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「隠れ姫」だなんて呼ばれていることを知ったのは、実はつい先日のことだ。
我が侯爵家に、お客様がやってきたのだ。
父や同じく貴族出身の母の友人や知人、仕事関係の人がやって来ることは特別珍しくもない。
その時は事前に知らされているのだが、
「自室から出ないように」
とか
「庭へ下りないように」
とか
「サロンへ来ないように」
等、必ず言われていた。
私にだって分かる。私がお客様の邪魔にならないようにしているのだってこと。きっと大切なお話をされているのだから。
その言いつけは疑問に思うことなく守っていた。
だがその日。
たまたま、約束の時間より少しだけ、お客様が来るのが早かった。
まだいらっしゃってないだろう、と思って油断していた私は、お客様用の控えの間付近を歩いていたのだ。
そうして、聞こえてしまった。私の名誉のために言っておく。断じて、立ち聞きしたわけではない。
応対していた父に向かってだろう、父と同年輩くらいの男性が
「隠れ姫は今日もかくれんぼか?」
と言っているのを。
少しからかい笑いを含んだ声音で。
最初は、何かの当て言葉かと思っていた。
もしくは、何かの暗号か。
「『隠れ姫』だって有名だぞ。お前の愛娘は。隠されれば隠されるほど、見たくなるのが人の性さ」
娘・・・・
私のことを言われていると知って心臓がドキドキした。
「いや、ジルとカイがな・・・渋るんだ」
対しての父の答え。
兄様たち?兄様が何?何を渋るの?
もっと聞きたかったけど、後ろに控えていたミリーが
「サラ様」
と静かに、だけれども少し焦ったように、せっつくように呼びかけてきたので
はしたない事をしてしまった、とすぐにその場を離れて自室へ戻った。
気になって仕方がなく、ミリーに「隠れ姫」とは何のことか聞いてみたけれど
あまりにもしどろもどろになっているので申し訳なくなって、詳しく聞きだすことは叶わなかった。
ミリーはウソをつくのが苦手なのだ。
だから自分なりに調べてみた。
家庭教師にさりげなく聞いたり。
今までは「サラ」になるために必死で考えもつかなかったけど。
貴族のことは未だによく分からないが、この国での貴族の子女は定期的に集まったり
社交界デビュー前にも宮廷での催しに参加したりしているらしい。
そこは人脈をつなげる大切な場。
将来国を担う要として、その年代から人脈を作るのだ。
何も子息に限ったことではない。
令嬢とて、そこには「女社会」がある。
それならば。
私はどうして行かされないのか。
聞かれたこともないのはさすがにおかしい。
私はまだ人前に出せるほど立派じゃないのか。
ミリーたちがいてつまらなくはないけれど。
そろそろ友達とか作っておいたほうがいいんじゃないの?というか10歳までのサラはどうしていたのだろうか。
それに・・・
社交界デビューは16歳だ。
私には、あと1年しかない。
マナーだって頑張って勉強してきた。
日本にいた頃も、人付き合いは得意な方だった。
それでも、父や兄たちにとっては私はまだまだなのだろうか。
不十分なのだろうか。
漠然と、侯爵家のつながりのために、さらなる発展のためにいずれはどこかへ嫁ぐのだと思っている。
貴族社会で父様や母様みたいな恋愛結婚は珍しいことも知っている。
今まで可愛がってくれた分、私にできるお礼ならなんでもするつもりだ。
だから、次に兄様たちが帰ってきたら、「お願い」をしようと決心していた。
「ねぇ、兄様?」
よい香りがたつ紅茶と、色とりどりのお菓子を囲みながら、私は首を傾げる。
「何だ?」
「あのね、お願いがあるの」
「サラが私たちに願い?珍しいこともあるものだ。何でも言ってみなさい」
「俺たちを頼ってくれるなんて嬉しいぞ」
兄様たちは揃って身を乗り出してくる。
その表情はいかにも嬉しそうで。
そういえば、こうしてお願い事することってあんまりなかったかな、と思う。
だって、大抵は欲しいと思うものは持っていたし、
私の表情に目ざとい兄様たちは、すぐさま「これが欲しいんだろ?」と与えてくれてたから。
でもね。
今回はモノじゃないの。欲しいものは。
「私、外に出たい」
ものの見事に固まった兄様と・・・・なぜか侍女たち。