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過去の続き。


これは、夢なのかと聞きたかった。それなのになぜか酷く喉が渇き、上手く声が出ず訴えかけるように二人の男性を交互に見た。


二人とも20歳くらいだろうか、やけに心配そうな顔をして私を見ている。




「サラ、可哀相に。まだ頭がボーっとしているんだな」



茶髪の人がそういえば、金髪の人が


「無理もあるまい。サラは5日間も熱にうなされていたのだから」


と答えた。




5日間・・・?


私は、そんなにも寝込んでいたのだろうか。


それに、今の言い方。まるで5日間も私の様子を見ていたようではないか。




ハッキリ聞こえる声。


ハッキリ分かる、私に触れる感触。




おかしい。夢にしては、リアルだ。




「サラ・・・?本当に大丈夫か?」


「やはりまだどこか痛むのか?侍医を呼ばせよう」




その言葉に、男性二人の後ろにひっそりと佇んでいたらしい先ほどのメイド服の女性が

出て行った。




これは、夢じゃないの・・・・?


悪い予感に、ひどく不安になる。




「なぜ泣きそうな顔をしている?」



「どこか痛むところがあったら、兄様に何でも言いなさい」






「に、いさま・・・?」



二人を前に始めて出た声は、聞きなれない単語に対してのもの。


だって、『兄様』だなんて。私は一人っ子。兄という存在はいなかった。


兄はいないのに、男性がいった『兄』が、紛れもなく彼ら二人を指していることが分かったから。





私のかすれるような、小さな声を聞いて、二人の男性は初めて口角を上げた。




「サラ・・・やっと喋ってくれたな」


「お前のその可愛い声を聞かないと、安心できない」




親密そうに私の頬に触れるこの二人は一体誰なの・・?


私は、一体どこへ来てしまったの・・・?




ううん、私は一体誰・・・?







「ここは、どこ・・・?」





やっと搾り出せた質問。



すぐに答えを返してくれると思っていたら、二人とも固まってしまった。

目を見開いて。信じられないとでも言うかのように。


そうして、また先ほどまでの心配そうな表情に戻る。




「サラ?どうしたんだ?」




「わたし・・・は、沙羅」




「あぁそうだ。お前はサラ。俺たちの可愛い妹だろ?」






妹。



私が、この人たちの?



「・・・ない。知ら、ない・・・・」





頬に触れるその優しい手を振りほどき、私は頭を抱えた。

























その後、私は侍医と呼ばれていた、初老の男性に診察された。



もちろん、私の不可解に見える態度についても。



そうして、「5日間も高熱にうなされていたことによる、一時的な記憶障害」と診断された。


自分の名前は覚えているのだから、すぐに他のことも思い出すだろう、と。




違う。本当は違うのに。



15歳にもなって恥ずかしいことだが、その後しばらくは泣き喚いた。

泣き喚いた後は、部屋に引きこもり、誰も寄せ付けなかった。


ただただ信じられなかったから。

早く、早く父のところに戻りたかった。




鏡を見ることもイヤだった。


だって、私の姿とはまるっきり違っていたから。


客観的に冷静に見たなら「どこの美少女!?」というくらいの可憐な姿がそこにはあった。

それも、10歳の。

流れるような銀髪はさらさらと流れ、白い肌はキメ細やか。

四肢はほっそりしていて、目はパッチリ。唇は小さく桜色。


だけど、嬉しくなかった。本来の私ではない姿に。





ミリーという女性は、私の専属侍女だと言われた。数人いる専属侍女をまとめる存在なのだそうだ。

私と仲が良く、ミリーを姉のように慕っていたらしい。


自暴自棄になっていた私にだって分かった。

彼女が、心の底から私を心配していることを。




そして、二人の「兄」も。


私がどんなに抵抗しても、彼らはずっと私を気遣ってくれた。

後で分かったことだが、当初20歳くらいと思っていた彼らは、

金髪のジルンアスが18歳、

茶髪のカイルアスは16歳だったらしい。

既にそれなりの要職に就いていたにも関わらず、休みをとってこの屋敷にいてくれた。

他でもない、私のために。サラのために。




早く、元気になってくれることを。

笑顔を見せてくれることを。

今までのことを思い出してくれることを。

いつものようなサラに戻ってくれることを。


ただ願って。







喚く私をギュっと抱きしめてくれた。

暴れた私の手が当たっても、離さないでいてくれた。

泣き叫ぶ私の頭をずっとなでてくれた。

部屋に閉じこもった私に、外からずっと話しかけてくれた。


優しく。優しく。



痛いほど、心に染みた。


私は、彼らの望む「サラ」じゃないのに。

妹だと信じて、無償に愛をくれた。




だから、



だから。





私は決めた。



沙羅から、サラになることを。





二人の、兄様の妹になることを。



だって、嬉しかった。

心底心配してくれたこと。優しかったこと。



泣きたくなるくらい、それが幸せなことだって気付いたの。






元の日本に戻れないなら、変わるのは私しかいない。

泣いたって何も変わらない。


ここがどこで、トリップ?したのかとか、どうやってしたのかとか

考えたって仕方ない。






1週間引き篭もった部屋のドアを開けて、初めて自室から出た時。


廊下にいた二人の兄を見た時。



「兄様」



って、自然に笑顔になれた。



その時の二人の泣きそうな笑顔は、きっと一生忘れない。






これで一区切りです。シリアスっぽい場面はこれで終わります。

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