忘れられない夏の思い出前夜
僕らは晴れて恋人関係にまで進展することが出来た。それにともなって会ってない時間でお互い空いている時のメッセージ上でのやり取りが増えていた。
ただ恋人同士らしいやり取りかといえば全くそんなことはなく、どちらかといえば他愛のない会話の応酬にとどまっている。
「課題は順調かな?」
夏休みの半ば、始まりはいつものなんでもないメッセージからだった。時刻は夜の二十三時頃で既に課題を終えている僕はスマホで中学の時によく聞いていたバンドの曲を聞いて眠気が来るのを待っていたところだ。
「もう終わったよ」
「もう? 結構な量だったよね本気出したの?」
「いや、確かに量は多いけど中身は軽いものばかりな気がする」
「今までの復習的な問題ばかりなのは間違いないけど、勉強会の時もそうだったけど明くんって少しなにか取っ掛かりを得ると凄い速さで理解しちゃうよね」
それは間違いないしこの能力のおかげで今回の課題が普通の人よりも容易になっているんだろうなとは思う。
ただ疑問に思うことが一つある。僕はそれを打ち込む。
「でも、いつも予習までしてる宮森さんが半ばになっても課題が終わってないなんてなにかあった?」
「なにかってあの日から私は色々考えてたんです」
「ほうほう、ぜひ聞かせてくれ」
既読がついてから返信までに少し長く時間が掛かかっていた。たぶん、色々の中でどれを打ち込もうか迷っているのかもしれない。僕は一つ大きなあくびをした。身体がおやすみモードに入りつつある。
「例えば、もっと恋人らしい時間を過ごすにはどうすればとか」
「なるほど、それはたしかに目下の課題だね」
メッセージ上でのやり取りもそうだけど、僕らはどこか遠慮がちになっていたりしていて素直に好意をさらけ出すこともなければ、のろけることもない。
デートもしていないし、あれ以来しっかりと手を繋ぐことも出来ていない。
これは付き合い始めであることと、元々お互い積極的な性格ではないことを考えればむしろ自然なことではあるけど、もったいないという気持ちは僕にもあった。
「それで、宮森さんはなにか良い策を思いついたの?」
「とりあえず、私たちはもっと夏を満喫するべきだと思います」
「なるほど、具体的にはなにかある?」
するとディスプレイに彼女が送信した写真が映し出される。夏季限定かき氷パフェという文字とスイーツが載ったwebサイトの写真だ。
「ここのスイーツ店は二年に一度くらい特別な季節パフェを出すの」
見たところ、街の駅の近くにあるスイーツ店でここからさほど遠くない距離にある。僕も何度か通り過ぎた記憶があるけど、男が一人で入るのは厳しい店という印象だ。
「それで今年は夏にそのパフェを出すと、よく見つけたね」
「毎年、季節ごとに追ってるから」
僕が返信を打つ前に彼女からのメッセージが続く。
「まずはここに一緒に行きたい、明後日とか」
「問題ないよ、じゃあ僕からもなにか提案してもいいかな?」
実は恋人が出来たらしたいことがいくつか頭の中に浮かんでいた。それらは毎季節あるのだが、夏の場合は二つだけ、ただ片方はわざわざ提案するまでもなく行くはずだから、もう一つを僕はメッセージ欄に打ち込んだ。
「海に行きたい」
この街を南に下って行くと海があり、夕陽が綺麗で有名なデートスポットでもある。ただ僕がしたいことは夕陽を見ることではない。
僕は彼女が既読をつけたのを確認すると詳細を打ち込んだ。
「花火をしたいんだ、だから出来れば明日、夕飯を食べた後にバス停に集合っていうのはどうかな?」
「いいけど、街の花火大会ならもうすぐ開催されるよ?」
「それはそれとして、やりたいな」
夏のやりたいことの二つはどちらも花火だけど、街の花火大会だと中々二人きりで見るというのは難しい。どうしても周りに大勢の人が居る。でも個人で上げる花火は完全に二人きりで楽しめる。僕はそのどちらも楽しみたかった。
「いいよ、これで夏の予定は今のところ埋まったね」
僕がそれに返信し、彼女から既読がついたのを確認してからスマホを枕元に置き、ベッドに横になる。眠気がピークに達していたせいか、眠りに落ちるまでわずかな時間しか掛からなかった。
そのわずかな時間で不思議と僕は明日の花火が次の忘れられない思い出になる。そんな予感を感じていた──。




