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さくさくっと進めていくことにします。
やっとお茶会。
庭を進むと、そこは・・・
お茶会の会場でした。
「サラ様!!!」
案の定、私が姿を見せた途端にミリーが大慌てで駆け寄ってきた。
「サラ様、どれだけ心配したか・・・。あれほど、私から離れないようにと申したではありませんか。
お姿が見えなくなった時といったらもう・・・。心臓が潰れる思いでしたわ」
「ごめんなさい、ミリー」
私が全面的に悪いので素直に謝る。
「ミリーさん、落ち着いてください。見つかって良かったではないですか」
先ほどの客室付きの侍女が興奮するミリーの肩に手を置く。侍女同士仲良くなったようだ。
どうやらここは、お茶会の準備をする場所らしい。少し木陰に入った所で、ティーカップやらポットの準備がされている。
「皆様が、探すのを手伝って下さったのです。もしかしたら先にいらっしゃるかもしれないと思って、ここに着いたところです」
「本当にご迷惑をかけてしまいました」
ミリーの言葉に私は侍女たちに向き合う。すると「とんでもない」とばかりに恐縮された。
「あの、ミリー。このこと、兄様たちは・・・」
「まだご存知ありませんよ。もう一時サラ様が来るのが遅ければ、お伝えしに行くところでした」
「そう!良かった。お願いよ、ミリー。兄様たちには言わないで」
「そう仰るだろうと思っておりました。もう二度と、しないでくださいね」
肩をすくめてみせるミリーに、心の底から感謝する。
「さぁお二方。もう皆様が集まってらっしゃる頃ですよ。そろそろ行かれなくては」
そうだ。社交界はまだ先だけれど、ここが私の第一のデビューだ。
私がしっかりしてないから、手間取ってしまったけど・・・。今度こそは、侯爵家の名に恥じない行いをしなくちゃ。
第一印象が大切っていうし。
「貴方がかの噂の『隠れ姫』様ね」
「お会いするのを楽しみにしておりましたわ」
「まぁ、そのお召し物。ウォルシュレーデン商会の生地ではありませんこと?素敵ね」
挨拶をすませると、ご令嬢方がにこやかに話しかけてきてくれた。
上は公爵から、私と同じ侯爵、伯爵や男爵令嬢までいる。
既に社交界デビューをしている令嬢もいて、パーティーなどで得た情報の交換もしているそうだ。
さすが貴族。目にも鮮やかなドレスを着こなしていて、色とりどりのドレスは花のようだ。
「『隠れ姫』だなんて言うくらいだから、よっぽど外に出られないご容貌をしているのかと思っておりましてよ」
扇で口元を隠しながら鋭い視線を向けてきたのは、公爵令嬢のマーガレット様。
赤毛の巻髪がその内に秘める情熱さを物語っているようで、女性としての色香が匂いたつ。
ジン兄様が与えてくれた情報によれば、去年社交界デビューを果たした、私より2歳年上の方。
性格は・・・キツイらしい。
公爵令嬢の棘のある言葉に、他のご令嬢方は私から視線を逸らす。
公爵家といえば筆頭貴族であるだけに、表立って私を庇おうなんて気持ちはもちろんないのだろう。
私もそんなことは望んでいない。
「私もマーガレット様のようにお美しかったならば、喜んで外に出ましたものを」
否定も肯定もせず、私返した言葉にフンっと鼻を鳴らし、だがそれ以上は何も言われなかった。
あぁ、これが洗礼というやつかしら。貴族は腹の探りあいとはよく聞くけれど。こんなあからさまな方もいるのね。
プライドが高く、風当たりが強い方がいることは予想はしていたけれど。
「あら皆様、もうお揃いかしら?」
そこへ、違った声が入ってきた。
反射的にその声の主へ礼をしてみせる令嬢方にならって、私も膝を軽く曲げ、ドレスの裾を持ち上げ最敬礼をした。
「お話を楽しむためのお茶会よ。お顔をお上げになって」
その声に、ゆっくりと顔を持ち上げる。不躾にならない程度に、声の主の顔を見た。
この方が――――
今回の主催者。
第一王女殿下のエリザベス様だ。
マーガレット様と同い年で二人は仲が良いらしい。・・・というか。マーガレット様がエリザベス様の後を追いかけるようにしているのだとか。
悪くいえば腰ぎんちゃくか。
それにしても・・・。
ハッキリとした目鼻立ち。王族さながらの気品溢れる出で立ち。
家柄の順序で、まずマーガレット様が挨拶をし、その後で私も招かれた礼と挨拶をした。
「あら、貴女が。ずっと生家に隠れていたんですってね。よっぽど居心地が良いのね、オイレンブルク侯爵家は。この会が楽しめるとよいのだけれど」
その言葉に、マーガレット様がクスっと笑う。
「ほら、エリザベス様が仰ってくださっているのよ。何か返事でもなさったらどうなの?」
「何て綺麗なお方・・・」
「は?」
思わず呟いた私に、眉を潜めるマーガレット様。
でもいいのだ。今はマーガレット様ではなく、王女殿下から目が離せないのだから。
「王女殿下、国の至宝と言われるお方。何てお綺麗なのでしょう!私・・・・王女殿下にお会いできただけで、嬉しく思います!」
驚いたのだ。
王妃に似たそのお美しさは有名で。
実際に間近で対面して、シミ一つない綺麗な肌、ふんわりとしたドレスの袖から覗く白い手、立っているだけで圧倒されそうな気品。
そのどれもに感激した。
私は綺麗なものや可愛いものが大好きだ。
「ま、まぁ、立っているのも何です。皆様お座りになって。さっそくお茶会を始めましょう」
王女殿下は私からそっと目を逸らされされてしまった。残念だ。その緑の瞳に映っていられることも嬉しかったのに。
そのままの立っていた位置の関係上、運良く誕生日席に座った王女殿下の角を挟んで右に座ることができた。
「そういえば貴女」
王女に話しかけられ、「はい、殿下」と返す。
「私のことは『王女殿下』ではなく名前で呼んでくださってもいいのよ。私の名前はご存知?」
「もちろんでございます。エリザベス様」
あぁ、何ということだろう。王女殿・・・エリザベス様からお名前で呼ぶことを許されるなんて。
後から聞いたことだが、エリザベス様が初対面で名前で呼ぶことを許すことはかなり珍しいことだったらしい。
「私のことは、どうか『サラ』とお呼びください」
「そうね。機会があったら呼ばせてもらうわ」
私の初めてのお茶会参加は、こうして和やか(?)に始まりました。
若干一名、鋭い視線をひしひしと感じますが・・・。
エリザベス王女。実はツンデレ。
サラが自分を見るキラッキラな瞳に、「小動物みたいで可愛い」と思ったとか。