小休止
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その日は、珍しく仕事がはかどって、クレインは夕食に間に合うように家に帰ることが出来た。
アルフォードが、精力的に仕事をこなしていたことが要因だと思われる。
朝から一度も目を合わせようとしないアルフォードの、いつもは肌蹴ている隊服の詰襟が上まで留められてることを不信に思いながらも、クレインは何も聞くつもりはなかった。
もうクレインに出来ることはないと思っている。
たとえ、エリアルがアルフォードを仕留めることが出来なくても、クレインは構わなかった。最善策が、クレインが用意してきた策なだけで、アルフォードのことが上手くいかなくても、クレインはアルティシアを諦める気はさらさらなかった。
アルティシアを無理やり手に入れ、彼女に嫌われることがあったとしても、最後は二人で幸せになることが出来ると信じている。
それでも、クレインはアルフォードにも幸せになってほしかった。
家に着くと、執事のバイエルがクレインにエリアルの不調を報告してきた。
「朝リリスの家から帰ってきて、体調が悪い?」
「はい。朝から先生方にはお休みしていただいております」
「食事は?」
「昼に少しだけお召し上がりになりました。医師はいらないとおっしゃって。迷いましたが、お熱もないようでしたので、来ていただいておりません」
クレインは頷き、先に食事することを告げた。
バイエルの視線を感じたが、この執事が医師を呼んでいないくらいだから大したことはないと、判断して食堂に向かった。
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エリアルは窓を開けて、頬杖をつき、夜空を眺めていた。星達は、領地のものより小さく見えるから不思議だ。王都のあちこちには、街灯がいくつもあってそちらが明るいからだそうだ。
「エリアル、元気そうだな」
クレインは、ホッとして声をかけた。
アルフォードの調子が調子だっただけに、心配していたのだ。
「お兄様……」
エリアルは、クレインの顔を見て、困ったように笑った。
「お兄様、私……、少しお勉強をお休みしていいかしら? なんだか……」
今までエリアルがそんなことを言ったことはない。怪我をしてしまっても、勉強が難しくても、泣き言をいったこともやりたくないと言ったこともない。
続きが出てこなかった。クレインが部屋に来るまでは、色々と言い訳も考えていたというのに、今はその言葉すらでてこなかった。
「疲れたのか……?」
クレインはエリアルの頭をグリグリと撫でて、瞳を見つめた。
言葉にしようとしても出てこないようなので、クレインはポンポンと頭の上に手を乗せた。
「いいよ。エリアルは頑張ってる。少しくらい休めばいい。領地に帰りたい?」
「ありがとうございます。領地にはまだ、帰りません……」
「そうだ、エリアル。王太子妃さまが、王女様のお話相手をしてほしいと言ってたよ。気が向いたらいってさしあげて。無理にとは言わないが、王女様は大人しい方なので、心配らしいんだ。友達になってほしいと言ってた」
思い出したようにクレインが言う。
「そうですね。屋敷に閉じこもるのもきっと飽きてしまうから、お誘いを受けておいてください」
それもエリアルが成人してやるべきことだと思ったので、快く引き受けた。
「お兄様、何も聞かないのですね……」
昨日のことはアルフォードに聞いたかと思っていたが、クレインは知ってるのか知っていないのか言葉にだすことはなかったので、エリアルは反対に聞いてしまった。
「何かあったの?」
クレインの瞳に探るようなものが混じる。
しまった――とエリアルは自分の迂闊さを罵りたくなった。敢えて尻尾を踏んでしまったようだ。
「いえ、何もありません……」
「そうか……、そうだ、エリアル。美味しいショコラを見つけたんだ。久しぶりに兄妹で飲まないか?」
言葉少なくかわそうとするエリアルに葡萄酒を勧めて、酔いたい気分だったエリアルが洗いざらい話して寝てしまうまで、クレインは言葉たくみに誘導していくのだった。
エリアルが酒瓶と沈没していって、クレインはベットに運んでやった。
弱いわけではないエリアルだったが、空腹に酒は効いたようだ。
「ブフッ!! アハ……! アハハハハ……」
部屋を出たところで、笑いを抑えることが出来なくなった。
苦しくて、身を捩る。
アルフォードが首元を隠すわけだ。
「キスして、抱きしめて、噛み付いただって……」
あの偉丈夫が、女にいいようにされたなんて、不憫だが、笑える。
どんな顔をしていたんだろうと思うと、更に笑える。
今日、どんな顔でそっくりの色彩の自分を見ていたんだろうと思うと、もう駄目だというくらい笑えた。
エリアルは、自分の行動がよくわかってなかったのだろう。本能というべきか、野生というべきか。
そして、燃え尽きたのだろう。
これまで学んできたもの全てが、ほぼアルフォードの妻になるための勉強だ。否定されれば、意味がなくなると思っているのだ。
まだ、きっと諦めてはいないのに。それでも心が怯んでいるのは、自分という存在に自信がもてなくなったからだろう。
明日なんて言ってやろうと、クレインは笑いを堪えながら自分の部屋に戻るのだった。




