揺れる心
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エリアルは、二日間寝込んだ。
「エリアル飲んで」
アルフォードに抱き起こされてスープを飲んだ後に薬も飲まされる。
「いやです……」
アルフォードの家の侍女に着替えさせられて、そのときに汗はぬぐってくれているものの、正直なところ、好きな人に汗くさい自分の側に寄って欲しくなかった。
どれほど嫌だといっても、アルフォードは許してはくれない。
いつ目が覚めても、アルフォードはベットの横に持ってきた簡易ベットかと思うほどの大きさのソファにいる。仕事を片付けていたり、目をつむって眠っているようだったり、眠っていたエリアルをジッと見ていたり。
その目は逃げるな――と言っているようだった。
自分の行動に責任とるということを小さな頃から言われてきたエリアルだったが、今回ほどその言葉を実感したことはない。
自分が招いたことだとわかってはいるが、こんなことになるとは……。
熱が下がるのと共に背中の痛みも和らいできた。自分で起きれるようになって、初めてアルフォードの目に疲れの色があることに気付いた。
「逃げませんから、眠ってください」
信用してくれるだろうかと心配だったが、アルフォードはそのソファでだが、眠ってくれた。
エリアルは、寝台から抜け出して、アルフォードのソファの横に立つ。
この人は知ってるのだろうか。私がどれほど想っているのか――。
好きなところなど数えきれない程ある。
この黒い髪が好き。黒というのはそれだけで目をひく。誰とも間違わない彼だという印。
紺碧の瞳でずっと見つめられていたら、どれほど幸せだろう。
大きな手はエリアルの頭を片手でつかめるんじゃないだろうか。
声も好き。低くて艶やかな声は、耳の側で不意に聞くと腰がぬけてしまうけど、しびれるくらい好き。
厚い胸板も安心感がある。筋肉質な胸に抱きしめられると子供のようにそこで眠ってしまいたくなる。
最近アルフォードの眉間にしわが出来る。伸ばしたくなるが、そうするには、彼は背が高すぎる。
なんていい位置にいるんだろう。こうやってじっくり見つめることが出来るなんて、手が届く場所にアルフォードがいるなんて。
ソファで眠るアルフォードに、エリアルは手を伸ばした。眉間にしわは寄っていないが、顔に触れたくなる。
しかもアルフォードは眠っているのだ。
そっと、手が触れそうになった瞬間――、アルフォードがその紺碧の双眸をエリアルに向けた。
心臓が止まるかとエリアルは思った。
グイっと伸ばしていた手首を掴まれるとエリアルは体勢を崩して、アルフォードの胸の上に手をついた。
「逃げようとして、俺が眠っているのを確かめた?」
腹筋で起き上がったアルフォードに抱き寄せられると、いつの間にかアルフォードの太ももの上に座っていた。アルフォードの声が頭の上から降ってくる。腕の中に抱きしめられて、この声を聞くことになるとはエリアルは思っていなかった。
二日だ、二日も風呂に入っていない。しかも熱にうかされてた体は絶対に異臭がするはずだ。さっきは逃げようとしてなかったが、今は絶賛逃亡したい! エリアルは真剣に願った。
「お願いです。離れてください……」
「もう、俺のことは好きじゃない? 側にいたくない?」
アルフォードの声は静かだった。エリアルに確認しているように感じた。だから、エリアルもちゃんと答えることが出来た。
「二日もお風呂に入ってないんです。貴方のそばにいたいけれど、お願い……」
真っ赤になって、それでも言いたいことは言えた。
アルフォードは呆気にとられる。
「ごめん。でもエリアルはいい匂いがする――」
アルフォードのたらしめいた言葉に反応するよりも、匂いをかがれたことがショックだった。慌てて立ち上がると、アルフォードはとめようとはしなかった。
「風呂を用意させる。熱もさがったみたいだな」
アルフォードは眠ることを止めたようだった。
「少し待ってろ」
部屋を出て行ったアルフォードを見送って、エリアルは息を吐いた。
まさか、目が開くと思っていなかった。さすが獣並みの敏感さだと感心する。
=====
エリアルはアルフォードの家の侍女に手伝ってもらって風呂に入り、着替えた。
「ありがとう。さっぱりしたわ」
「背中の痛みは如何ですか? 旦那様はお嬢様のことが心配でずっとついておられました」
熱に浮かされ、まどろみながら何度か目が覚めたときにはいつもアルフォードが側にいてくれたように思う。
「ええ、感謝してもしきれないくらい。アルフォード様にはご迷惑ばかりかけてしまって……」
「いえ、旦那様は、お嬢様を大切な方とおっしゃっておりました。迷惑などと思っておりませんよ」
短くなった髪は乾くのが早い。それを侍女が乾かしてくれる。
「そう……。私のことはエリアルって呼んで頂戴。お名前をうかがってもいいかしら」
エリアルは、大切だという言葉に心が浮き立ちそうになるのを必死に押し留める。期待してはいけない。アルフォードの言葉は大げさで、どうやら女たらしの性質があるようだ。翻弄されるのは、今は避けたかった。
「イルと申します、エリアル様」
クレインと同じくらいの年に見えるその女性は、エリアルに挨拶してアルフォードのこの二日間のことを話してくれた。
アルフォードは、仕事を休んでいるらしい。エリアルがこの屋敷にやってきてから何度も王都との連絡をつけていること、エリアルの寝顔を見てるときは幸せそうだったり、うなされるエリアルの手をとって何度も名を呼んでいたことを告げた。
なんとなくだが、覚えている――。
エリアル、苦しいか?と、それこそアルフォードのほうが辛そうな声だった。
アルフォードのことを好きでいていいのかしら? とイルと話していると思えてくるから不思議だった。信じていいような気がして、エリアルは何だか幸せな気分だった。
なんとか書けました~。
ちょっとくどいかなと思いますが、語彙が少ないものでこんな感じになっています。好きなシュチュエーションを書こうと思ってこの話を始めたのですが、手を掴んで胸の上にってのは結構好物ですw。同じ趣味の人がいるといいな☆




