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いまいち機能を使いこなせていないような・・・。感想くださった方、ありがとうございます。飛び上がって喜んでます。
木・・・花・・・
人・・・街・・・
「サラ様?ご気分でも悪いのですか?」
ミリーの気遣わしげな声に、私は馬車の窓からカーテンに隠れるように外を眺めていた体勢から、
馬車の中へと意識を戻す。
オイレンブルク侯爵の紋章があしらわれた豪奢な馬車は、王宮に向けて街道を走っている。
当然、アスファルトなんかで塗装されていない道は、直にガタゴトと馬車を揺らすが
体に負担がかからないようにとしきつめられた柔らかなクッションのお陰でそれほど揺れは感じずに済んでいた。
1刻ほど前、初めて屋敷の敷地内から外に出た。
感慨深いものを感じながら、やっと出れた、という思いと、とうとう出てしまった、という思いがごちゃまぜになった。
馬車が見えなくなるまで、わざわざ玄関先から見送ってくれた両親。
王宮への付き添いは、もちろん気心の知れたミリーだ。
母様とミリー渾身の、ドレスや髪飾りやアクセサリーなどの荷物を大事そうに積み込んでくれた。
屋敷から着飾っていくのではなく、あちらで用意されている部屋で着付けるのだそうだ。
馬車で長時間揺られるのだから、当たり前か。
なので今は普段よりは意匠のこらした、だが比較的簡素なドレスを着ている。
「ミリー、私、ドキドキしているわ」
「えぇえぇそうでしょうとも。サラ様は初めて外に出られるのですから・・・。珍しいものもたくさん見れましょう」
ミリーに以前聞いたことだが、10歳までの「サラ」も、屋敷の敷地内から出たことがなかったそうだ。
「親しくしてくださるお友達ができるかしら」
あれから、もう一度ジン兄様が家に帰ってきてくれて、私が困らないようにと、今日集まる貴族の令嬢方―――今日は令嬢のみの集まりだそうだ―――の特徴や家名、名前、年齢等は教えてくださった。
『あまり気を許しすぎないように』との忠告つきで。
だが人となりは実際に会って喋ってみないと分からないだろう。
「大丈夫ですわ。サラ様はお優しくていらっしゃいますから。きっと皆様、仲良くして下さいますよ。ミリーがもし貴族の令嬢でしたら、ぜひともサラ様と親しくさせていただきたいですもの」
「ふふ、ありがとう、ミリー」
ミリーは私の気持ちが分かるようだ。欲しい言葉をたくさんくれる。
「サラ様。ジルンアス様からも念を押されていましたが、私の傍から離れませんようお願いいたしますね」
「大丈夫よ。王宮は侯爵家の屋敷とは比べ物にならないくらい広大とは聞くけれど、迷子になったりしないわよ」
ジン兄様も、ミリーも心配性だ。
「あら何を仰っておいでです。侯爵家のお屋敷内ですら迷子になってたのは誰でしょう?」
そう言ってミリーは昔を懐かしむようにクスクスと笑う。
5年前を思い出して、私は赤面する。そうだ、あの頃は右も左も分からず、うっかりミリーと離れたりしたら屋敷内で道に迷っていた。
(精神的には)15歳だったのに、恥ずかしい。
とりあえず、ミリーと離れなければいいのだ。
あぁ、王宮はどんな所だろうか。
きっときらびやかに違いない。
たくさんの装飾に、たくさんの絵画。
広い庭には噴水とか、たくさんの木々や花々。
お散歩できるかしら。
楽しい想像ばかりで、思わず微笑む。
それを見てミリーも安心したように微笑んだ。
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「あっ。ジルンアス様。ついにとうとうなんですね!」
「・・・何がです」
王太子殿下の執務室へ向かっていると、殿下のヴァレットであるバトラーに回廊で呼び止められる。
毎回、このヴァレットのなぜか要領を得ないような会話と、底抜けの明るさにイライラさせられる。
もちろんそれが「作って」いることはもちろん気付いているが。
「聞きましたよー!」
「ですから、何をです。端的に言いなさい。バトラー。私は暇ではないのです」
「やっと『隠れ姫』様がおいでになるのですよね!」
「・・・・・・」
「あれ?ジルンアス様ーーー??」
バトラーをそこに残し、むしろ存在すらなかったことにして私は先ほどまでよりも早足で執務室へ向かった。
「おぉ。ジン。聞いたぞ」
「・・・何をですか」
今度は宰相としての知識を教えてくれた師匠ともいうべき現宰相に会った。
ここで何をしているのか・・・。
そんなことはさておき、嫌な予感と共に、一応聞き返す。
「『隠れ姫』が来るんだって?楽しみだのう。一度拝顔してみたかったのじゃ」
ふぉっふぉっふぉっと、長くした白髭をなでながら笑うそのお方を
思わず一睨みしてしまったら、目を逸らされた。
「お、おぉそうじゃった。王の執務の最中であった。ではワシはこれにて」
かなりの年齢のはずなのに、その動きだけは早く、あっという間に見えなくなった。
そうだ、私は先を急がねばならない。
バン!!!!
「殿下貴方ですか!!!」
勢いよく開けた扉にビックリしたのか、殿下が窓際で伸びをしたまま固まっている。
ついでに、部屋の外側、扉付近で突っ立って・・・もとい、警護している親衛隊のお二方も目を丸くしていたな。
おや。殿下ときたら机に向かって仕事をしているはずなのですが、なぜ窓際にそれも立っているのでしょう・・・。おかしなことですね。
「どど、どうしたんだジルンアス君。ノックくらい「気持ち悪い呼び方をしないでください」」
殿下の言葉を遮ってピシャリと言い放つ。
「まぁまぁ。ちょっと仕事の息抜きをしていただけじゃないか。あまり根を詰めるのもよくないだろう?」
「殿下の場合は怠けすぎです。それよりも殿下。先ほどバトラーと宰相におかしなことを言われたのですが、お心あたりはありますか」
ありますか?と聞きながらも確信を持って問い詰める。
「はて?う~~~~~ん・・・・・」
わざとらしく考える殿下に、私はさらに詰め寄る。
「殿下」
自分でも驚くくらい低い声が出た。
殿下は寒いのかブルっとした後、
「あぁ、もしかして隠れ姫ちゃんのこと?」
・・・・やはり殿下でしたか。
自分の口角が上がるのが止められませんね。
「ちょ、ジンその顔怖いって!いつもの無表情のほうが全然マシ!笑ってるほうが怖いってどういうこと!?」
「殿下、ご説明願いましょうか」
「いや、それはその・・・・・間諜が知らせてくれてさー」
間諜・・・なるほど、だから今回のことも知っているのか。それにしても・・・
「貴方、私の家に何張らせてるんですか」
「だってここ最近、お前ちょっとソワソワしてるからさ。他の奴らは気付いてないだろうけど、俺はちゃ~んと気付いてさ。これは何かあるなって思って。面白そうな・・・・あ、いや。困ったことでもあるのかと思って、そりゃぁ心配になってちょこっと張らせただけだって。あぁ大丈夫、俺の専用間諜だし。何か得られたとしても政治的には影響しない。それにお前の父親がそんなヘマするか?大方張らせてることも気付いてるっつーの。あ、それに男じゃなく女張らせてるからご心配なく」
「そういう問題ではないでしょう」
「んじゃ、男張らせてもいいの?侯爵家に?」
「そんなことしてみなさい。問答無用で叩き落とします」
知らない男がサラを見ているだなんて・・・そんな考えただけでも腸が煮えくり返る。
即座にとっ捕まえて、カイに、生きたまま地獄を味わわせてやりたい。
「・・・ジン?お前、今物騒なこと考えてない?」
「おや、さすが私のことがよく分かっておいでで」
「ま、まぁもうすぐ来るんじゃないの?サラちゃん。早く会いたいな~」
「おかしなことを仰いますね。殿下は仕事がたんまり溜まっているのですから、誰かと会う時間なんて微塵もありませんよ」
「え、えぇ!?会えないの!?サラちゃんに会う気満々なのに!」
「戯言を。それに勝手に私の妹を気安く呼ばないでいただきたい」
「・・・俺、王太子なんだけど」
「もちろん存じ上げておりますよ。それに殿下にはお気に入りの公爵令嬢もいるのでしょう」
だから、サラには手を出すな。ちょっかいをかけるな。目に入れるな。
そう無言の圧力をかける。
あぁサラ。
道中何事もなかっただろうか。もう着いただろうか。
傍に行ってやりたい気持ちが抑えられない。
ヴァレット=近侍、従者のことで、主人の身の回りの世話をする人を指す。
殿下登場。ジンには少々弱い。そして軽い・・・。
ジンさん暴走気味。
※一部日本語の間違いがあったので訂正いたしました。教えてくださった方、ありがとうございます。