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狩りは緑のドレスで

読んでくださってありがとうございます♪



 エリアルのこの美しさって詐欺だよな……。

 もちろん一つとしてまがい物はないんだけど。

 去年までは、ハールが家に行くたびに剣の相手をしろと詰め寄ってくる恐ろしく元気な子供だった。相手をしないと三歳年上の男に殴りかかってくるのだ。

 おれがエリアルに恋心を抱きながらも一度も告白しようとかキスしたいとか思えなかったのは(させてもらえるとも思っていなかったが)エリアルが子供過ぎたせいもあるだろう。

 こうして、じっと立っていれば、王宮で人気な兄に似てるだけあって恐ろしいくらいの美少女だし、感情が吐露される瞳の輝きは半端ない魅力だ。


 来る前にリリスに釘をさされた。


「ハール様、貴方を信じています」


 リリスはおれがエリアルのことをずっと想っていたと思っているので(そのとおりではあるのだけれど)、不安なようだった。この一月、一緒に出かけたり、手を繋いで思いを告げたり、初めてキスをしたりして、おれは必死で挽回してきて、リリスも受け入れてくれたとは思うのだが……、このエリアルを見てリリスは困ったように言ったのだ。


「貴方がエリアルのことを……」


 おれは、エリアルの前だというのに、リリスにそっと二回目の触れるだけの優しいキスをした。リリスは驚いたようだったが、おれの気持ちはわかってくれたと思う。


「リリスをエスコートしたかった」


 おれの本心を信じてくれたようで、リリスはエリアルとおれを恥ずかしそうに何度もみて、エリアルの影にかくれてしまった。


「リリス、ごめんね。ありがとう」


 エリアルは、申し訳なさそうに謝った。リリスは顔を横に振り、ギュッとエリアルに抱きつく。


「おば様の見立てが素晴らしいのはわかったけど、エリアル、本当に気をつけていってきてね」


 エリアルは今年の舞踏会のためにと何着かのドレスを作ってもらった。デビューに着ていったのは、エリアルが選んだ可愛らしいドレスで、アルフォードを前にしたときは、こんな子供っぽいのをなんで選んでしまったのだろうと後悔した。


 だが、一緒に作られたドレスはどれも大人っぽいというか、恥ずかしくて、着るのに勇気がいる。今年の流行は、大胆に胸元を強調したというか、首から肩にかけて布着れ一枚もないものだった。

 下をむけば、コルセットで更に強調された胸が突き出ていて、お腹の部分なんてみえない。背中も同じように胸を隠すラインと同じくらいまでしか布がないので、心もとない。

 大胆なドレスには、エリアルのいつもの髪型では負けてしまうので、華やかに結ってもらっている。ドレスの色は濃い目のアイスグリーンで、エリアルのまだ子供っぽい表情を大人びてみせている小さな白い真珠が縫いこまれていて、華やかにしてくれた。髪に同じ色でリボンが品よく編みこまれている。ところどころに真珠がちりばめられていた。

 首元には同じように小さな真珠がいくつも花の形を模られている。

 歩くと滑らかな布地がいくつもドレープを作りまとわりついて、エリアルのスタイルのよさを強調した。


「私のドレスが入ればよかったのだけど……」


 残念ながらリリスのドレスは、どんなにエリアルがコルセットで締め上げたとしても入りそうな気配はなかった。


 こんな姿で人前に出なければ、アルフォード様に会えないとは、なんという過酷な運命だろうかと、エリアルは嘆きそうになるが、エスコートしてくれるのがハールでよかったと思う。


 緊張もドキドキもしないのだもの。


 何気に酷いことを思うエリアルだった。




 今回のパーティは、シジマール侯爵家の令嬢のおひろめらしい。


 リリスが仕入れてきた情報によると、令嬢が適齢期になったので、花婿候補を探すためのパーティなんだそうだ。ハールが招待状をもらったので、エリアルをパートナーとしてつれていくことができる。一番重要なのが、アルフォードが出席すること。それはリリスがお茶会で仕入れてきた情報だ。

 王宮のパーティではないので、アルフォードもきっとパートナーをエスコートしていて、エリアルに構ってくれることはないだろう。


 偶然のように出会って、一言二言でいいから、言葉を交わしたかった。いや、それすら無理かもしれない。遠くからアルフォードの姿を見れれば、それだけでいい……。

 エリアルは、クレインに隠れてリリスの家からハールをパートナーにしてでかけることにしたのだった。




 ハールはしまった……これは大変なことをしてしまったかもしれないと、青くなった。

 エリアルを馬車からエスコートして、会場のホールに着いたところで気づいてしまった。

 めちゃくちゃ見られてる……。あちこちから凄い視線を感じて、その視線の先がエリアルだった。

 まずい……。ハールは子爵だといっても、まだ父の後ろ盾でなんとかその地位があるだけの伯爵家の跡取りでしかない。王宮に伺候してるとはいえ、まだ一年目のペーペーだ。


 無理だ……エリアルを護りきれる自信がない。


 ハールは持ち前の洞察力で、それをすぐに理解した。


「エリアル、もう挨拶の時間は終わってるようだ。おれは今から、ひとつ提案したい」

「なに?どうしたの?具合わるい?」


 ハールは青い顔で固まっていたが、直ぐに肩に手を置き、説得の体勢をとった。

 侯爵や令嬢の挨拶は終わっていても、ここにはハールの上司たちもいるはずだ。挨拶周りするのなら時間つぶしにつきあってやろうと、エリアルは思っていた。


「踊るぞ、ノンストップだ。誰にも話しかけられないようにするには、もうこれしかないんだ」


 早口でそう言ったハールは、目の端に移る上司や先輩がこちらにというか、エリアルにむかって歩き出すのをみて、焦ってエリアルの手をとった。

 それが功を奏したのか、中央に向かって踊り始めると、また後でいいかというようにいくつかの足の動きがとまった。


 危機一髪だ。しかし、今日クレインは来ないと言っていた。早くアルテイル侯爵がくればいい。そうすれば、エリアルも満足して帰る気になるだろう。

 

 何かあったら、リリスに泣かれるだけじゃない。……クレインに殺される……。


 ハールは、引きつりながら必死にエリアルをリードするのだった。

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