間章-魔人考
魔人考 ハドロフ=ヴォルコンニチ=ヴォルコンスキー著
サンプルAについて考察する前に、まず魔人そのものについて考えてみたいと思う。魔人とはそもそも何なのか。それは不明である。
どこからやってきたのか、いつの頃から存在するかについて文献は黙して語らない。
ただ十字軍が結成される頃にはすでに存在していたことがわかる。その証座はこのクリエムヒルト寺院――昔は騎士団だったが――がそのころから存在し、活動していたことから類推するものである。
次に魔人は何故人に害を与えるかについてである。理由は二種類考えられる。まずは単純に食料として、第二は自らの類縁を作成し、種として繁栄するためだと思われる。
この食料としての扱いと類縁を増やすことについての扱いは完全に人間の取り扱い方として矛盾している。その矛盾をなんとも思わないところが魔人の忌まわしさであるとも言えるだろう。
次に魔人の武器について考える。魔人のもっとも恐るべき武器はその右手に宿る赤蛇である。それを太陽よりも高く天にかざし握りしめることで周囲の生きとし生けるものの命を刈り尽くすことが可能である。そのとき手から赤い尾を引く光が見られるため、赤蛇と名付けられている。その他にも強靱な身体、驚異的な身体能力なども恐ろしさに上げられるが、なにより恐ろしいのは不死であると言うことである。
不死というのは語弊があるかも知れない。倒す方法が存在するからだ。それは一親等の血を分けた存在の血――これは相手が魔人、人間を問わない――によって魔人は殺すことが可能だからだ。しかしそれ以外に魔人を倒す手は存在しない。
さらに深く考える。魔人の食料についてだが、魔人は人間の肉体をそのまま喰らうわけではない。人間の生命力を奪ってそれを食べたことと見なす。その場合体力の回復、傷の治癒、精神の高揚などの特性が見られる。よって魔人と事を構えるに当たっては消耗戦は避けるべきであろう。
また生命力を奪うのは人間に対してだけではない。動物や植物からでもその生命力を奪うことが可能だ。よって草木生い茂る夏場の戦闘は避けるべきだろう。もっとも夏場はなかなか魔人も姿を現さないけれども。その理由は食事がそれで足りてしまうからであると思われる。
夏の間の魔人は森や山の奥深くに潜み、仮眠していると思われる。その理由は深くまで足を踏み入れた狩人が時々発見する円形に草木の枯れた地域の存在より類推する。狩人はそれを発見するとそこの狩り場は捨てて新しい狩り場を求めるという。これは古くから狩人間に知れ渡っている伝承でありそこに足を踏み入れたら最後戻っては来られないとその伝承は述べている。
話が若干脇道にそれた。次いで第二の理由、種の繁栄についてではあるが、これは人間に対してしか行えないものらしい。その方法としては単純な物で自らの血を大量に分け与えることで人は魔人へと変貌する。サンプルAの母親は、魔人を解放したときに少し出血したと言っていたことにより、その時点で魔人になりかけていたと思われる。
そして魔人による種の繁栄の方法はもう一つあることがサンプルAの存在によって確認された。それは我々人間も行っていること、すなわち性行為である。そしてその場合母親の――ないしは父親の――魔人進行度によって血の濃さが決まると類推される。その理由はサンプルAの魔人率はだいたい六割程度である。これはかなり薄く、早い段階でサンプルAの母親を処置できたことが大きいと思われる。
さていよいよサンプルAの存在について考察する。サンプルAは普通に食事から栄養を摂ることが可能である。見えない程度で我々の生命力を奪っている可能性もあるがけれども、いまだにそのような報告はなされていない。これは良い兆候と言える。もしも我々人間の食事を受け付けなかったならばサンプルAも処断せざるをえなかっただろう。
さらにサンプルAの――以下省略