痛み
少し短いです。読んでくださってありがとうございます。
エリアルがつれてこられた屋敷は、森の公園の直ぐ側にあった。静かだが、森に住み着く小鳥達の声が聞こえる。
別荘にしては大きいが、豪奢なというよりは、可愛い感じの屋敷だ。咲き乱れる花も小花が多く、蔓科の植物も多い。
屋敷の前に着くと、この家を任されてるだろう召使いたちが迎えてくれた。
「この荷物はお預かりします」
アルフォードと一緒にきた騎士がそういって非常用のカバンを持っていってしまった。もう逃げないと言ったのに、信用は全くないようだった。
アルフォードに抱えられたまま連れて行かれそうになったので、慌てて降りようとしたが離してくれる気配はない。
「アルフォード様……トライルをよろしくお願いします……」
無理やりつれてきた愛馬が心配だとにおわせると、アルフォードは頷いてトライルの前に抱いたままエリアルを突き出した。
「ゆっくり休むのよ」
ポンポンと額を撫ぜると頭を下げたので、耳の間も撫でてあげる。
「案内する」
アルフォードがエリアルを抱いたまま屋敷に入ると、侍女が付いてきた。
「スミレの間を用意しております」
頷いたアルフォードは一階の庭に出られる部屋にエリアルを運んだ。部屋を見渡して、エリアルが簡単に逃げそうな部屋だなと思い、腕の中のエリアルに忠告をする。
「逃げるなよ……すぐに捕まえるぞ」
声はエリアルの耳朶をくすぐる。ゾクリと背中を這い上がる。エリアルはアルフォードの声が苦手だった。
「んっ――」
声を上げそうになったが、背中の痛みがひきつる。エリアルの身体が硬直したのを感じたのかアルフォードはそれ以上は何も言わず、隣の寝室にエリアルを連れて行き、寝台の上にそっと横たえた。
「直ぐに医者が来る。楽にしろ」
アルフォードは侍女にエリアルのことを頼んで、部屋を出て行った。
「お嬢様、お着替え出来そうですか?」
何分マントも靴もそのままだ。頷くと手をかして起こしてくれた。
痛みは続くが、起きれないほどではない。
身体を拭いてくれて、柔らかな夜着に近い簡素な服を着せてくれる。身体を捩ると痛いので助かった。お礼を言うとその侍女は、凄い笑顔で「ようこそいらっしゃいました!」と歓迎してくれていることを告げた。
意味がわからなかった。
好きできたわけではないのだが、そういうことも言えない。短い髪を気にしてはいたようだが、何も質問されなかったので、エリアルは気にしないふりをした。
医者にみてもらったところ、骨は大丈夫そうだったが、筋肉を傷めたのだろうと痛み止めを処方してくれた。できれば、氷で冷やすようにといって帰っていった。
正直筋肉痛と、背中の痛みで身体がバラバラになりそうだった。間接まで痛いところみると熱が出てきたのかもしれなかった。
医者に聞いたアルフォードは氷嚢を持ってやってきた。氷と水がはいっているそれをエリアルの背中にあてて冷やしてくれたが、未婚の女性の寝室で、氷嚢を女性の背中に押し付けているというのは、如何なものかと思う。最初は恥ずかしくて必死に逃げようとしていたがエリアルだが、残念なことに身体がいうことをきいてくれなかった。
諦めると、身体の熱さを氷嚢がとってくれて、エリアルは気持ちいいと感じた。
アルフォードの威圧感もなりを潜めているので、怖くもなかった。
痛みが少しひいてくると、瞼が重くなり、エリアルはアルフォードの前だというのに眠ってしまった。
「エリアル、眠ったのか?」
眠っているのだから返事はない。
小さな吐息が聞こえてくる。
無防備すぎるとアルフォードは頭を抱えたくなったが、こうやって警戒心をといてくれると自分のことを信用してくれてるように感じてアルフォードは嬉しかった。
ずっと見ていたかったが、三十分もすると氷嚢の氷は溶けてくる。長居しすぎるのはよくないと、エリアルが気付かないようにそっと部屋をでていく。
続きの間で、侍女にエリアルのことを頼み、自分も少し休むために廊下にでると、慌てたようなこの屋敷を任せている家令と、メイド三人が立っていた。
「何をしている」
アルフォードの質問に四人は目を泳がす。
「いえ、旦那様からの用事を待っておりました」
盗み聞きしていたとは言わない。
「エリアルが起きたら、俺も起こしてくれ。ベットの上でも食べれるような簡単なものを用意してやってくれ」
アルフォードがエリアルを気遣うように言うと、四人は盛大に頷いた。
「お嬢様は、旦那様の……」
恐る恐る家令は質問する。
「俺の……大事な人だ。丁重にな。屋敷から出て行く以外のことは叶えてやってくれ」
背後から「キャ―――!!」 と歓声が上がる。
エリアルが起きたら大変だと、アルフォードが口に指をあてて静かにとジェスチャーすると、小さくガッツポーズをとったり、握手をしたりする屋敷の使用人たちがあちこちで見られた。どうやら連絡網が回ったらしい。
侯爵家の使用人は、どうやら凄く心配してくれていたらしいと、アルフォードは嬉しくも思うし、恥ずかしくもなる。
「よろしく頼む」
というと、全員が「「「「はい!! 」」」」と声を揃えて頷き、「「「「しーー! 」」」」と声をひそめるのだった。
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「ああ、さすがアルフォード様だな」
クレインは、王都の屋敷で連絡を受けて、ホッとした。
エリアルは、アルフォードの別荘で保護されているらしい。少し怪我をしてしまったので、怪我がよくなるまでこちらで預かると書いていた。
よろしくおねがいしますと、返事をする。行ったらつれて帰れとエリアルが言うかもしれないので、とりあえず、放っておく。
休暇をとったアルフォードの仕事をまわさなければならない。随時戻ってくるだろうナリス達にも礼をしなければならないが、ここは皆で酒盛りだなと思う。忙しくなるのはわかっていたが笑いがとまらないクレインだった。




