僕への教え方が素っ気ない
カラオケで遊んでからというもの、僕は宮森さん達のグループに混ざって昼食を取ったり、遊ぶことが増えた。だからといって他のクラスメイトにも注目されるようになるかといえばそんなことはないわけだが。
暖かな春は過ぎ去り、梅雨を抜けて本格的にお日様が地上に近づいてきたと思えるくらい強い日差しが毎日差し込むようになって、夏の到来を感じさせる七月の初め頃。夏休み前の最後の定期考査が行われようとしていた。
「勉強会をしたいと思う」
冷房の効いた教室で僕らはいつも通り机をくっつけて昼食をとっていた。そんな中最初にその話を切り出したのは守だ。
すぐに守の隣の曾山さんが頷いたところを見るにどうやら二人の間で計画した話みたいだ。
「私はパスかな、一人の方が捗るし教えるのもめんどくさい」
川崎さんがお弁当のミートボールを口に運びながら応える。僕も川崎さんと同意見だ、勉強は集まってするものではないというのは強く思うところだし、勉強会がただの交流会に変わってしまうのがオチだろうと思う。
「そっか、じゃあ俺と曾山さん、宮森さんと明でそれぞれやろうか」
「ちょっと待ってくれ、どうして僕と宮森さんは確定参加なんだ。それに仮にやるとしてもわざわざグループ分けする必要ないだろ」
「宮森さんはやりたいって言ってたぞ」
僕は思わず宮森さんの方を見ると、こくこくと頷いていた。どうやら二人ではなく三人の間らしい。
「友瀬くん・・・・嫌?」
「う・・・・」
(なんだか最近素っ気なさを消すのを必殺技みたいに使うようになってないか)
「・・・・分かったやるよ」
「よし、ちなみにグループに分けた理由は明や宮森さんと俺や曾山さんだと目指す位置も学力の現状も違いすぎるからだ」
「それは僕を過大評価し過ぎじゃないか、宮森さんは入試成績トップクラスの学力だぞ」
「俺はそうは思わない、まあなんにせよ俺よりははるかに良いだろう」
そこまでのより取りを聞いていた川崎さんが口を挟む。
「朱里はともかく友瀬ってそんなに頭良いの?」
「まあ、な。ただ今は過去の話なんだろ明」
「ふん、どうでもいい人の発言はよく覚えてるんだな」
お昼の時間が終了するチャイムが鳴る。曾山さんが「ではそういうことで」とその場を締めくくり僕らは次の授業に間に会わせるように机を戻した。
勉強会はテスト期間始めの今日から放課後の後に行われる。僕は宮森さんの家に行って勉強するらしい。
小鳥が晴れた青空を横切るのを見ながら僕は密かに心を躍らせた。
「凄いな・・・・」
宮森さんの家は学校から少し離れたところにある高級住宅街の一角に建っている。洋式の綺麗な一軒家なのだが、庭も大きく話によると地下まで部屋があるらしい。
僕の家の質素なアパートとは天と地ほどの差があるのだ。
「二階の部屋、適当に上がってて」
「あ、はい」
僕は言われた通り階段を上がって二階へ、複数の部屋があったけどドアに朱里と書かれたカードが掛けられた部屋に入る。
綺麗に整頓されていて、部屋にはベッドや勉強机に本棚、そして中央のカーペットの上に小さな机が置かれている。お金持ちの自室ってどんなものだろうと思っていたけど、見たところそれほど庶民と大差ないようだ。
「時間は決めてないけど、お互い分からないところがあったら教える感じで」
遅れて部屋に入ってきた宮森さんはあまり抑揚のない声でそう言い、中央の机に教材を広げて勉強を始めた。なるほど、交流会にするつもりは毛頭ないようだ。
──それから約一時間半ほど勉強したけど、そのほとんどが彼女が僕に教える時間になった。
「ここ分からないんだけど」
「これは、こう」
分からないところを聞く、彼女はそれに対して最低限の言葉数で教える。しかし、それで理解できる問題と出来ない問題がある。
出来ない問題はさらに聞いて言葉数の少ない答えをもらうことになる。
(正直、もっと丁寧に教えてほしい・・・・)
まあ、教えてもらっている手前そんなわがままを言うのは良くないか。
「今日はこの辺にしようか、宮森さんのおかげで大分掴んできたよ、ありがとう」
僕が素直に感謝を伝えるとなにやら宮森さんはこちらを真っ直ぐ見つめていた。なんだろう、なにかここで伝えたいことでもあるのだろうか。
「その、ごめん・・・・私、友瀬くんを困らせてる」
「え?」
スッと宮森さんはいつかの日のように僕の袖を掴むとぽつりと呟く。
「こんなに好きなのに・・・・ねえどうしたらいいか分からない」
そう言う宮森さんの声は震えていて、目はかすかにうるんでいた──。




