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魔人殺しと人殺し  作者: remono
第一章 魔人狩りの集団
10/25

休息

 ソーニャと私、二人でサウナに入って身綺麗にした後、私は食事の用意をするソーニャと別れ、クリエムヒルト大僧正にお礼の言葉を言うために彼女が暮らす寺院の一室へと向かった。

 その途中ザイチェフ師とヴィザリオ師に会う。


「よう、大僧正に『無期限』と言われたときはびっくりしたがこんなに早く出られるとはな。おめでとうリューシカ」

 ザイチェフ師が言いヴィザリオ師が言葉を繋ぐ。

「……もう地下室にいる意味はなくなった。決定は……当然のこと」

「ハドロフの旦那なんて下手に期限を決められたせいでまだ自室謹慎だぜ」

「……それも当然」

「あの、ハドロフ司教はなぜ謹慎されているのですか?」

 私は二人に尋ねる。二人は顔を見合わせると軽く笑った。

「リューシカを後始末に連れて行った罪とお前を危険にさらした罪。それとお前の血で魔人ドラコフを呼ぼうとした罪だよ」

 ザイチェフ師が答える。


「……罪が沢山だ」

 珍しく饒舌なヴィザリオ師。言葉を続ける。

「……ハドロフ司教はお前が子供の頃からお前の血で魔人が呼べるかどうかずっと試したがっていた」

 そこへザイチェフ師が口を挟む。

「ずっと俺達が止めていたんだぜ。そんなことをしてもあの孤独好きな魔人は来ないってな」

「そんなことがあったんですか」

 私はやや驚いて答える。そんながあったとは露ほども知らなかった。そしてハドロフ司教の合理主義っぷりに感服すらする。

「ま、今回で呼べないことは証明されたわけだ。もう二度目はない。安心していいぞ」

 ザイチェフ師が言い、ヴィザリオ師も肯定の仕草を見せる。

「これから大僧正に挨拶か?」

「はい、そのつもりです」

 ザイチェフ師の言葉に私は答える。

「よし行ってこい」

「はい。……あ、待ってください!」

 ザイチェフ師の言葉に私が答え、二人は去っていこうとするのをふと思い出して私が呼び止める。

「なんだ?」

「ありがとうございました。お二方に教わった鍛錬が役に立ちました」

「そうかい」

 ザイチェフ師が笑いヴィザリオ師が無言で答える。

 そうして二人は去っていった。


 私は大僧正が日々暮らしている寺院の一室にたどり着く。そこには二人の警護の神官がいた。私は彼等に挨拶をする。

「大僧正に面会ですか」

 警備の神官のうちの片方が私に尋ねる。

「はい。地下室から出していただいたことのお礼をと思い、こうして参りました」

 一礼して私。

「少しお待ちください」

 神官は部屋をノックし、言う。

「リューシカが面会に参りました」

 ややあって言葉が返ってくる。

「お入りなさい」

 警備の神官は目で合図すると二人一緒に扉を開いた。暖かい空気が吹き出してくる。

 

「失礼します」

 私は言い、神官のうちの一人が警護に入ろうとする。

「ああ警護はいりません。リューシカと二人でお話ししたいので」

(かしこ)まりました」

 私と一緒に部屋に入ろうとした神官は足を止め、扉を閉める。

 部屋の作りはそれほど他の部屋と変ったところはなかった。とはいえあまり周りを見回している余裕は無い。目の前には椅子に座るクリエムヒルト大僧正がいるからだ。

「さてリューシカ。何の用ですか?」

 尋ねる大僧正。この質問は形式的な物だろう。私がしゃべりやすくなるように。

「はい、地下牢から出していただいたのでそのお礼に参りました」

 膝をついて私。

「いいのです。元はと言えばハドロフ司教が悪いのですから。立ちなさい、リューシカ」

「わかりました」

 私は立ち上がる。

「地下室の生霊を一掃したそうですね」

「はい」

「あなたは良いことをしました。死ねない魔人を苦しみから救った。ですがそれは殺人でもあります」

「……」

 私は無言で大僧正の次の言葉を待つ。

「人を救うために人を殺さなくてはならない。それは大きな矛盾です。しかしそれは私達クリエムヒルト寺院が抱える矛盾でもあります。あなたはよくやりました。矛盾を受け入れることがあなたには必要だったのです」

「はい……」

「あなたも半分は魔人です。この矛盾はこれから何度も何度もあなたの前に立ちふさがることでしょう。その時に迷わず進めるように願っておりますよ」

「……わかりました大僧正様」

 私は答える。

「……話は終わりです。しばらく寺院でゆっくりなさい」

「ありがとうございました大僧正様」

 私は扉をノックし、神官が扉を開ける。


「それでは、失礼いたします」

 そうして私はクリエムヒルト大僧正の部屋を辞した。短い対面だったけれど、ひどく疲れた。けれどあと少ししたら食事の時間だ。ソーニャのご飯を食べるのは久しぶりだ。私は少し上機嫌で食堂へと先に向かう。久しぶりの温かい食事だ。向かう先はいい匂いが立ちこめ始めていた。

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