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罠師ですか?いいえ、狩人です

読んでくださってありがとうございます☆

 アルティシアは、少しづつ元気になっていくようだった。

 熱が出て会えない日は、アルフォードに許可をもらって、庭の花を摘んで届けてもらったり、街にでて、ショコラの美味しい店をさがしたり、クレインはそんな自分を意外に思いながら楽しんでいた。


 アルフォードは最初の二週間こそ時間もなく、寝る間もおしんで働いていたが、この頃は少し時間もできて、アルティシアの元に見舞いにいっているようだった。


 あの日から二ヶ月後に神殿で葬儀が行われる。その後、クレインは見習いとして騎士団への入団が決まっていた。


 そうなれば、騎士団での生活がはじまる。クレインの家は王都にもあるので、通いが許されているが、自由になる時間はほとんどなくなるだろう。



 アルフォードは、あれほどの功績を残しながらも、祝勝パレードに出ることもなく、祝勝慶賀パーティにも顔を見せなかった。

 ジリアムに連れて行かれたクレインは、そこでアルフォードが昇進し、西方の副司令官の栄誉を得たことと、爵位を継ぐために騎士団を辞めることを知らされた。


 クレインが憧れた騎士団に、もうアルフォードがいないのだと思うと、自覚していた以上に気落ちしてしまった。


「クレイン、元気がないわね」


 その日もベットの脇でアルティシアから、昔のアルフォードの話などを聞いていたが、ふとアルフォードが自分の目の前からいなくなるのだと思うと落ち込んだ。

 

 アルティシアはクレインの僅かな感情の起伏にすら気付くような優しい人だった。元々の性格もあるのだろうが、自身の心身に傷をおったことで更にその感覚がするどくなっているのだろう。


「そうかな……」

「ええ、なんだか寂しそうだわ。家に帰りたい?」


 家族に会えないことが寂しいと思っているのだろうか、どうもアルティシアはこの年頃の女性によくあるようにクレインを年下のように思ってる節がある。王都にある屋敷には顔をだして、母と妹には会っていた。父は領地にいるので会えないが、だからといって寂しいということはない。


「家は別に……」


 今なら、優しく頬に触れてくれるアルティシアは頷いてくれるだろうかと、クレインは思う。ずっと思い悩んでいたことだ。正直、毎日アルティシアに聞きたくて、必死に我慢していたのだ。

 今なら、お茶の用意をしに侍女は席を外している。


「ねぇ、シア。僕のこと好き?」


 意図して、少し幼い口調で聞いてみた。ジリアムが聞いたら噴出すだろう。


「え、えええ……」


 イエスなのかノーなのかよくわからない言葉だった。アルティシアは、こんな風に直接的に好意のあるなしを聞かれたことがなかったので、目線が宙を彷徨うのを止められなかった。


 クレインは、アルティシアの動揺に気付いていたが、止める気はなかった。


「シア、まだ僕は大人じゃないけれど、大人になって、君を抱きかかえれるようになったら、僕のものになって欲しい……」


 逃げそうになる手を掴まえて、両手で押し抱くと、クレインの本気が伝わったのか、アルティシアは今までの混乱が嘘のように静かな瞳になった。手には力が入っているが、それはクレインを拒否していなかった。なのに、言葉はクレインを押しとどめようと、説得しようとする。


「それは駄目よ。クレインは大きくなったら伯爵様になるの。私じゃ駄目なの。家の差配もお客様を迎えることもできないわたくしでは、あなたの邪魔になるのよ。---お願い。わたくしに自分を嫌いにさせないで」


 アルティシアの右の足の腱はうまくつかなかったらしい。それはアルフォードから聞いていた。普通に歩くことすら出来ないアルティシアでは、伯爵の奥方として社交界にでることも出来ないだろう。

 そんなものを求めているのではなかったが、アルティシアはクレインの負担になる自分を嫌いたくないと言う。


「シア、それは違う。僕はーーー」


 それ以上は言えなかった。幸せにすると言いたいのに、このままだったら、きっと彼女は思い悩むだろう。伯爵家を救った英雄の妹を嫁にするということは、謝罪だと償いだと思われるのだ。彼女がそう思わなくても、きっと周りはそう噂するだろう。


「泣かないで、クレイン。お友達でいましょう。私はあなたのことが好きよ」


 友達としてなら傍にいてくれるというアルティシアは、酷い人だと思う。

 あまりに冷たい言葉に涙が出た。


「クレインの泣いてる顔は、とても綺麗だわ」


 慰めてもくれない、酷すぎる……。鑑賞されるのは慣れていたが、今はそれを平然と受け止められなかった。


 クレインは、アルティシアの頬に無断でキスをした。チュッと音を立てると、びっくりしたようだ。


「きゃっ」


 慌てるアルティシアが可愛くてたまらない。


 してやったりとクレインが涙を拭きながら笑うと、アルティシアは怒ったように枕を投げてくる。


「僕は、諦めない」


 長期戦になりそうだ。アルティシアに宣戦布告すると、やはりアルティシアは真っ赤になって言った。


「もお!恥ずかしい人ね!」


 アルティシアは、怒ってるほうが可愛いと、クレインは思うのだった。



 =========================



「そういえば、今年は何も言わなかったわね」


 アルティシアは、年々艶やかな花のように美しくなっていく。この花は何度クレインがプロポーズをしても、頷いてくれない。ここ何年かは彼女の誕生日に求愛していたが、今年はもう誕生日も過ぎたが、クレインはアルティシアに愛を請わなかった。もう十二年もたってしまった。


「やっと諦めたのかしら?」


 クレインは、どこでこんな妖艶な笑みを覚えてくるのだろうかと、心配になる。

 アルフォードに許可されている男友達はクレインのみだというのに。

 哀れまれるのを嫌って、アルティシアは親戚にすらほとんど会わないという。


「諦める? 本当にそんなことが可能だと、おれのお姫様は思ってるのですか?」

「あなたがしつこいってことは、わたくしは知ってるけれど、貴方もそういうお年でしょ」


 クレインはそっと髪を一つまみ掴んで、彼女に見えるように聞こえるように、音を立ててキスをする。


 髪に手に、許されるならつま先にだってキスしたいが、クレインは一度も唇を求めない。 

 それを知ってるから、されるままになっているが、アルティシアもそろそろ潮時だと思っている。この麗しい王子様なのに黒い笑みを浮かべるクレインが、結婚を迫られる年になっていること、結局自分は杖を手放すことが出来ないということも諦めがついてる。


「そろそろいい頃合だと思っていますよ。シア、覚えてますか? アルフォード様が結婚するなら自分も身の振りを考えるといってましたよね」


 そういえば、いったような気がする。アルティシアは大分昔の記憶をさらう。


 アルフォードが侯爵になって、数々の縁談がもちこまれることになった。若干二十二歳、救国の英雄であり、国王陛下のおぼえもよろしく、王太子殿下のご学友である。ないほうがおかしい。


 それを一々断るのが面倒くさくなったアルフォードは「俺は結婚はしない」と公の場で宣言してしまったのだ。どんなに国王陛下がとりなし、命令しても、『もう自分のことで家族を失いたくない』とアルフォードが声を詰まらせれば、もう誰も何も言えなくなった。


 顔色をなくしたのは、アルティシアだ。アルティシアは、両親が亡くなって、自分が痛みの中にいた当時のことはあまり覚えていない。アルティシアが何となく覚えているのはクレインに出会ったあたりからで、痛みをとるための薬が記憶をあいまいにしたのだと聞いた。そして、自分が痛みと傷心の中で兄をなじったことも当時の侍女から聞いた。

 

 酷い言葉だった。自分の放った言葉というのが信じられない。


 錯乱というのはそういうもので、普段大人しい人ほど、人格が変わるらしい。


 いっそ、自分も死んでしまえばよかった……と、初めてアルティシアは思ったほどだった。


 その時期にそういったと思う。


「でもお兄様は結婚されなかったわ」

「ええ、でもこれからしないとは限りませんよね」


 クレインは成人してから、アルティシアには凄く丁寧な言葉を使うようになってしまった。昔のようにもう少し砕けてくれたらいいのにと思うが、そんなことは言えない。ショコラを口に運んでくる手も、昔の大きさとは違った。


「でもしないかもしれないじゃない」


 仮定の話はむなしい。


「アルフォード様は、自分のいない間に何かあるのが、怖いのでしょう? ですから、アルフォード様が護れなくても自分で逃げれるくらい強かったら、安心できるんじゃないですか? 強いですよ……エリアルは」


 エリアルというのは、年の離れたクレインの妹ではなかっただろうかとアルティシアは思う。


「剣も弓も馬も教えました。野外で野宿する術も、簡単な毒くらいなら耐性もあります。さすがに人を殺めたことはありませんが、自分と大事なものを護るためならそれに耐えれる強靭な心ももっていますよ」


 アルティシアは無意識に息をのんだ。この男は妹に何を教えているんだと驚愕する。


「私もね、大事なものがあるんです。わかってますよね?」


 何が?と聞けない。クレインが執着してるのがアルフォードとアルティシアということくらい長い付き合いでわかっている。エリアルに心の中で何度も謝罪する。


「妹さんを罠にお兄様をしとめるつもりなの?」


 アルティシアは確信を持って、クレインに尋ねる。

 クレインは、緑の双眸が見えないくらい笑顔で違うと否定した。


「罠? 違いますよ。私は罠師ではありません」


 キラキラと髪を掻きあげて、笑顔が変わる。一瞬の表情の変化の中にアルティシアは悪魔を見たと思った。


「私も妹も、狩人ですよ?」


 知らなかったんですか……可愛い……。と呟くクレインから視線を外して、アルフォードの無事をいのるアルティシアだった。


 二人の横には『変わらぬ愛』を花言葉にしたキキョウが咲いている。


あ~長かった!!(笑)。やっとエリアルに戻れます。

何気に「恥ずかしい人ね!」が気に入りました。

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