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高貴なる獣は狩人を欲する

読んでくださってありがとうございます。

「あ、ちょっと…駄目だって…」


 抱きしめていたエリアルが慌てたような声をだしたので、何かやってしまったかとアルフォードは思った。

 生暖かい息がふっと脇にかかる。

 目を開けると、そこにはエリアルの馬がいて、エリアルを抱いている腕とエリアルのわき腹のほんの隙間に鼻面をつっこんでいた。


「もってないから!」


 エリアルはそういって馬の頭を押していた。


 ふっと笑いがこみ上げる。


 俺はどこで、愛を囁いてるんだ……。


「はは…っ。ククッ…。エリアル、服についてる花が食べられてるぞ。アハハハッ!」


 トライルはエリアルの服の飾りの花をモグモグと食べようとしていた。それを見たアルフォードは、身体を折ってこみ上げてくる笑いを満喫した。

 目の端に涙が潤むころ、顔を上げるとエリアルが馬の鼻面を掴みながら仁王立ちしてるをみて、目を見張る。

 

 怒らせてしまったかと、慌てると、エリアルは馬の鬣を掴み腕の力で馬の上に乗ってしまった。横乗りにも慣れてるのか馬はエリアルの指示通りに駆け出そうとする。


「イル! 締めろ!」


 厩の扉はイルに素早く閉められて、エリアルは仕方なく馬小屋にしては広いその中で円運動をしながらアルフォードをジッと恨めしげに見つめた。


「お前は、その直ぐに逃げる癖をなんとかしろ……」

「アルフォード様が笑うから……、恥ずかしくて。私はずっと領地にいたので、あまり普通の伯爵令嬢のようではないらしいんです」


 知ってる――とアルフォードは笑いたくなる頬を引き締めて、視線で続きを促す。


「私はきっと……貴方にはふさわしくないんだと思います」


 身分とかではなく、アルフォードにふさわしいのはきっとお淑やかなリリスのような女性だと思う。エリアルは回し蹴りで不埒な男性を排除するが、リリスは少し困ったような顔で、その涼やかな声で、同じことができるのだ。貴族の社会ではそれが普通なんだと王宮に通ううちにわかるようになった。

 

「お前にふさわしくないのは俺だろう――? 俺はもう三十二歳だ。お前からしたらおじさんだろう? エリアルの倍は生きてるしな。この黒髪も不吉だといわれている。お前が、俺のものになるのが不安だというのなら、いいだろう、今ならまだ放してやれる――」


 エリアルは円を小さくして、アルフォードの前にトライルを止めた。

 滑るようにアルフォードの前に下りて、そっとその腰に腕を巻きつけた。

 エリアルが抱きついてくるのをアルフォードは嬉しく思う。下から見上げられると、抱き潰したくなるのは、仕方がない。

 

 こんなに愛しい可愛らしいものを見たことがないと思う。きっと眦は下がってみっともない顔になってるだろうなと、自嘲する。


「アルフォード様はおじさんじゃありません……こんなに格好いい人は、他にいません。抱き上げてください……」


 エリアルのお願いは、殊の外甘く綴られた。

 アルフォードが腕に抱き上げると、エリアルは手を伸ばして顔を抱き寄せて髪の毛にキスをする。


「この黒い髪の色が好きです。どこにいても、貴方が貴方だとわかる。好き……」


 エリアルはアルフォードを慰めようとしてくれているのだろう。見慣れないものを人は自分達とちがうものとして忌避することが多い。だが、エリアルが好きだといってくれるのなら悪くないと、思う。


「エリアルは俺を喜ばせるのがうまいな」


 抱き上げたまま、厩を後にする。


「アルフォード様は、私を怒らせるのが、上手ですよね」


 そうか? と笑いかけると、エリアルは「その顔は反則です」と真っ赤になってしまった。どんな顔をしていたのか、自分でもわからなくて、アルフォードは首を傾げる。


「食事はまだだろう? 一緒に食べよう。これ以上お腹がすいたら、違うものを食べたくなる」

「朝からお酒とかは駄目ですよ?」


 エリアルがそう言うとアルフォードは楽しそうに笑う。


「お酒じゃないが、大丈夫だ。俺は好きなものは最後にとっとく性質だ」


 エリアルは素直に頷く。


「そうなんですか。私は最初に食べます。好きなものが一緒だったら、アルフォード様、私に食べられちゃいますね」


 アルフォードの笑いが止まらなくなって、エリアルは揺れる腕の中で不機嫌に呟く。これ以上逃げられてはたまらないと、アルフォードはエリアルを抱き上げたまま、横抱きにして歩く。


「アルフォード様は笑い上戸ですね。楽しそうでいいですけど……」


 エリアルの言葉にアルフォードは気付いた。


 こんなに笑ったのはいつ振りなんだろうと。小さな言葉の一つ一つが楽しくて仕方ない。


「エリアル、こんな俺でよかったら、俺と一緒になってくれないか。お前と一緒に過ごせたら、俺は多分一生幸せに笑ってられると……思うんだ」


 普通はこんな庭先でなく、こんな馬臭くない格好で、膝を折り、手を押し抱き請うのだろう。もしそんな求婚をエリアルが望んでいたら、悪いことをしたなと思う。


 前を見ていた視線をエリアルにもどすと、驚いたような顔があった。深い森の木々のような緑の双眸からポロポロと涙が溢れていく。


「アルフォード様は、……私を泣かせるのも上手ですね。私も――、私の側で笑ってる貴方を見ていたい……」


 エリアルは、これ以上声にならないようだった。


「俺はエリアルを泣かせてばかりだな……」


 眦にキスをすると、エリアルは泣き顔のまま笑った。

 

 二人でずっと笑ったり怒ったりそんな未来を思い浮かべて、幸せな気分でエリアルはもう一度アルフォードにキスをねだる。


 大切だと伝えてくれるアルフォードの首がやけに近くて、エリアルはアルフォードのキスの合間についつい噛み付いてしまう。


「こらこら、お前は……」


 アルフォードは首に噛み付いてきたエリアルの唇を唇でふさいで、首筋への攻撃を避ける。


「駄目、だってアルフォード様、素敵だから……とられる……」


 エリアルが唇を避けてそう言う。

 アルフォードは、「本当にマーキングだったのか……」と情けなそうに呟く。


「エリアルは狩人だからな。仕方ないか……」


 世の狩人が聞いたら怒りそうなことを言って、諦めて首筋を差し出した。


「え? 私狩人なんですか……」


 エリアルの戸惑いがちな声が聞こえて、「物語のお姫様は首筋に噛み付いたりしないだろ」というと、「そうですね、仕方ないのでお姫様は諦めます」とアルフォードの首筋に優しく噛み付くのだった。前回のような酷い跡ではなく、ほんのり赤くなった程度だけど、エリアルは満足する。


 アルフォードは、空を見上げる――。

 眩しくきらめく太陽はエリアルの髪のように光っていて、自分の闇のような髪の色さえ輝かせてくれるようだった。エリアルの深い森の木々のような瞳には、自分の楽しそうな笑い顔が映っている。


 それを満足そうに見たアルフォードは、エリアルが止めるまで、小さな優しいじれったいくらいの口付けを繰り返すのだった――。


これで本編は一応終わりになります。前回で終わっても良かったんですが、キーワードはジレジレですので、くどい感じで終わってみました。初めて最後まで書いたので、終わり方がわからなくて困りましたが、これでお許しくださいw。


思ってた以上の方が読んでくださっていたようで、毎回アクセスPVやユニーク数の数をみるのも楽しかったです。

書いてみたら案外楽しかったのですが、BL無理っていうかたもいたのかしら?笑


この後何話かクレインとアルティシアの話などを書こうと思っています。よろしければそこまでお付き合いください。


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