第八話
『こちら三階空き教室、ターゲット無し別のポイントを探しに移る。』
『こちらHQ了解した。引き続き裏切り者を探せ。』
今朝の騒動は収まることなく昼休み、木村を指揮官に置き神保剛志討伐隊が結成され、俺は昼飯を食う暇なくこの通常物置にされている空き教室でダンボールを被り蛇よろしく隠れている。
討伐隊が教室から出て行ったのを確認し、周囲を警戒しつつダンボールから出て携帯で時間を確認すれば昼休みが半分終わっていた。
昼食をとるために下手に動けばあの狂戦士どものかっこうの的だろう。
「あ~・・・、腹減った・・」
「あら神保君こんなところに隠れてたの?」
少しでもストレス解消すればいいと思ったが、虚しさを感じたので再びダンボールをかぶろうとしたら、昨日今日との問題の発生源である園木が教室に入ってきた。
「誰かさんのせいで、クラスの野郎どもに命狙われているから教室でゆっくりできないもんでね」
「あら、せっかく人が貴方の机から貴方のお弁当持ってきてあげたのに、そんな口きいていいのかしら?」
「ありがとうございます。この恩は今夜で好物を作らせていただいで返させていただきます。」
園木から弁当を受け取り弁当を勢いよくかき込む。
「食事で釣ろうなんてバカなんじゃない?あなたが家の組に入ってくれれば全て解決するのよ。」
「だから、何回言われても俺はヤクザになるつもりはない。さっさとお前が親父さんに諦めるように説得するのも得策だと思うんだけど?」
「娘をたった一人男を手に入れるために無理やり転校させるような男よ、話が通じるとおもう?」
一気に腹に流し込み弁当箱を空にする。
「まあ、どのみちそっちの道に進む気ゼロだから。お前の親父さんがこれ以上何かをしでかさない限りは、こっちも手を出すつもりはないよ。」
ドアに耳を当て外から気配を探る・・・・人数は少ない、これなら行ける
「弁当ありがとな、じゃあ、時間もあとちょっとだから行ってくるわ」
「頑張りなさい。もし捕まって罰を受けたら私が貴方の妹さんたちに罰を受ける羽目になるから」
最終確認で左右を見回し、敵がいないことを確認して今度は屋上へと走って向かう。
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どうにかHRになり、あと少しで狩りが再開できるからか、バーサーカー共は殺気を俺に放ち飢えた獣のようになっている。
いつもあの場所で感じる空気を教室で感じるため、思わず口角が上がってしまう。
荷物をカバンにまとめチャイムと同時に動けるようにする。
さっき腹を下していると言って柔道部の武田が出て行ったが、多分玄関を抑えに行ったただろう。
だが、狙うは玄関。下手に逃げて突破口である玄関を塞がれたらジリ貧になるため。早く行き防御が手薄のところを強行突破する。
長い話ももう少しで終わりそうになり、殺気が一層強くなる。
「じゃあ、部活行く奴は頑張って部活入ってない奴は勉強を頑張るように」
担任が教室から出てった瞬間、カバンを抱え姿勢を低くしてローリングで攻撃部隊の股を抜け、扉を開け玄関に向かい階段をダッシュで駆け抜ける。
靴を履き替える時だけ時間を歪め、隙を短くする。
予想通り玄関にはさっき出て行った武田が待ち構えていた。
「悪いな、武田通らせてもらうぞ」
「勝てると思うなよ、これでも柔道部意地の実力をみせてやる。」
後ろの階段からは複数の走って来る足音がする、勝利条件は武田を倒して家に帰ることのみ。
掴みからの決め技さえ気をつけていれば柔道は怖くない、後はいつも通り顎に決めて脳震盪起こさせればいい。
武田は柔道部だけあって体が大きく力があるが、地下の化け物どもと比べれば全然可愛い。
左足をひき半身にし、左足のつま先に力を込める
「一発で決めるぜ。歯食いしばれ」
五割程度の力で上段蹴りを武田の顎に掠るように放つ
「どうした、かすっ・・・・、あれ?」
プロのボクサーだってすぐには気づかないんだ、素人のしかも喧嘩慣れしてないであろう、高一の柔道部にはすぐには気づけまい。
「今度俺を止めたかったらもっと数を多くするか実践経験豊富なのを連れてこい、お前一人じゃあまだまだ俺は止められねえよ。」
リュックを背負い靴を履きダッシュで家へ向かう。
流石に教えていなければ家に押し込まれることは、・・・・・念には念を入れてかなり遠回りでめんどうくさい道を通っていこう。
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「それじゃあ、行ってくるんで、俺が留守の間頼みます結城さん」
「はい、頑張ってくださいね。」
「にいちゃんいってらー」
「いってらっしゃいです兄さん」
「頑張ってなー兄貴」
「いってきます。結城さんにあんまし迷惑かけるなよ。」
夕飯はできていることと、いつも言っている小言をいくつか言い、玄関横に停めてある自転車で試合場に向かう。
「神保君ちょっといいかしら?」
家から少し離れたところで待っていたのか園木に声をかけられた。
「どうした?やっと自分の家に帰るか?」
「それはもっと先になりそうよ、私が聞きたいのは家に居た20代くらいに見える丸メガネをつけた女性は誰か聞きたいの。」
「あの人は結城菫玲さん、俺が仕事行ってる間子守兼家を守ってもらってる。」
「子守はわかるとして、あの人強そうには見えないんだけど。」
「人は見かけによらずってやつだよ。暗くならない内に家に帰ったほうがいいぜ。何が出るかわからねえから。」
ペダルを踏む足に力を込める。
「ちょっと待って、私貴方の試合見てみたいんだけれど」
薄暗い通路出口からは熱を持った歓声が聞こえる。
服は掴まれる危険性があるので身につけるのはボクサーブリーフ一枚
『さあ、ご集まりの皆様、大変長らくお待たせいたしました。このクラスのキング全戦全勝の無敵のファイター神保剛志の入場だああああ』
アナウンスの終わりと同時に入場し誰かを睨むでもなく虚空に向けて中指を立て威嚇をアピールする。
『そして、その全戦全勝の化物に挑む最高にクレイジーな野郎はコイツだああああ』
反対側の入口からは、全身を筋肉で包まれた浅黒い色の身長190cm。年齢は・・・・20代前半から半ばくらいの大男が出てきた。
『日本出身身長195cm体重120キロ。柔道5段相原龍二』
『この試合のルールは簡単。金網有刺鉄線で囲われたリングで行われる。武器、目ん玉、金玉、命を奪うことですらOKな何でもアリの正真正銘のデスマッチルールだ。
気絶、死亡による戦闘不能、タップ、K.O簡単に言っちまえばどんな状態であれ、相手をダウンさせちまえば勝ちのシンブル且つ残虐性の強いルール。
さあ、今夜またキングが伝説を続けるのか。それとも、挑戦者がキングを王座から引きずり下ろすのか、注目の一戦だああ』
指と首を鳴らし相手をよく観察する。
筋肉のつき方は無駄に大きくしたものでは無く、鍛えた上で大きくなったものだろう。
指の太さから見て得意なのは打撃系では無く、関節系だろう。
「全く、化物がいるっていうから来てみればとんだガキじゃねえか」
どうやら向こうはもっと目に見えて分かる化物を期待していたらしく、俺の姿を見たとたん目に見えてがっかりしていた。
『試合開始まであとわずか、さあさあ、賭けるんなら急いだほうがいいぜ』
互いにリングに入りにらみ合い、開始のゴングが鳴るのを待つ。
『これから鐘が鳴ればお互いに生きて出られる保証はできないがいいか?』
「ふんっ、こんなガキに負けるほど俺は弱くねえよ」
「さっさと始めようぜ、この世間知らずのゴリラ野郎を早くぶっ飛ばしてやる。」
『レディィィ・ファッイ』
ゴングが鳴るとほぼ同時に右手で掴みかかってくるのを、半歩それて躱す。
戻ってくる右手でエルボーが来たので、ガードしてあえて受ける。
パワーは予想通りで吹っ飛ばされ、背中を思いっきり金網に叩きつけられる。
「随分と粋がってたくせして弱いじゃねえかよガキ」
「冗談、こんなんで俺を倒すつもりじゃねえだろう」
体の調子を確認しながら
「てめぇから一発もくらわないで倒すことだって出来るんだ、なぜそうしないかわかるか?」
観客には聞こえない声でやつに話しかける。
「強がりはやめな、無様だぜ」
「毎回俺が圧勝するだけの試合を見たって誰も面白くない。わかるか、俺はわざとお前の攻撃をくらってるんだ、そうしなきゃ見てて楽しくないだろう?」
首を鳴らしながらゆっくり歩いて間合いを詰め直し、最初と同じ状態に戻す。
「今度はこっちからいくぜ」
半歩踏み込み、体を若干左にずらし右のつま先で鳩尾をえぐるように蹴り上げる。
上半身が前に倒れ腹を抱えてるところに、戻す足でかかと落としを決める。
「どうした?さっきまでの威勢はどこいった?」
「たった二発決めただけでいい気になってんじゃねえよ糞ガキ、ぶっ殺してやる覚悟しな。」
片膝をついていた状態から立ち上がりから今度は左手首を掴まれてる。
そのまま腕一本での背負い投げそして、隙を作らず腕十字を決められる。
「おいガキ前言撤回だ、今ここで私は弱いのに粋がってましたって言えたら腕折るだけでゆるしてやる。」
予想通りに関節技は見事に隙が無く、簡単に抜けられそうにない。
「冗談、これで勝ったつもりか?逆にプレゼントに左腕一本くれてやるよ。」
自分で体を右方向によじり肩を外す。
「んなっ・・・お前正気か?」
「どうした?最強から腕一本もらえたんだ、もっと喜んだらどうだ」
腕が外れた一瞬力が緩んだので左腕を引き抜き関節技から脱出する。
「肘を外されると色々と面倒だ、肩ぐらいならどうにかなる。」
距離を取ってから左腕を伸ばして地面に押し当て、無理やり肩の関節をはめる。
「痛ってえけどよ慣れちまえば我慢はできるんだよ。」
相原は一瞬真顔になったが急に笑い出し
「最高だよ、おもしれぇ。最強ってのは嘘じゃなかったんだな。」
「初めからそう言ってたろ、ここでの最強は俺だって」
時間を歪める
世界を1/2に自分を1.5倍速合計3倍速にする。
勢いをつけて距離を詰め飛び、前宙からのかかと落とし、体を持ち上げる力でサマーソルト、落ちてくる体に後ろ回し蹴りで壁に当てる。距離を詰め跳ね返る力に合わせて膝蹴りを腹に決め、手を祈るように握り上段から振り下ろし顔面に当てる。
時間の流れを戻し気を抜かないようにして距離を開ける。
『で・・・・・でたーーーー。キングの必殺コンボ。これをまともにくらってたちあがれた奴は未だかつていない。キングの勝利は確定なのか』
完全にK.O判定が出るまで気を抜かず、10カウント取って判定が出てから気を抜く。
『また今夜も一人のファイターがキングの必殺コンボをくらってダウンした。
さあ、いつになったらキングを倒せる強者が出てくるのか、はたまた、キングはこのまま死ぬまで一度も敗退することなくおわってしまうのか。今度はどんな相手が出てくるのか来週に期待だ』
勝敗が決しゲートが空いたので左肩をいたわりながら救護室に向かう。
「随分と見せる試合に慣れているのね。」
救護室に入ると園木が応急処置用の湿布と包帯を準備していてくれた。
「見てて楽しかったろ。一方的にボコボコにするのはたまにはいいけど毎回だと芸がないだろ。」
「力の差は素人が見てもはっきりしてたわよ。あんなの一方的な暴力じゃない。」
文句を言いながらも包帯を巻くのを手伝ってくれる。
「それに私が仕掛けたときも今回も本気を出していなかったでしょ。」
全力を出していなかったのは見抜かれていたいだ。
「バレてた?だけど俺が全力出したら人間の体なんて簡単に吹っ飛んじまうぜ。」
「貴方どれだけ化け物なのよ・・・」
包帯で腕を固定して三角巾で腕を支えて応急処置は完了
「荷物と給料受け取って行くから時間がかかるから先帰ってるか?」
「えぇ、そうさせてもらうわ。くれぐれも夜道には気をつけなさい。貴方の場合は本当に何があるかわからないのだから」
園木と別れ、金を受け取るときに相原の状態を聞いてみると、まだ意識は回復していないが命に別状はないことに胸をなでおろし家路に着く。
「ただい「にいちゃんおか・・・ってどうしたその腕」」
「ちょっとパフォーマンスで脱臼しちゃった。」
家に入るなりそろそろ1時になるというのに瑞樹が出迎えてくれた。
「しちゃった。じゃないよ、それじゃぁにちじょ・・・・ぐふふふふ」
「やめろよ瑞樹、これで普段からくっつける&けが人を介抱しなきゃとかそんな理由で俺にセクハラすること考えるんじゃねえぞ。」
「・・・チッ」
舌打ちしたよこの娘、注意しなかったら間違いなく襲われてたよ。
「二人掛りなら・・・・」
この娘、鈴まで巻き込むつもりだよ。
「聞こえてるから。そして俺今疲れてるから肩も痛いから。」
「大丈夫にいちゃん、私だけじゃなくて鈴ちゃんも一緒に介抱してあげるから。」
鈴ですら暴走するのに何が大丈夫なのかわからないんだけど。
玄関で二戦目を妹と始まりそうな空気が流れていたら。
「瑞樹ちゃん。お兄さんは疲れてるんだからあんまり無理させちゃダメよ。」
結城さんのアシストが入り。
「瑞樹、兄さんを襲うにしても怪我してる時はダメでしょ。怪我を悪化させたらどうするの?」
どうにか鈴はまだ俺の味方だった。
「ちぇー、じゃあ治ったらにする。」
「治っても襲わないでくれ怖いから。」
荷物を自室に置いてからリビングへ行き結城さんにお礼を言う。
「いつもありがとうございます、あいつら迷惑かけませんでしたか?」
「大丈夫ですよ、鈴ちゃんを中心に手伝いもしてくれますし。私も可愛い妹ができたみたいで楽しいですから。」
「それならよかったです。あと、園木・・黒髪の俺と同じくらいの歳の女の子が帰ってきました?」
「縁ちゃんなら難しい顔して帰ってきたと思ったらすぐにお風呂入って寝ちゃいましたよ。」
あの場の雰囲気にでも当てられたのだろうか、とりあえず明日聞いてみよう。
「それより剛志くんその左肩どうします?私に治療させてくれます?」
さっきまで普通だった結城さんは顔を赤らめ息を荒くして、いつの間にか机で向かい合っていたのに俺の左側に来ていた。
「心配しなくて大丈夫ですよ、来週の試合では何一つ不自由なくいつも通りに動かせるようにしてあげますから。」
「いや・・・・心配してるところそこじゃないんですけど。」
「手術なんてしません。だた、新しいお薬を使うだけですから。大丈夫猿へ投与した結果85%は成功していますから。」
結城さん普通にしていればモテそうなのに・・・・・・上が上なだけに下も染まっていくのか、それとも集まっていくのか。
「・・・・いったいどんな効果の薬なんですか?」
いざとなったら全力で逃げればいい。
「それはですね。体の代謝をすっごく高めて傷や怪我なんかを自然治癒的に直せる薬ンなんですよ。」
「へぇ、すごいですね。それで、デメリットは?」
「薬が適合しすぎると極度の性的興奮状態になってしまいます。」
ガタン
ドアの向こうに意識を集中すると人の気配を2つ感じる。
「猿の場合はそのまま一週間くらい叫びながら暴れてました。」
感じる。ドアの向こうからとてつもない邪な感情を感じる。
「遠慮しておきます。失敗した時が怖いですから。色々な意味で・・・・」
「そうですか、残念です。「お兄ちゃんいつもお世話になってるんだから被検体になってあげなよ」」
瑞樹がドアを勢いよく開けてリビングに入ってきた。
「そ・・・その、もしも適合しすぎた場合は私が受け止めてあげるから。」
わざとらしく顔を赤らめ体をだくようにしならせる。
・・・・・・色気なんてものは微塵も感じないが。
とりあえず鈴を呼んで瑞樹を部屋に強制連行。
「すみません、俺が帰ってきてから暴走してるみたいで。」
「賑やかでいいじゃないですか。じゃあ、明日迎えが来るように手配しときますね。」
結城さんを見送りシャワーで汗を流し、部屋に行けば流石に今日は気を使ってくれたのか、瑞樹も鈴もいなかったので安心して寝ることが出来た。