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狩人は獲物を仕留める

読んでくださってありがとうございます

「エリアル様、本当にもう大丈夫なんですか?」


 イルの声はエリアルを心配してくれている。この家の人間はだれもかれもエリアルを歓迎してくれてるようだった。


「ええ、もう大丈夫よ」


 エリアルは、本来あまり風邪をひいたり熱を出したりする性質ではない。繊細とは遠いところにいると思っている。たまに何年かに一度高熱を出すことはあるが、それは熱さえ出し切ってしまえばその後に響くこともなかった。


 頑丈にできているとは、兄の言葉だ。


「アルフォード様は?」


 昨日お風呂を用意するといって消えてからアルフォードの姿が見えなかった。


「お休みになっております。お呼びしましょうか」


 エリアルが目覚めてから部屋でたまった仕事を片付けていて、寝るのも遅かったらしい。今はまだ朝の六時で、寝すぎるほどに眠ったエリアルは元気一杯に目が覚めてしまった。


「庭に出てもいいかしら」


 知らない場所でトライルも不安だろうと思うと、居ても立ってもいられない。服をしまわれてしまって、ズボンもないし、きっと出してくれといってもでてこないだろうから、動きやすそうなワンピースを着て、エリアルは厩舎に行くことにした。イルが案内してくれた。


 厩舎はそれほど大きくはないが、馬たちがゆっくり出来るような室内になっている。


「トラ」


 トライルは思ったより図太いのか、前脚を折って寝ていた。ホッとして笑えて来る。呼ぶ声で目覚めたのか立ち上がり、背中を伸ばす。敷き藁も綺麗で、大事にしてくれてるのだと安心した。


 手を伸ばして首筋に抱きつくと、あんまり嬉しくなさそうに頭を上げたが、ぶら下がっていると、仕方ないなというようにエリアルの背中を突いてくる。


「あ、もう、汚れるじゃないの」


 エリアルが慌てるのを遊んでいると勘違いしているようだ。

 しばらく遊ぶと、背中を押してみる。かなり無茶な走らせかたをしたから、痛めていないか心配だったのだ。遊んでいる限りは、ご機嫌なようだったが。



「裸馬でも逃げれるのか……? エリアルは、目を離すと直ぐにいなくなるのだな」


 後ろから腕が伸びてきて、エリアルは抱き込まれて、その声でアルフォードだとわかった。


 こんなに大きな身体で、足音も、気配すら感じられなかった――。


 エリアルは心臓が飛び出そうだと息を詰めた。


「アルフォード様……」


 咎めるために背後のアルフォードに向き直ろうとしたが、腕の拘束は解けない。


「俺はそういう性質ではないのだが……、お前のことは閉じ込めたくなるな」


 ヒヤリとする。この腕は、それを実行できるだけの力があるのだ。


 エリアルはアルフォードの言葉の真意を知りたかった。言葉ほど、切羽詰った感じはないのに、この腕は外れない。


「それでは、私は死んでしまいます……」

「そうだな。エリアルは風の精霊だからな。閉じ込めたら、きっと死んでしまうんだろうな」


 アルフォードは、エリアルに聞かすというより自分に言い聞かせるようにそう呟いた。


「だから、エリアル。自分の意思で、俺の側にいてほしい――」


 背中が痛い。後ろから抱きしめられているから、痛いところを締められてるわけではないのに、何故痛いんだろうと思う。


「俺の側でずっと……風のようにどこかへいったりしないで、笑っていて欲しい。愛してるんだ」


 ズキンと、痛む――。


 これは、背中の痛みじゃない。心が、痛いんだ。あまりの衝撃にはち切れそうになって痛みとして感じてるんだと、気付く。


 ギュっと抱きしめてくれる腕の先で組まれている手に、エリアルは自分の手を重ねた。

 頭を下げれば、その手は目の前にある。


 この気持ちを言葉にするにはどうすればいいんだろうと思う。この溢れてくる嬉しさを伝えるにはどうすれば――。


 エリアルは、その組まれた手にそっとキスをした。自分を逃がすまいと白くなった手が愛おしくて、チュッと音を立てると、わかってくれたのか拘束が緩む。


 逃げたりしない。緩んだ手は、自分を必要としてくれてるとわかるから、アルフォードの腕の中で振り返ると、彼の驚いたような顔が見えた。



「私のほうが、もっと貴方のことを愛してると思います」



 エリアルは、気持ちをなんとか言葉にしてアルフォードに伝える。



「そこは、俺も譲れない――。絶対俺のほうが愛してる」



 アルフォードの顔に手を伸ばせば、頬に手が下りてきて、優しく撫でてくれた。


 そっと唇がエリアルのおでこに触れる。

 

 エリアルの手はアルフォードの頭を離さなかった。そのまま引き寄せると、アルフォードがフッと笑う気配がした。


 アルフォードは、クレインの言葉を思い出す。


『エリアルは、今はまだ乙女モードで大人しくしてるけど、そのうち動き始めるでしょう。俺には止められませんよ。あれは狩人ですから』


「お前は……やはり狩人なんだな」


 しみじみと、アルフォードはそういって、エリアルの望みどおり唇にキスをした。

 


 一度目は目測を誤って顎に突撃してしまった。二度目は不意打ちで無理やりアルフォードの唇を奪った。


 三度目のキスは、恋人のキスで、とても甘かった――。



 アルフォードはエリアルが望むだけ、優しく唇をついばむのだった。

やっとここまで来ることができました。初めて沢山の人に読んでもらって嬉しさで書き進んできました。こんなに長い話を最後(まだだけどw)まで書けたことはありませんでした。

初めてのブックマーク、初めてのメッセージ、初めての感想w嬉しかったです。

ここからは、終息とクレインの話の続きといくつかその後というか色々あそんでみようと思っています。あとしばらくお付き合いくださると嬉しいです☆

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