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狩人は混乱する

読んでくださってありがとうございます。

 ハールは急いで会場を出ることにした。

 足早に歩く二人だが、人ごみでもぶつかることはない。


「ここで待ってて。馬車の用意をしてくる」


 侯爵家の召使に頼めばいいが、自分で行くほうが早いし、二人でじっと待っていると絶対に話しかけられてしまうだろう。それなら、女性専用の控え室にエリアルを置いて、馬車を呼んでくるほうが早い。


「うん、ありがとう」


 歩いているうちに少しは気持ちが持ち直したのか、ハールに気を使ってるのか、エリアルは微笑んだ。


 ============================


 ハールが馬車を呼びにいって、直ぐに侯爵家のお仕着せの服をきたメイドがエリアルの元にやってきた。


「グレンリズム伯爵令嬢エリアル様でいらっしゃいますね。閣下がおよびでございます。お疲れとは存じますが、どうぞお越しいただけますでしょうか」


 しっかり躾けられているだろうメイドは、エリアルにそう告げた。


「閣下が……」


 エリアルは戸惑いながらも、ついていくことにした。


 探してくれたのだろうか……、少し期待してもいいのだろうか……。


 エリアルは、普段ならあり得ない失敗をしてしまった。恋というのは冷静な判断を狂わす薬のようなものだ。けれど、そのときのエリアルは過ちに気付くことは出来なかった。


「コンテス子爵さまが戻られたら、少しお待ちくださいとお伝え願えますか」


 控え室で休憩してる女性達に給仕してるメイドの一人に言付を頼んだ。



 =============================



 パーティの喧騒をさほど感じない静かな廊下を歩いて、エリアルが案内されたのは、屋敷の奥まったところにある部屋だった。こじんまりしていながらも客を萎縮させない過ごしやすい部屋で、身近な友達だけを招待する居間のようだ。


 しまったーーー。


 エリアルは、メイドが案内した部屋で待つ人物をみて、自らの間違いを悟った。


「ようこそ、グレンリズム伯爵令嬢」


 そこに居たのは、二人の男性だった。


 一人は先ほど遠目にみたシジマール侯爵閣下。隣にいるのは、シジマール侯爵と似た顔立ちで、優しげな微笑をエリアルに投げかける……息子だろうか。


 そう、侯爵閣下。閣下と言われて、アルフォードを思い浮かべてやってきた自分の迂闊さにエリアルは眩暈がした。


 普通、自分の勤める屋敷の主人を指すのに『閣下』はないだろう……。主人なり、旦那様なり、主なり、色々あると思うのだが……。エリアルのアルフォードへの想いを知って使っているわけではないようなので、本当にただの自分の勘違いだ。


「お初にお目にかかります。エリアル・シュノーク・グレンリズムです。御用とお伺いしたしました」

 

 シジマール侯爵に用があって来たわけではないが、成り行きというものもある。伯爵令嬢として丁寧に挨拶をする。


 シジマール侯爵は、エリアルの父と同じくらいの年の男性だった。


「ようこそ、我が家へ。お会いしたいと思っておりました。ガルン・ポルト・シジマールです」


 立ち上がり、エリアルの手をとり、挨拶をする。侯爵閣下とは思えないほどの丁寧な言葉遣いだ。エリアルは恐縮する。


「父上、近いです……。こんばんわ。アリスト・ケルン・ワグナーといいます。王宮の舞踏会でお見かけしました。……我が家へ来ていただけると知っていたら、もっと歓迎したのですが……」


 何故だろう、少し棘があるような気がする。

 知らない人なのに、何故歓迎してくれるのだろうかと思う。


 エリアルの戸惑いにアリストは気付いたようだった。


「もしかして、私が求婚してることを知らない?」


 アリストとシジマール侯爵は、目線で会話をしてるようだった。


「あの……どなたに?」

「あなたです。エリアル嬢、あなたに私が求婚してるのです」


 エリアルは驚きのあまり目を見開いた。


 緑の双眸がアリストを見つめる。


「申し訳ございません。わたくしは何も……。そういうことは父と兄が決めますので」


 クレインは何も言っていなかった。

 エリアルはまだ十六歳になったばかりで、もう二年か三年はそういう話はないと思っていた。

 サラマイン王国の適齢期は十代の後半から二十台の前半くらい。女は十六歳が成人だが、男は十八歳が成人になる。成人するまでは、結婚は認められない。

 貴族といっても子供のころからの婚約者というのは、あまりいない。もし、親が決めた婚約とかになれば、クレインはリリスを。エリアルはハールが婚約者ということになっている。

 女は成人と同時に、親が結婚相手を探す。


 だから、もし婚約の話が来ていたとしても、エリアルに話が通っていないことはあり得る。むしろそのほうが当然だった。


「そうですな。申し訳ない」


 シジマール侯爵は、年端ないエリアルにも自身の勘違いを謝ってくれた。エリアルは、好感をもってシジマール侯爵に会釈した。


「それでは、エリアル嬢、私にーーー」


 アリストは、父の謝罪を受けて、エリアルに交際の申し込みをしようと、そっとエリアルの手袋に包まれた手をとって、懇願のために膝をついた。


 ガコーーーーン!


 扉さえ開いて壁に叩きつけられなければ、その願いはエリアルの耳に届いただろう。


「エリアル!!」


 そこに居たのは、怖ろしく目のつりあがった巨大な闇だ。扉は開いて壁にぶつかり、反動で音を立てながら閉まった。闇はその隙をついて、巨漢を滑り込ませたが、「ぎゃ!」という声がきこえて、消えた。

 ガコンと鳴ったのは、大きな体躯のアルフォードではなく、後から追いすがってきたメイドの額に打ち付けた音だろう。扉が閉まったので、どうなったのかは想像するしかなかったが、かなり痛そうだった。


 あまりにあまりな登場に、エリアルも屋敷の主人であるシジマール侯爵も、エリアルに求愛しようとしていたアリストも呆然と見上げることしか出来なかった。


 そこには巨大な怒れる野獣が牙をむいて、エリアルを凝視していた。


 先ほどのホールでの不機嫌な顔が普通の顔のようだと、エリアルは背中に冷たいものが流れるのを意識しながら、息を飲むのだった。

今日もアドバイスをいただけたので、それを生かして、少しでも読みやすくなればいいなと思います。ありがとうございます♪少しづつ誤字脱字などを直していくつもりです。よろしくお願いします☆

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