狩人は試食する
罠師とお姫さまの話は1日で予定してたのですが、朝に予約したつもりが、何故か投稿になっていてびっくりしました。迷ったのですが、そのまま勢いで書いてしまいました。
廊下には、もうエリアルの姿はなかった。どちらにいったのかもわからない。
エリアルは泣いていた。余程打ちつけた場所が痛かったのだろうかと思うと、いても立ってもいられなくなる。
「エリアル……」
廊下から中庭にでると、月明かりが庭を照らしていた。今日は大きな満月が出ている。
アルフォードは目を凝らして、そこにエリアルがいないか確かめた。噴水もある広い中庭は、アルフォードも小さい頃何度もきて遊んでいたので、それなりに覚えていた。
「っぐすっ……」
庭の木の陰に、エリアルはいた。隠れていたが、月明かりに金の髪が輝いてそこだけ照らされているようだった。
自分が泣かしてしまったのだと思うと、アルフォードは胸がかきむしられるようなそんな感じがした。
「エリアル……。まかれたかと思ったよ」
アルフォードが近づくと木の周りをまわろうとするのか衣擦れの音がした。
「エリアル、泣かないで……」
エリアルは、ドレスのスカートに顔をうずめていた。
「いやです、放っておいてください……」
アルフォードのほうを見ようとしないエリアルに少しだけ苛立つ。
「またそんな風にそんなところにいたら、通りかかった男が放っておかないだろう」
「いいんです。アルフォード様が心配されることではありません」
あくまでアルフォードを遠ざけようとしてるのかと更に苛立ちが増す。こんなに俺は気が短かっただろうかと心配になるほどだ。
そっと手を伸ばすと振り払われた。
何故か拒否されると意固地になってしまう。アルフォードは身を屈めて、エリアルを無許可で抱き上げた。このまま、こんな地面で座っているは駄目だと思ったのだ。
エリアルは身を固くして、アルフォードを拒否するように顔を背けた。
「だから、首筋をさらすなと……」
アルフォードはエリアルが、大人しく抱かれていることに油断していた。エリアルが、顔を上げたときも、瞳を見つめようとしたのが失敗だったのだ。
「んっ」
アルフォードの唇はエリアルに塞がれてしまった。
漏れた声が自分のものだと知って、アルフォードは大人げなく慌ててしまった。
エリアルの腕がアルフォードの首の後ろに回されて、剥がそうとするのを必死で止めようとしてるようだった。
「駄目だ、エリアル」
アルフォードが引き離すためにエリアルの脇に手をいれて、子供にするように上にあげると、そのままアルフォードの頭にしがみついた。
「こらこらこら……」
頭に胸の感触が、顔の前に腹が来る。
グリグリと身体をこすり付けてくるのは、マーキングとしか言えない動作だった。 そして、固まったアルフォードの首筋にエリアルは噛み付いた。
「あっ、ちょっと待て……」
プツリと肌が裂ける音がした。
「おまっ……」
首筋には血が出ているのだろう。
怖ろしい……。
そこでアルフォードは、自分がエリアルを勘違いしてたことに気がついた。
彼女は護るべき乙女ではない……、自分を狩ろうとする肉食獣だということに。
そっと血をなめていたエリアルが、やっと落ち着いて、脱力して胡坐をかいているアルフォードの膝の上に座ってきた。
「お前は、獣か……」
アルフォードのあきれたような声にエリアルは今更ながら、自分のしたことに驚いていた。
「だって……アルフォード様は、私の話を聞いてくれないんですもの」
「悪かった……俺が悪いんだな」
憮然とアルフォードはエリアルの髪を撫でる。
「お前が俺をどう思ってるかはわかった……」
非常に苦い薬を飲んでいるような顔で、アルフォードは降参の旗を振った。
アルフォードのように頭で考えるより身体で感じるタイプの人間には、エリアルの行動はわかりやすかった。
「だから、謝る。俺が悪かった……。でも、俺はもう決めてる。俺は嫁をもらう気はない」
アルフォードは傷つけただろうかとエリアルを見つめた。
エリアルの瞳には先ほどのような飢えた色はなかった。静謐といってもいいくらいの落ち着いた目だった。
「わかってます。でも、私が想う事まで否定しないでください……」
さっきまではそのまま押し倒されるかと思うくらいだったのに、それ以上求めようとは思っていなかったようだった。
「帰ります。パートナーも心配してるでしょうし」
エリアルは思い出したように言って立ち上がった。
少しドレスも髪型も崩れかけていたが、なんとかなるだろう。
「ごきげんよう、アルフォード様」
アルフォードの上着を着たままのエリアルは、非常に可憐であった。
「いや、送る」
「いえ、一緒だと勘違いされますから……」
誰に、何にとアルフォードは聞けなかった。エリアルの拒否は、アルフォードの思いより強いからだ。
アルフォードは、エリアルを遠くから見送ることにした。
直ぐにエリアルのパートナーが探しに来て、二人は言葉をいくつか交わすと
一緒の馬車で帰っていった。
アルフォードは訳もわからない感情に苛まれる。
これが嫉妬ということに、まだ気付かないアルフォードだった。
イチャイチャしてますか?してるんですかね?
さて、エリアルが肉食女子ということが発覚してしまいました。もう駄目です、貴婦人とか乙女とか無理そうです(笑)。
無理じゃなければ続きも読んでくださいね☆




