」
「わたくしもいきますわ。」
「僕も行こうかな。」
…………
「え、なに、どうなってんの?」
皆の顔を伺うがみんなが、俺の言う意味が分からない、という顔をしている。
「いや、そもそも煋雅、君が原因だからね?」
…………?
「相変わらず鈍いわね……」
「煋雅って実はかなり天然だったりする?」
「いやいや、俺が天然なわけないだろ。」
そしたら世界のみんなが天然だな。
「龍煋、あんたは絶対に来なさいよ! あんたが来なくちゃ意味がないんだから。」
チセに睨まれる。
「わかったよ。行けばいいんだろ? そのかわり、危なくなったら止めに入るからな?」
俺が同意したことにより全員が<無の領域>“異世界”へと行くことが決まった。
「じゃ、ここに飛び込んで。」
――ヒュン
そう言って<ナザレータ>へと飛び込むチセ。そして、みんなも習って入っていく。
「面白そうだね。次は僕が。」
秀樹が入り、
「さて、どうなるのか楽しみですわね。」
アルセリアが悠然と歩いていき、俺とシャロンが残された。
「シャロン、どうしてこうなったんだ……」
「言いにくいですが、煋雅のせいです。」
正直に言われて軽く落ち込む。
「そうなんだよなぁ~。あんまり巻き込みたくなかったんだけど……もう遅いか。そもそも俺が秀樹に話した時点でアウトだったな。」
首を振って否定するシャロン。
「根本的な考えが間違っていると思います……」
「つか、そもそもシャロンがいきなり抱き着いてこなきゃさ、
こんなことにならなかったんじゃ――」
――ヒュン
って、都合が悪くなって逃げやがった。
「はぁ、仕方ねぇかとりあえず、終わったら詳しく話を聞こうかな。」
そして、意を決して<ナザレータ>へと飛び込む。
――ヒュン
その後、すぐに反対側から飛び出した。
――ザクッ
靴がこの世界の地を踏みしめる音がする。
「ここが<無の領域>……」
本当に何もない、ただの平地だった。
「龍煋! 遅いわよ!」
チセに怒られる。
「ごめんごめん。」
そして、二人が向き合い、<剣>を召喚する。
「永きにわたる時を超え、私に聖なる力を、いでよ
<ホーリーフラグメント>!」
シャロンの手から光がほとばしり、直後、シャロンの手には一振りの光輝く剣が握られていた。
「そ、それは⁉ もしかして、あの<二振りの剣>の片割れ⁉」
チセが冷や汗を流している。
「私の<剣>は煋雅と対となる最強の剣です。」
「そ、そんな……じゃあ、私は伝説の二人の生まれ変わりではないの……」
チセが<剣>を召喚せず、何かをシャロンにつぶやいている。
「それでは、この勝負は終わりでよろしいですか?」
「そ……わけ………でしょ。」
チセはうつむき、何かをつぶやいた。
「東雲さん? 何か言いましたか?」
「そんなわけないでしょ、て言ったのよ! 龍煋のパートナーは私よ! 他の人には絶対にわたすわけにはいかないわ!」
叫んだ瞬間チセから何か、とてつもない力があふれ出してきた。
「さて、私の<剣>はなにかしら?」
手を前に付きだし、言葉を紡ぎ始める。
「封印されし太古の剣よ、私に伝説と呼ばれし力を与えたまえ!」
しかし、チセの手元には何も出現しなかった。と、その時地面が大きく揺れた。
そして、地面が割れ、間から異常な大きさの大剣が出てきた。
「な、あれが女の子の扱う武器かよ!?」
その大剣の長さは二メートルを超え、幅は一番あるところで五十センチはありそうだ。腕を守るカバーのようなものが鍔から柄の真ん中かけて付いていた。刃の部分は土色、紅色、黄土色そんな感じの色が混じったようなものだった。
「伝説の豪剣<バルムンク>ですか……」
「<バルムンク>……伝説聞いたことがあるよ。ジークフリードが英雄として名を轟かせたときに使っていたといわれる大剣。」
秀樹が誰に言うでもなく説明をしてくれた。
「あれが……チセの<剣>……」
思わず感嘆の声が出た。
「龍煋、私のほうが強いところをみせてあげるわ!」
一瞬こっちを振り向いたチセの目は燃えるような赤い目に染まっていた。
チセは現れた<剣>を握り、シャロンに向けて構える。その後、大剣を持っているとは思えないスピードで走り、シャロンへと切りかかった。
――ギィン
耳をつんざくような音が鳴り響く。野球のフルスイングのような鋭い一撃をシャロンが自分の<剣>で防いでいた。
「くぅ、なんて重さっ!」
チセはすぐにシャロンから離れ、間合いを取ると剣のリーチを生かし、シャロンの間合いに入らないように攻撃を始めた。
二メートル越えの大剣が縦横無尽に斬撃を繰り出す。
「まるで、あの大剣が体の一部かのように振り回しますわね。
ですが、少し野蛮ですわ……」
アルセリアが呆れたようにつぶやいている。
振り下ろされる大剣をすべて長剣ではじくシャロンだが、やはり押されている。
そして、チセが勢いをつけて一回転させた斬撃を殺し切れず、飛ばされるシャロン。
「シャロン!」
飛ばされたほうを見やると、<剣>を杖のようにして体を支え、フラフラと立ち上がるシャロンの姿があった。
「ははは、私はまだ能力を使ってないからねぇ!」
突然<バルムンク>を地面に突き立て、叫ぶ。
「アースブレイク!」
直後、先ほどとは比べ物にならない面積の地面が崩れていき、いくつもの岩石となりシャロンへと狙いを定め突き刺さる。
「やめろチセ! シャロンを殺すつもりか!」
「そうよ! 消すつもりよ! 龍煋を奪った罪は重いのよ!」
「シャロン、大丈夫か!」
すると、俺の声に呼応するかのように岩石の塊が揺れ、全てが四方に飛び散った。
そこには光り輝くバリアのようなものが張られていて、その中心にシャロンがいた。
「私もまだ<剣>の能力を使っていませんでしたね。私の能力は煋雅と同じ光です!
今のは<セイクリッド・フィールド>光の障壁により、攻撃を防ぎました。」
「なめたことしてくれるわね! 今度はどう? <グラウンド・トランス>」
一面に散乱していた土がうごめき、シャロンの後ろへと巨大な壁を作った。
「これをどうするつもりですか?」
シャロンが警戒の色を浮かべる。
「こうするのよ!」
チセが<剣>を振ると、壁から飛び出した土が一斉に動き、シャロンを岩石の壁に叩きつけ、そのまま拘束具のように体を固定する。
「ぐっ、うう」
――カランッ
拘束されたシャロンの足元に何かが落ちる。
<ホーリーフラグメント>だ。
「あははは、<剣>がなけりゃもう何もできないわね! これで終わりよ?
<グラウンドランス・バレッド>!」
チセの眼前に巨大な岩石の槍ができ、猛スピードで回転を始めた。
あんなものが刺さったらいくら肉体が強化されていても耐えられない!
「いい加減にくたばりなさい!」
槍をシャロンめがけて投擲し、勝ち誇るチセ。
「くそ……やめろぉぉぉぉぉ!」
俺はその場を飛び出し、動けないシャロンの前に立ち<剣>を召喚する。
「来い<ライトフラグメント>!」
現れた剣を握り、槍へと一撃を放つ。
「<ライジングブレイク>!」
技名は今なんとなく叫んだが剣の刀身に稲妻が走り、横薙ぎの一撃で剛槍を粉砕する。
「なんで⁉ 私の渾身の一撃が!」
「なあ、チセ。やりすぎなんじゃねぇか?」
怒りを押し殺してチセへと問う。
「やりすぎなんてないわ、あなたも消してほしい?」
この瞬間理解した。
チセは怒りのあまりに我を忘れていた。さらに、きれいだった碧眼は真っ赤で血のような灼眼へと変わっていた。
「チセ、許せよ。お前を放っておけないんだ。」
地面を蹴り、接近し、剣の柄でチセの腹を殴る。
「ぐはっ!」
チセはそのまま気を失い力なく倒れる。
肉体強化がされているから、恐らく死んでしまう心配はないだろう。
そして、足元に転がった大剣を見る。禍々しく輝いていた。
「せ、煋雅さん、大丈夫ですの?」
「ああ、大丈夫だ。恐らくチセは、この<バルムンク>に心を支配されていたんだ。
伝説級の<剣>はおそらく扱いが難しいんだろ。怒りにまかせて振るうと<剣>に心が負けて、心が支配されて、全てを破壊しつくすのかもしれない。」
横たわるバルムンクを眺め、再びつぶやく。
「永い眠りから解放されて暴れたかったのか?
もう満足か? 次は俺が相手してやってもいいぜ?」
その後、バルムンクの力が失われて、拘束から解放されたシャロンの元へと向かう。
「シャロン、大丈夫か?」
「はい。煋雅、また、守ってくれましたね。」
複雑そうに言ってくる。
チセのことがあるからだろう。
「ああ、シャロン、お前のことは何度でも守ってやる。」
「東雲さんはどうするのですか?」
「とりあえず、俺が連れて帰るよ。」
横たわるチセに目を送る。疲れ切ったように目を閉ざしている。
「そうですか。では、私が<ナザレータ>を開きます。」
「ああ、頼む。
秀樹、アルセリア、シャロンと一緒に戻るぞ。」
「うん、わかったよ。」
「なかなか、恐ろしいものでしたわね。」
シャロン、秀樹、アルセリアが、戻った後、俺はチセをおぶり、<無の領域>を後にしたのだった。