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あまりのお気に入りの多さに、恐縮しきりです。

「外に出たい」




私のこのたった一言なのに、たっぷりの時間、兄様たちは固まっていた。




私はそれを辛抱強く待つ。



兄様たちが私を表に出さないようにしていることは、父の話(盗み聞きだけど・・)から分かっていたから

兄様たちのこの反応も予想していた。





ようやく我に返ったのだろう、



「ど、どどどどうしたんだサラ!?なぜそんなことを!?」



カイ兄様が思いっきりどもりながら慌てふためいた。



「サラ、突然どうしたんだ?誰かに何か言われたのか?」



さすが次期宰相というべきか、ジン兄様は驚きを封じ込め、冷静に切り出した。



「いいえ、誰にも何も言われてないわ」



「ならなぜ?」



「だって、私はもう15歳よ。あと1年で社交界デビューするわ。それなのに、未だに屋敷に閉じこもってばっかりで、外の世界を知らないの。この家の人たちとしか接してない」



「お前の言う通りだ、サラ。あと1年たてば社交界デビューする。それが、外に出るきっかけになるだろう?だからまだそんなことをする段階じゃない」



「いいえ、兄様。私、知ってるのよ。私くらいの年齢の子は皆、時々お城に集まったりしてるって。お互いの家の行き来もしているって」



私が話した途端、ジン兄様は部屋の隅に控えている侍女たちに目線をやった。

それは少し厳しいもので。



「違うわ、彼女たちからは何も聞いてない。本当よ。・・・・自分で調べたの」



慌てて私はジン兄様の視界に入り込む。

まるで、「お前たちが余計なことを吹き込んだのか」とでも言いたそうな目線だったから。




ジン兄様は少し考える素振りをした後、横に座っていた私を、ジン兄様のほうへ向かせた。



そうして膝に置いていた私の両手を、ジン兄様の両手でそっと持ち上げられる。




「いいか、サラ。慌てる必要はないんだ。今は、この家でゆっくり穏やかに暮らしていればいい」



「・・・でも私、同年代の友達が欲しいの」



ポツリと呟いた言葉に、ジン兄様が悲しそうに少し眉根を寄せた。




「サラ、遊び相手が欲しいなら、俺がなってやるぞ」



ジン兄様とは反対の隣から、カイ兄様が元気に言った。


気持ちは嬉しいけれど・・・



「カイ兄様はお友達ではなく、兄様よ。女の子でもないし・・・」



大きい兄様に抱っこされると、普段とは違って高い視線になって楽しいけれど、

一緒になって遊ぶのとはちょっと違う気がした。


女の子同士で恋の話とか、秘密の話とか・・・。日本で同学年の友達としていたようなことがしたいのだ。

一般人と貴族は違うかもしれないけれど。





「サラ、お前には、まだまだやることがあるんじゃないのか?」



自分に注意を引くようにか、ジン兄様が少し私の手を引いた。


兄様を見上げれば、まっすぐに私の目を見下ろしてくる。

相変わらずのその整った顔立ちに見惚れてしまいそうになる。



「やることって?」



「お前は、一度記憶を少しなくしただろ?マナーもこの国のことも、また一から勉強していた」



5年前、私がここに来た時のことだ。




それを言われると、私は少し悲しくなる。ずっと無我夢中だったから。


決して忘れる事のない日本の父のことを思い出しては、夜中に一人ベットで泣いたこともあった。


貴族のマナーのことなんて分からなくて、難しくて。

それでも、兄様たちの妹になるために、侯爵家の娘になるために必死で頭に詰め込んだ。

何度も何度も練習した。


本当は泣きたい時も、喚きたい時もあったけど、それは「貴族の娘」としてはできないことだったから。

耐えてきた。





「兄様たちは・・・・どうして、反対するの?」



「反対なんかしてないさ」



「うそ!私を、この家から出さないようにしているんだわ」




みるみるうちに涙が溢れてきた。決して責めたいわけじゃないのに。


今までも十分楽しくやってきてこれたのに。兄様たちのお陰で。


自分の中で、何かが溢れそうになっていたのだろうか。





「サラ・・・サラ、泣かないでおくれ」



ジン兄様が、そっと私の眦に親指を滑らせる。まるで壊れ物でも扱うかのような、繊細な指の動きだった。



「サラ、泣いているのか?」



カイ兄様もビックリして、私の背中に手を置く。




優しくしないで。優しくすると、余計に涙が出てくるから。





「兄様は、私がまだ人前に出せるような立派な子じゃないって思っているのね」




たった5年だけの、出来損ないの貴族の娘か。




「違う!違うぞ、サラ、それは」




「じゃぁ、どうして?兄様たちが、私が外に出るのを反対しているのでしょう?私っ・・・・一杯勉強してきたつもりだわ。確かに・・・確かに、まだまだかもしれないけれど・・・!」




兄様の言葉を遮って、ついでにその手も振り払ってしまった。


座っていたソファから立ち上がり、手を宙に浮かせたままのジン兄様と、突然の私にビックリした表情をしているカイ兄様に向き直る。




「兄様たちにとって、私は恥ずかしい存在なんだわ。人前に出すのも躊躇うほどに!」






涙で滲んで、兄様の顔は見れなかった。




そのまま、私は部屋から駆け出た。




サラちゃん、暴走してしまいました・・・こんな予定では・・・。

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