僕にだけ相変わらず素っ気ない
結局のところ初の勉強会以降、何かが変わったのかといえば変わったところもあり、変わってないところもある。
あの後、僕は自宅に帰ると彼女に教えてもらった箇所の復習をして早い時間に布団の中に入ったけど、やけに目が冴えて中々寝付くことが出来ないでいた。部屋のカーテンから差し込む月明かりがいつもよりまぶしく感じるほどだ。
僕は枕の隣に置いてあるスマホを手に取るとメッセージアプリを開き、友達リストに新しく追加されている宮森朱里という名前のアイコンを押してメッセージを打ち込む。あの後、連絡先くらいはいいかげん交換しておこうという話になった。
「起きてる?」
既読は割とすぐについた彼女もスマホをいじっていたのかもしれない。
「どうかした?」
「いや、勉強は順調かなって」
なんとなくねむれないからお話したかったと正直に言ってしまうのが恥ずかしくて、適当な文言を考えて打ち込んだ。
「明くんよりは断然順調だと思うな」
「馬鹿にしてうかうかしてると足元すくわれるぞ」
「そうなったらなったで面白いかも」
僕が返信を打ち込む前にさらに彼女からのメッセージが続く。
「いつか見せてね明くんの本気」
「今も精一杯だけどね」
「嘘つき、もう寝るねおやすみ」
そこでやり取りが終わった。僕はスマホを元の場所に置くと、身体を横に向けて布団を深くかぶる。彼女にはお見通しみたいだ。僕がどこか手を抜いている節があること。
「おはよう宮森さん」
「おはよ」
翌朝、教室に着いた僕は一番に宮森さんへ挨拶してみたけど、彼女は軽く視線を逸らして短く返しただけだった。
すぐ後に他の面々も宮森さんに挨拶していたけど、彼女は一つ一つ微笑みながら丁寧に返している。
やはり、相変わらず僕への態度は素っ気ないのが基本になっているみたいだ。一度素直に話せたのだからもしかしたら、と少しは期待していたけどそうはいかないらしい。
中々染みついてしまった距離感がゆらぐことは起きない。昨日は運が良かったということだろう。
しかし希望もある。今のところメッセージのやりとりだと宮森さんは実に素直だ。
「おはよ明、昨日はどうだったんだ?」
「どうって、普通に勉強して帰ったけど」
「それだけか」
「それだけだよ、他になにかあるとでも期待したのか?」
「いや、聞いてみただけさ」
(本当のことを包み隠さず言うとめんどくさいことになりかねない)
「そっちこそなにかあったのか?」
たずねると守は自分のスマホの画面をこちらに見せてきた。メッセージアプリの友達リストがうつされている。
僕の目はそのリストにある曽山という名前で止まる。守のリストは何度か見たことがあるけど曾山さんの名前が登録されているのは見たことがなかった。
「連絡先、交換してもらった」
「それは、なによりだな」
「なんだ反応薄いな」
「おお、よく奥手の曾山さんから交換してもらえたね、やっぱ守は違うな」
僕が棒読みでそう言うと守は「ふん」と鼻を鳴らす。
「おはようございます。守くん今日は昨日苦戦したところをもう一度復習しましょう」
僕らの間に曾山さんが現れて挨拶してからすぐ守に話しかけ微笑んだ。
「おうよ」
どうやら僕の知らないところで曾山さんも健闘しているようだ。
外はじりじりと太陽光が地上を焼き、見ているだけでうだるような暑さであることが分かる。夏の本番はもうすぐそこまで来ているのだと感じさせられた。




