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狩人は逃げる

よんでくださってありがとうございます☆

「アルフォード……」

「アルフォード様?」

「アル兄上?」


 三人三様に声が上がったが、どれも困惑の色があった。


 アルフォードは、シジマール侯爵のことも見えていないようだった。エリアルに向かって巨体は躊躇いなく進んできて、エリアルの前で膝をつくアリストに気付いたように怪訝な声で尋ねた。


「アリスト、何をしてる」


 アリストはその存在感と威圧感に尻餅をつきつつ、少し恥ずかしそうに


「求婚しようとしてたところです……」

 

と、正直に告げた。


「きゅうこん……。求婚??」

 

 アリストは、激しく頷いた。アルフォードの威圧感が増したからだ。


 そこからは、アルフォードはアリストを無視したようだった。



 エリアルに向き合い、この夜会で見たときから気になって、不機嫌になった原因を前に声を荒げた。


「エリアル! そのつつしみのないドレスはどういうことなんだ。クレインはどうした? 何で知らない男と踊っているんだ」


 アルフォードは、エリアルの肩を掴み問いただそうとした。そして、真上から図らずも胸の谷間を見てしまい、赤くなり、更に怒りという名の火に油をそそいだ。


「エリアル、こんな夜会で、そんなドレスを着れば、その辺の部屋に連れ込まれても文句が言えないんだぞ、危機感がなさすぎる!」


 エリアルは最初は悪いことをしてしまったかと思い、反省モードになって聞いていたが、なんだか少し違うような気がしてきた。


「おい、アルフォード。こんな夜会とか、連れ込まれるとか、お前はこの家をどう思ってるんだ」


 シジマール侯爵は、眉間を揉みながら、アルフォードに言った。


「叔父上、こんな奥まった部屋に彼女を連れてきて、どうするつもりだったのですか」


 そういえば、リリスは、シジマール侯爵の妹君がアルテイル侯爵家に嫁いで、親戚の関係があるからアルフォード様が夜会に出ることになったといっていたような気がする。

 そうでなければ、こんな奥まった居間にアルフォードが案内もなくたどり着けるわけがないと、気付く。


「あの、アルフォード様、シジマール様はご挨拶くださっただけで……」

「そのドレスで男の前に立つというのが信じられない……」


 エリアルは悲しくなってきた。

 確かに恥ずかしいとは思ったが、流行の形だし、母もデザイナーのマダム・サテンも褒めてくれた。それほど、酷いとは思っていなかった。

 リリスも似合ってるといってくれたのだが、そんな恥ずかしいものだったのか……。


 言葉なく項垂れる。


 エリアルはそのとき、肩に置かれた手に力がはいったのを感じた。大きな身体を屈めて、エリアルだけに聞こえるような小さな声が聞こえた。


「首筋をみせてはいけないと……いったのを覚えていないのか……」


 エリアルに降ってきた言葉は耳元だったからか、ゾクリと背中に痺れがはしった。一瞬砕けそうになった足に必死に力をいれた。崩れそうになったのに気付いたのか、アルフォードはエリアルの腰を抱いて、支えた。


「叔父上、エリアルを送ってきます」


 アルフォードは、このドレスのエリアルを人に見せたくないのか、肩から自分の上着をかけた。そして、シジマール侯爵にそう言った。


「アルフォード、お前はエリアル嬢のことが好きなのか? 恋人か?」


 アリストもやっと立ち上がり、事の成り行きを見守る。自分が見初めた女性が兄とも慕う従兄弟の恋人だったとは、なんともやりきれない。


 エリアルは、ギュッとアルフォードの上着を握りしめる。


「いえ、違います。部下の妹です。私も妹のようにおもっています」


 アルフォードの言葉に、シジマール侯爵が固まる。


「まて、お前は……、自分の恋人でもない女性にあんなことを言ったのか?」


 アルフォードにはどの言葉かわからないようだった。シジマール侯爵は、少し甥であるアルフォードを不憫に思った。どう考えても独占欲から出た言葉だろう、エリアルを見せたくないのは、わかるが、言葉が間違っている。


「妹があんな目で見られているのを我慢できません」


 お前も同じ目をしてるよ……といってやりたいが、エリアル嬢に失礼だしなとシジマール侯爵は黙った。


「妹なんかじゃ、ありません!!」


 エリアルは顔を上げて大きな声を出した。


「エリアル……?」


 アルフォードが来てからほとんど言葉を発しなかったエリアルが、怒ってるような声をだしたので、アルフォードは驚いてエリアルを覗き込む。

 

 その瞬間、ガツッ! と音がした。痛みに仰け反る。


 エリアルが、顎に頭突きらしきものをかましたのだ。


「うーーーーっ」


と、エリアルの痛そうな声が聞こえて、アルフォードは自身の痛みよりもそっちが気になった。


「エリアル、大丈夫か?」

「どうして……、妹なら放っておいてください!!」


 アルフォードを突き飛ばして、エリアルは居間から逃げた。その素早さはアルフォードも驚くほどで、呆気にとられながらも、追いかけようとしたところを叔父にとめられたのだった。


「アルフォード、妹というなら放っておきなさい。彼女は妹になりたいのではないのだろう。追いかけるのは彼女を女と認めてからにしなさい」


 エリアルが既に追い詰められていたことに、シジマール侯爵は気付いていた。そうでなければ、こんな場所でアルフォードにキスしたりしなかっただろう。少し目標がずれて、彼女の口はアルフォードの顎に直撃してしまったが。


「女? そんなことは関係ありません。エリアルは泣いていました」


 アルフォードをアリストが留めようと立ちはだかったが、腹に一発当てられて、アリストは崩れ落ちてしまった。場数が違いすぎるのだ。息子の勇気だけは、褒めてやろうと、アルフォードが駆けていくのをシジマール侯爵は、見送った。

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