僕は周囲に素っ気ない
──中学時代いや小学生の時から既に兆候はあったのかもしれない。僕は今でこそ、そんなかげもないが、勉強は周囲よりもかなり出来たし、運動能力もピカイチではないにしても平均よりかなり上の方だった。
だからだろう、僕は周囲に対して無意識に壁のようなものを張っていた。
「友瀬くんってちょっと人より出来るからってなんか冷めてるよね」
「だよな、話しかけても素っ気ないっていうか」
「ていうか、運動なら俺の方が上だけどな」
等々、中学入学から数か月の間にそんな評価をされ始めて、半年経つ頃には周りに人が寄り付かなくなった。当たり前といえば当たり前だ。自分は他人とは違うと言わんばかりに壁を張って、むしろ寄り付かないでくださいと言っているようなものだ。
でも、本当は違う。僕は元々周囲とどう接すればいいか分かりかねていた。だから素っ気ない態度になってしまう。それに能力の高さが結びついて誤った解釈をされてしまったんだ。
「なんだか・・・・解釈のすれ違いって寂しい話ですね」
そこまで聞いて曾山さんは目を伏せてそう呟いた。
「そうだね、やっぱり人の心の中は見えないから仕方ない」
「でも、周りとの接し方が分からないのは私も分かる気がします」
そこから、僕の学校生活は沈む一方だった。元々得意だった勉強も運動も頑張ることを辞めた。僕が落ちこぼれれば、もしかしたら少し近づいてくれるようになるかもしれない。
そんなどうしようもない期待を抱いて行ったそれは僕を出来る奴だけど関わりずらいから落ちこぼれでかつ関わりずらいというポジションに変えただけだった。
もうこのまま一人でいよう、これはきっと何かの報いのようなものなのだから。
一人、教室の隅の窓際の席でお弁当を食べながらそう決意したのが、中学二年の春のことだ。
「明で合ってるか?」
ある日の放課後、不意に声を掛けてくる男子が居た。見ると短髪で長身、顔立ちはかなり整っていて人当たりの良さそうな笑みをこちらに向けている。見たことがない顔だった。
「そうだけど、なにか用かな?僕はもう帰るところなんだけど」
「噂通り、たしかに素っ気ないやつだな」
「わざわざ、それを確認しにきたの? ならもう用は済んだね」
「待て待て、用は済んでない」
その男子生徒は慌てて帰ろうとする僕の肩に手を置いて止めた。振り切ろうとしたけど力が強い。
「俺は高崎守っていうんだ最近転校してきたばっかで挨拶してないのは友瀬明、お前だけだ」
「挨拶、それはご丁寧にどうも」
「俺たちなんか馬が合いそうだな、そう思わないか?」
「いや、全くむしろ最悪じゃないか」
僕は突き放すように言った。しかし、守はじっと僕の方を見つめると「なるほど」と呟いて微笑む。
「やっぱり俺はお前と友達になりたい、いやなるべきだ」
「・・・・勝手にすればいい」
これが僕と守のファーストコンタクトだった。正直、今でもなぜ守があんなことを僕に言ったり、なにか納得したような素振りを見せたのか分からない。
「なんだか、漫画みたいな出会い方ですね」
一通り話終えると曾山さんはそんな感想を言った。
「そうかな」
「そうですよ、それにしてもやっぱり守くんはかっこいい・・・・ところでもう一人の女子生徒というのは?」
「ああ、どちらかといえばそっちの方が・・・・いやもう遅くなるし今日はここまでにしよう」
僕は店内の掛け時計を見て言った。夜の二十一時をまわるところだ。流石に親も心配する頃だろう。
「そうですね、今日はありがとうございました」
「いや、大丈夫。それと僕に出来ることならなるべく協力するよ」
「本当ですか、でも無理はしないでくださいあくまで私の事情ですから」
帰り際、カフェの前で解散しようとした時曾山さんは「そうだ」と言って僕を引き止めた。
「宮森さんと上手くいくと良いですね。応援してます」
今日の宮森さんは素っ気ない一面以外の顔を見せていた、僕は夜の街を歩きながらぼんやりと考える。もしかしたら、彼女もまた昔の僕と同じなのではないかと──。




