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エリアルの日常ー朝ー

規格外のエリアルを少し書いてみました


 朝は陽が上がれば、目が覚める。


 もう長いことそんな生活をしていたので、多少夜が遅くても身体は自然と起き上がる。


「ん~~。今日は、リリスが来るはずね」


 パイを焼こうか、パンもいいかもしれない。胡桃が沢山入ったパンがリリスはお気に入りだし。

 狩りのついでに胡桃でもひろってこようかなと夜着を脱いで、乗馬用の下がズボンになった服を着る。

 

 ちなみにクレインの教育方針は、なんでも自分でこなすという、淑女からは離れたものだった。騎士団の教育方針と言われた方がしっくりくる。

 ドレスだって簡単なものなら1人で着れるし、冬の間過ごす父の領地では、堅苦しいドレスを着ることは少ない。

 

 馬はドレスでも乗れるが、獲物の血抜きをするのにドレスだと猟奇的らしく、とめられてしまってからエリアルは朝はいつもこの格好だ。

 ドレスよりズボンのほうが絶対楽だからいいんだけど。


 膝くらいまでスカートがついているが、下は男性のズボンと一緒なので、馬を乗るにはこちらのほうが不都合がない。


 自分の弓矢を点検して、部屋に置いていたりんごをかじりながら、厩を覗くと、馬の世話をしている男がいた。エリアルに気付き声をかける。


「おはようございます、お嬢様」


「おはよう、ガス」


 いつものように、エリアルの馬には先に飼い葉が与えられている。


「トラ、おはよう」


 トライルという名の鹿毛の馬である。もう5年も一緒にいるので、とても懐いている。 鼻先を撫でると、じっとこちらに意識をむけてくる。どの馬もエリアルの家の馬はいい馬ばかりだけれど、エリアルにとってはこの馬が一番乗りやすかった。少し小柄だからクレインのマリエルのように持久力はないが、身体の柔らかさが衝撃を吸収するから、矢の軌道が安定するのだ。


「今日は何がいるかしらね~」


 ブラッシングしながら話しかけると、お返しにハムハムと鼻先で手入れしようとしてくれる。


「いや、いらないから」


 遠慮しながら全身を点検をかねて揉んでいく。痛みがあれば反応があるからだ。どこにも異常がないのを確かめて、鞍を乗せて、頭絡をつける。鞍の後ろには獲物をいれたり縄などをいれた袋と簡易の朝ごはんが入っている。もしものときのための止血用の包帯がはいっていたり、鞘にはいった大きなナイフも入れている。それを確認して、軽く跨ると、トライルは心得たように歩き始め、駆けていった。


「お気をつけて~」


 ガスの声が一瞬で遠くなっていく。

 


 朝の遠乗りはとても気持ちいい。30分も走らせると、小さな湖がある。今の時期は鴨が来ているはずだ。狙うには小さいが、エリアルは射止める自信がある。反対に大きな獲物は、弓の威力が足りないので難しい。野生の獲物は目をつぶしたくらいでは絶命しないからだ。


 トライルから降りて、獲物を待つ。トライルは少し離れた水場になる場所に置いてきた。

 しばらく待てば、獲物は射的距離内にやってくる。1羽を射ると逃げてしまうので、連射の体制をとり、一気に射掛けた。


 矢は直線に狙いを外さず飛んだ。逃げようとする2羽目を更に射掛ける。


 異変を感じた仲間の鳥たちが一斉に空へ逃げるのを見ながら、獲物を手にする。

 獲物は鴨2羽だった。その場で血抜きして、湖で血を落としてきた。


 もう少し走らせて、胡桃の木の下で胡桃をひろったところで時間切れになった。もうそろそろ帰らないと剣術の先生の来る時間になるだろう。


「あ、穴開いちゃった」


 革の手袋に穴が開いていた。矢を番える場所はすぐほころびるので補強をしているが、もうそろそろこれもお役ごめんだろう。一応手を守るために革の手袋を使っているが、剣にも弓にも慣れ親しんだころには、母やリリスのような淑女の手はどこかへいってしまった。誇りでもあるタコだけど、ちょっと悲しい。

 帽子はかぶっているものの、そろそろ日焼けもまずそうだ。舞踏会にいくまで、陽の出ている間は外にでないほうがいいだろう。

 そう思うと憂鬱になる。


 剣術は家の中で練習できるようにしているが、さすがに遠乗りは無理だろう。


 領内を走っているとそろそろ仕事の時間になる領民が気付いたように手を振ってくれる。平和に暮らしている皆をみると嬉しくなる。仕事して、家族をもち、それが幸せってことだとエリアルは思う。少しでもその生活を守れたらいい。

 そんな領主の姫を領民たちは尊敬し敬愛している。


「ただいま」


 裏の方から帰ると、侍女が待っていた。獲物をコック長に渡すように頼み、トライルを放牧する。

 裏庭には庭園から続く丘があり、広い敷地には何頭も放たれている。ここは馬の産地でもあるのだ。トライルは、夜になるまで帰ってこない。美味しいえさがあるのがわかってるから、帰ってこないことはない。


「お帰りなさいませ」

「今日のサンドウィッチ美味しかったわ。ありがとう」


 血抜きしながら横で食べるのも慣れれば気にならない。


「コック長に伝えましょう。お召しかえなさいますか」

「そうね、すぐ変えていくから、教師につたえておいてくれる?」

「わかりました」


 エリアル付きの侍女は、伯爵家の侍女としてふさわしい動作で歩いていく。その手にしたのが首のない鴨だとしても。

 それくらいで悲鳴を上げる人間は、必要ないので暇を出されるからだ。


「家の姫様はあんなに美しいのに、なんであんなに勇ましいのかね」


 まだ傍にいたトライルにガスが愚痴ると、ヒヒン!と非難するように嘶いて、走っていってしまった。なんとなく怒られたように感じて、ガスは力なくため息をはいた。


 そんなエリアルの朝だった。


  


読んでくださってありがとうございます。

土日は更新ができるかどうかわかりませんが、よろしければ、また覗いてくださいね☆

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