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静かな決意

 もしこの夏休みの花火大会に行かなければ、僕は彼と会うことはなかっただろう。そしたら──僕らの関係は早々にたたれることになっていたかもしれない。


 花火の翌日のかき氷パフェは予想していたキラキラなお出かけというのとは正反対で行列に並び、容赦なく襲いかかる暑さと日差しの中待ち続けるという戦いの時間だった。少なくとも僕にとってはだけど。


「わあ、すっごい美味しそうだよ」


 彼女は店内で先に食べている客のパフェを見て目を輝かせている。好物のスイーツを前にすることでトゲはなくなっていて、ひたすら今か今かと待ちきれない様子だ。


「こんな暑いのに元気だな」


「当たり前でしょ?暑さなんておりこみずみなの」


「さいですか・・・・」


 結局、それから僕らの番がまわってくるまでおよそ一時間、店内の弱めの冷房が身体に染み渡るほど涼しく感じられるほどに干からびそうになっていた。


「美味しい~次は二年後だけどまた来たい?」


「夏と冬だったら遠慮しようかな・・・・」


「拒否権なんてないんだよ」


「なんで疑問形にしたの・・・・」


 その日、彼女は他にも行きたいところがあったみたいだが、僕が暑さでダウンしているのを見るとまた今度で良いと解散になった。



 ──街の花火大会は八月の後半に行われる。せっかくなら皆で行こうかと宮森さんは川崎さんと曾山さんを誘い、僕は守を誘ったけど、それぞれ行く人が既に決まっていて結局僕と宮森さんでまわることになった。


 全ての始まりはそんな花火大会の前夜、僕は風呂上がりに自室でエアコンをつけて涼んでいた時、勉強机の上に置いていたスマホの通知がなった。


「今、大丈夫そう?」


「うん、どうかした?」


 既読は付く、でもしばらく待っても返信が来ない。こういう時は画面を凝視して待っていても仕方ないので僕はそのまま本棚の本を手に取って読み始める。


 通知音で再びスマホに意識が向いたのは読み始めた本が丁度半分くらいになったところだった。


 送られたメッセージを見て──僕は驚く。


「真藤あおいっていう名前に心当たりある?」


 心当たりはある、しかしあまり良い記憶ではない。小学校の時から塾で行われていた模試で僕と競り合っていた男子生徒で中学の最初の校内テストでもそんな感じだった。


 彼は一度も二番手から抜け出せなかったが、途中から僕が落ちぶれたのを皮切りにトップの成績を取り続け始めた。


「なんであいつの名前を宮森さんが?」


「親同士が仲が良いの、それで色々あって」


 彼女のメッセージがさらに続く。


「でも今はそれだけ分かればいいの、おやすみ」


 真藤、思い出すと胸が痛くなる。孤立し落ちぶれた僕を真っ先に笑ったのは彼なのだから。


 花火大会当日の街は交通規制がされていて、あたりは浴衣を着た人々や家族連れなど大勢の人が行き交い、いつもは静かな街も今日だけは賑やかだった。


 僕は約束の駅前のコンビニの前で彼女を待っていた。コンビニの自動ドアが開いて出て来た人物がふと僕をいちべつして、立ち止まる。


 見知った顔だったお互いに。


「おや、久しぶりだね落ちこぼれさん」


「相変わらず、嫌な顔してるな」


「あれからそこそこ良い高校に進学したみたいだけど、模試はもう受けないのかい?」


「それとも、今は宮森さんで忙しいか」


「親同士仲が良いらしいね、だとしてもお前には関係ないことだ」


 そこで真藤は少し笑みをこぼして言った。


「落ちこぼれの君と既に上位の進学校にいて校内外のテストで首位の成績の俺、どちらがふさわしいだろう」


「意味のない質問だな」


 真藤は「うかうかしてるといいさ」と捨て台詞を吐いて喧騒の中へ消えていった。


「・・・・明くんお待たせ」


 浴衣姿の宮森さんが胸に手を当てて揺らいだ瞳をこちらに向けていた。宮森さんから僕は屋台が並んでいる地点まで歩きながら詳しい話を聞いた。


 お互いの家の親同士が仲が良いこと、宮森さん自身も真藤と面識は当然あり、さらには言い寄られていること。


「見過ごせないな」


「でも構わないで私の事情だから迷惑はかけない」


 彼女はそう言ったきりその話題は出さなくなった。


「やっぱり焼きそばは屋台のに限るよな」


「なんかはしゃぎ具合が子供みたい明くん」


 僕らは並んで歩いて屋台をまわっていた。スイーツの時と比べてはしゃいでるのは僕だけど。しばらく歩いているとアナウンスが入り、夜空に花火が打ち上った。


 僕と彼女は立ち止まり、夜空に咲く花を眺める──。


「綺麗だね」


 彼女はそう言ってこちらに微笑む、周囲に人は沢山いたけれど、その瞬間だけ僕と宮森さんだけになり時間の流れがゆっくりに感じられた。


「そうだね」


 言いながら僕はもう一度彼女のために動くことを静かに決意する。彼女の言葉は常に裏返しだから──。

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