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「はぁ・・・困ったわ」




私は見渡す限り緑、緑、緑、時たま赤やピンク、黄色の中で途方にくれていた。





「どこへ行けば出られるのかしら」




先ほどまで歩いていたのだが、余計に深みにはまっているような気がしたし、足も疲れてきたし・・・でその場に立ち止まった所だ。

頬に手を当てて考える。



いや、考えたってどうしようもない。なにせ初めて来た場所なのだから、道が分かるはずもない。










そう、現在私は道に迷っている最中です――――












「ミリー、困っているかしら。いいえ、きっと怒っているわ」




あれだけ「傍から離れないように」「はぐれないように」と忠告されてきたのに。


兄様たちだけにはバレないようにしなければ。

何を言われるか分からない。


せっかく外出許可がされたのに、一日で取り消されるかもしれない。



それだけは絶対に阻止しなければ。





でもその原因はもれなく私にあるわけで・・・。




「あぁ、どうしましょう」




そう、ちょっと立派な庭園を見たかっただけ。



今日の貴族令嬢のお茶会の会場は、庭園の一角にあるらしく

部屋付きの侍女に伴われ、ミリーと共にそちらに向かっていたのだ。


庭園の中をどうやって通っているのか私には分からなく、それでも侍女たちの後をついていった。




そうしたら、



あまりにも美しい花々を見つけて。


少しだけ、ほんの少しだけ見てみたいと思ったのだ。




もちろん声をかけた。





「まぁ、ミリー。見て、あそこに綺麗な花が咲いているわ。何ていう花かしら・・・。ちょっとだけ見ていっても構わない?」




と。




だが、その間の視線が花に注がれていてミリーたちから視線を外していたのが原因なのか。

思わず足を止めてしまったのが原因なのか。



『構わない?』の所で前方に視線を戻すと―――




侍女たちの姿が、なかったのだ。





宮殿内なら何とかなったかもしれない。

迷いやすいように作られているといっても、建物内だから。方向さえつかめば何とかなるだろう。他の使用人に会えば案内もしれもらえよう。



だが、庭園を歩いていたとあっては―――

道という道も作られているわけではない。




自分が迷ってしまったという心細さもそうだが、

何よりも心配があった。不安があった。





「侯爵家の令嬢が、招かれた王城で迷子になった」

だなんて噂がたったりしたら・・・。


きっと侯爵家の顔に泥を塗ってしまうことになるだろう。


それに、私がいないことにミリーたちが大騒ぎして、手間をかけさせてしまうかもしれない。



あぁ、どうしよう。


侯爵家に恩を返すどころか、お役に立つどころか、とんだ迷惑をかけてしまうかもしれないだなんて。




「父様・・・母様・・・ジン兄様・・・カイ兄様・・・」



顔が思い浮かぶ。そうするとじんわりと涙が滲んでくる。


あぁダメよ。15歳にもなって泣いてなんかいたら。それも原因が迷子で。




でも、一体どうすれば・・・・








「こんなところで、どうかしましたか?」




突然背後から聞こえてきた声に、文字通り飛び上がりそうになった。




「あぁ申し訳ございません。驚かせるつもりはなかったのですが・・・」



落ち着いた男性の声だ。落ち着いたといっても、声は張りがあって若々しい。


振り返ってみれば、そこには背の高い、庭師が立っていた。


頭から日差しを遮るためか、頭巾のような布を被っているため、頭と、陰になって顔の上半分も見えない。

手には剪定ばさみを持っていて、手袋をはめているが土がついている。

やはりまだ若いのだろう、庭師という意外と体力のいる職種のためか体はスッキリと引き締まっていて、姿勢も良い。




「いえ、こちらこそ驚いたりして申し訳ありません」



はやる動機を抑えて答える。




「お見かけしたところ、どこかのご令嬢のようですが・・・。こんな所に何の用で?」



まさか「迷子になりました」とも言えない。庭師一人といえども、どこからどんな噂がたつかもしれないのだから。



「え、えぇと・・・。す、素敵なお庭だと思って少し散歩していました」



我ながら、ウソをつくのが下手だわ。ここは貴族としての気品を漂わせなければならないのに。


せめてもと、姿勢を正して真っ直ぐに庭師を見据えた。



だが、庭師の口から漏れたのは、思わず笑ってしまった、といった感じの息。



「それは光栄でございます。それならば、こちらにはもっとお気に召すような花がありますよ」



口を笑みの形にして、その庭師はどこかへ誘おうとする。

いかにも慣れたような案内の仕方に、思わず着いていこうとして―――



(いけないわ、兄様たちにも言われたじゃないの。男には近付くな、と)



警備体制が厳重な宮殿内に怪しい人物がいるはずもないが、サラは踏みとどまった。



「お気遣いありがとうございます。ですが結構ですわ。もうすぐ迎えが参りますので」



やんわり断ると、庭師は口を笑みのままにして



「そうですか、それは残念です。あぁそういえば、この先では貴族のご令嬢方のお茶会が開かれるようですよ。もしやそちらからいらしたのですか?」



と、一方向を手で指し示した。



思わず耳がダンボになった。


まぁ、今とても素敵なことを言われたわ。この方向へ行けば、私が今から出席しようとしているお茶会の会場があるのね!


「え、えぇ。そうなのです。私はその場所から少し散歩に来たのです」



なので、決して迷ったわけではないのですよ。

そういったニュアンスで答えれば、納得がいったというように庭師は大きく首を縦に2度振った。



「左様でございましたか。どうやらもうすぐ始まるようですよ」


「そうですね。それでは私はこれで失礼いたします」



そうだった。時間が差し迫っているはず。



私は庭師の横を通り過ぎ、先ほど手で指し示した方向へ歩みだす。




「あ、少々お待ちください」



庭師に引き止められ、私はクルリと振り返る。

その時、思わぬ近くに庭師が立っていたのに驚いた。


近くに立てば、庭師の背の高さが強調されるようで、私の頭の先が庭師の首の下といったところだ。



(カイ兄様と同じくらいかしら―――)


と呑気思いながらも、兄様意外の異性とこんなに至近距離になったことがないため思わず頬が赤らむ。



そうすると、結わえてあった髪に、何かが刺さる感触があった。



不思議に思いその場所に手をやると、何か柔らかいものに触れた。




「お嬢様に似合うかと思いまして」



その言葉に見上ると、庭師は微笑んでいた。相変わらず口元しか見えないが。


どうやら花を挿してくれたようだ。


手袋を外して挿してくれたのだろう。庭師はいそいそと手袋をはめなおした。



「ありがとうございます」



「おや、お珍しい。私のようなたかが庭師にまで礼を仰るとは」



そうだ。最初の頃はミリーを初め、侍女に世話をしてもらうたびに礼を言ってて、その度にかなり恐縮されたり、礼を言うことを止められたりした。


だが・・・



「お礼を言いたいから言ったまでです」



当然のことだ。



「それでは、失礼します」



スカートの端を持ち上げ微笑み礼をする。




そうして庭師に教えてもらった(・・・のかは分からないが)場所へ向かう。









その後姿を、庭師がずっと見ていたとも知らずに。

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