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「そういえばサラ、髪下ろしたのか?」




ジン兄様が、背中の中ほどで切りそろえた私の銀髪を撫でながら聞く。


10歳の時はともかく、15歳となった今でも変わらずに撫でてくるのが恥ずかしいような照れくさいような・・・。

でもイヤじゃない。




「さっき、鳥が・・・」



「鳥?」



「ふふっ。きっとサラ様と遊びたかったのですわ。鳥がリボンを抜き取って行ってしまいましたの」



私の代わりにミリーが答える。




そう。色とりどりの花が咲く、この侯爵家の庭でお散歩をしていたら、どこからか小鳥が飛んできて、


シュルっという音と共に、髪の毛を結わえてあったらリボンが鳥のくちばしに咥えられ、そのままスルスルとほどけてしまったのだ。





「そのまま、どこかへ行ってしまったの」



お気に入りの白いレースがあしらわれたピンクのリボンだっただけに、少ししょんぼりして言う。




「リボンくらい、兄様が買ってやるさ」




カイ兄様が言う。続いて「100本でも200本でも・・・」と言ったのは、聞かなかったことにしておこう。



カイ兄様は、何事も豪快だ。

リボン200本で一体どうしろというのだ。






「さぁ、サラ。お茶にしようか。一緒にいられる時間は限られているんだから、兄様たちとお話しよう」





そう、今日は久しぶりに兄様たちが侯爵家へ帰ってきのだ。


いつもは次期宰相、王太子親衛隊副隊長という肩書きを持つ2人なだけに、職務に明け暮れ、普段はお城に篭りっきりだ。



執務に追われて忙しいはずなのに、こうやって少しの時間を見つけては侯爵家へ帰ってきてくれる。



そう、だから私はお茶の時間にテーブルを飾る花を摘みに庭に降りてきたのだ。



摘み終わった花束を、ミリーへと手渡す。きっと綺麗に生けてくれるだろう。



その過程を見ていたジン兄様が首を傾げる。


「花?」



「えぇ、お茶する時に飾ろうと思って」



照れたように言う私を、二人の兄様はそれはそれは愛おしそうな目で見る。



「サラ自ら摘んでくれたのか。嬉しいな」


「なんって可愛いんだ!サラ!」




そのまま、私はカイ兄様にギュムっと抱き潰される。


もちろん本人は加減しているのだろうが、何せこの華奢なサラの体は見た目同様、頑丈には出来ているはずもない。


何度窒息死しそうになったことか・・・。





「カイ、やめろ。サラが潰れる」




そうしていつもの如く、ジン兄様の少し冷たい声で、やっと逃げ出せるのだ。


思うのだけれど、ジン兄様は無敵だ。




だって、この国でトップクラスの武力を誇る(ミリー曰く)カイ兄様が、

ジン兄様の言葉には逆らわない・・・逆らえないから。



侯爵家当主である父様だって、たまに「ジンは・・・敵に回すと恐ろしい」ってぼやいているのを聞いたことがある。


兄様ったら、父様に何かししてるのかしら?





でも、私に向けては決して冷たい表情も、冷たい声も出さないの。


いつも優しい目をしてくれる。


年々、次期宰相としてお仕事が多くなっているから会う機会は減ってしまって悲しいけれど

前と変わらず微笑んで、触れてくれる。







両隣に兄様、後ろに侍女たちを伴ってサロンに移動する間、そっと兄様たちを見上げる。

背の高い二人。凛々しい姿。



あれから5年。本当の兄のように慕うようになった。


・・・ううん。



もう、本当の兄様。




そして私は、侯爵家の一人娘。



「サラ」としての記憶がない私は、この5年でマナーやこの国について必死で勉強した。

覚えていない(というか、知らない)ことは、高熱のせいにされたため、特に不思議がられなかった。



広大なこの屋敷も、迷子にならなかったのは、ひとえに、常に侍女の誰かを伴っているから。




父は侯爵家ながら、穏やかな性格で、権力を渇望するような醜い野心のない家族を愛する人だ。


母は美しく聡明で、陰日なたから父を支えている。


貴族にしては珍しく恋愛結婚のせいか、両親は仲が良い。









日本の、父のことを考えない日はないけれど、父のことが心配で押しつぶされそうにもなるけれど

でも、私はここに来れて幸せなんじゃないかって。


幸運なんじゃないかって。



優しい両親と、優しい2人の兄。


最高の、家族。













「兄様、大好きだよ」




そっと両手でそれぞれの手をキュっと握る。






途端に降ってくる、甘い言葉。





「兄様も、サラのことが大好きだよ」




「何よりも、サラが大切だ。兄様が守ってやるからな」







じゃぁ、私のあのお願い、聞いてくれるかな。





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