素直な彼女と思い
「ずっと申し訳ないなって思ってたの」
日が沈みかけていて、茜色に染まっていた空は夜の訪れを感じさせる薄暗さになっていた。宮森さんはぽつり、ぽつりと続ける。
「不慣れって事前に言ってたとはいえ、告白した相手に急に素っ気ない態度しか取れなくて・・・・」
「それでも、友瀬くんは嫌いになったりしないで付き合ってくれて、本当はずっと嬉しかった」
「どうして、このタイミングで?」
そう問いを投げた瞬間、袖を掴む力が強くなる。宮森さんは「それはね」と前置きをして言った。
「こうやって二人きりになれる時間って今まであまりなかったから、もちろん作ろうとしなかったのも悪いかもしれないけど」
「だから、こうして二人きりになれる機会を逃したくなかった」
──僕は思う。きっと宮森さんも僕と同じくらい不器用なのだ。初めての関係でどう接すればいいか分からなくて、逆に距離をとってしまう。壁を作ってしまう。
あの日、なぜこんな関係性になる告白をしてきたのか、その理由は彼女にしか分からないけどきっとこれが彼女の精一杯の距離の縮め方なのかもしれない。
目の前で今にも泣き出しそうな顔でこちらを真っ直ぐ見つめている彼女に親近感と共にある種の尊さのようなものを感じている自分が居た。
「ありがとう、宮森さん。僕も最初は戸惑ったけど、最近はむしろ素直なモードをここぞで入れてくるようになったから逆に効くよ」
宮森さんは袖から手を離して、両の手のひらを左右に振って恥ずかしそうに頬を赤らめる。
「わ、わざとじゃないの自然にそうなっちゃうっていうか・・・・なんていうか」
「宮森さん」
「・・・・はい」
「安心してよ、宮森さんが今後どんな態度になっても僕は告白の理由を聞くまで離れないから」
「それは・・・・それじゃあまるで」
宮森さんの声のトーンは沈み、消え入りそうなほど弱々しいものに変わった。僕はすぐに自分の言い方のあやまりに気が付く。この言い方ではそれが聞けたら離れると言っているようなものだ。
「宮森さんが言ったんじゃないか、付き合うのを前提にってだからきっと離れることなんてないよ」
「うん、まだ時間が掛かるかもしれないけど、ゆっくり接してくれると・・・・嬉しい」
「もちろんってこれ翌朝になったらまた素っ気ない態度に戻るパターン?」
「多分・・・・でも離れないで居てくれるんだよね」
「んん、もちろん」
気づけばお互いがお互いの手にそっと触れていた。僕らは微笑み合う、そうしていたのは長くないけど、不思議と勉強していた時間よりもはるかに長く感じられた。周囲の時の流れが止まってしまったかのようだった。
手の温もりは僕の胸にまで達し、じんわりと暖かくなる。僕はこの日、たしかに宮森さんとの関係を進展させられた、そんな手応えを得ていた。
もちろん、その進み具合はわずかなのかもしれないし、勘違いなのかもしれない。
それでもこの胸にじんわりと広がる感覚と彼女の微笑みは紛れもない進展の証だと僕は思った。これから起こる一切合切を考えることなんて今の僕には出来ないのだから──。




