『第一章完結』告白と結ばれる僕らの関係
色々あったテスト期間が終了した後の夏休みまではなんでもない日々の積み重ねで、僕と宮森さんも相変わらずの関係だった。
いや、それは多少嘘が混じっている。僕は夏休みまでの日々の中でずっと考えていた。
時期的に中学の時──あの女子生徒と出会った日が近いのもあるいは関係しているのかもしれない。
本格的に真夏に入り、毎日地面を焼くような日差しと外に出れば一瞬で気が滅入るような暑さが襲う。
このタイミング、この季節で僕が真実にたどり着いたのはある種運命じみたものを感じるけど、僕が鈍感すぎるだけでヒントは今までずっと出ていたんだ。確信に至ったのは保健室で感じた既視感を思い返した時。
おそらく、僕の記憶にある名前の分からない女子生徒の正体は中学時代の宮森さんである可能性が高い。
そして、この仮説が合っているか確認するには直接聞くよりも良い方法があることを今の僕は知っている。
夏休みに入ってから数日が経過したある日、僕は昼間はいつも通り課題をやりつつ例の方法を実行する心の準備を整えていた。宮森さんは詮索もしないでほしい、そう言っていた。
でも、もしこの仮説が正しければあの時の言葉も全て裏返しにとらえた方が良い。記憶の中の彼女はそういう性格だから。
真夜中の屋外の道を照らすのは所々におかれた街灯のかすかな明かりと夜空に出ている月光のみで薄暗く、人気は一切ない。
(もう少しであの場所に着く)
しばらく歩くと目の前に小屋のようなバス停とその前で空を見上げて、夜風になびく髪を手でおさえる女子の姿が見えた。
「・・・・詮索しないでほしいって言ったのに」
「あの時のままならその言葉は逆の意味になるね、宮森さん」
「・・・・そうだね、私はあの時からなにも変わっていないもの」
「とりあえず、座って話そう」
僕と宮森さんはバス停の中の木製のベンチに並んで腰をおろす。懐かしい思い出が一気によみがえる。
「変わってないっていうけど、あの時の宮森さんからは想像できないくらい変わっているよ」
当時の僕と宮森さんには人気のない夜道を散歩する習慣があった。日々このバス停ですれ違う中でいつしか僕らはお互いのことや他愛のない話を交わす仲になっていた。
「私、当時の明くんが凄く羨ましかったの勉強も運動も人並み以上にこなせる。隣にいるのにどこか違う世界の人みたい」
彼女は正面に見える月を目を細めて眺めながら続ける。
「でも、そんな明くんでも私と同じ悩みを抱えていて、苦しんで一人ぼっちで歩いてる、それなのにあの時の明くんは自分の悩み以上に私の話を聞いてくれた」
「それに救われてた、ずっと。いつか今度は私が明くんの隣に立てる人間になって支えたいって思えるくらい」
「それで、僕と同じ高校に進学したってことか」
「うん、驚いたでしょなんでもない公立中学のパッとしない成績の私が主席なんて」
「多少、驚いてはいるけどおかしなことではないかな、宮森さんの努力が実をむすんだ結果だと思う」
僕はそこであらためて彼女に問いをなげかける。
「どうして最初にあんな告白をしたのか答えてくれる?」
彼女は視線を月からこちらにうつして静かに首をたてにふる。
「臆病なままだった。私には自信がなかった、それに今の明くんがどんな人なのかまずは近くにいて知りたかった」
「まわりくどいことしてごめんね、お付き合いを前提にしたのは当時の私のわがまま。でも今ちゃんと言うね」
「明くん──私と付き合ってください」
静かな夜に彼女の声が響く、手元と唇をふるさせて、瞳は揺らいでいる。きっと今も自信なんて持てていないのかもしれない。
このまま曖昧な関係を続けることもできなくはなかったと思う。
宮森さんはやっぱり変わった。変わろうと努力して結果も出ているのだから当たり前ではあるけど、彼女自身は実感が持てていない。
(なら答えは決まっている)
「こちらこそよろしくお願いします」
「え、あ・・・・いいの?」
「逆にここまで自分のために努力してくれた人の告白を断る選択肢なんてないね」
「で、でも私いっぱい明くんのこと困らせてたし、これからもきっと・・・・」
「そんなのお互いさま、それに前にも言ったけど悪い気はしないよ」
「そっか、ねえ私は今、隣にいるかな?」
この隣というのが物理的距離のことをさしているわけではないことはすぐに分かった。
「うん、触れられるくらい」
僕はいつかの勉強会の時のように彼女の手に触れる。行為は同じでもあの時よりも心理的には大きく違う。
彼女に実感をもってもらいたかった、隣にいる確かな実感。
「良かった、これからもいられるといいな」
「いられるよ、未来の事は分からないけどきっと」
僕らはお互いの手を握って微笑みあった。まだまだ高校生活は長い。その中で色々なことが待ち受けていると思う。
でもどんなことがあってもこの時間の記憶が僕らを繋ぎ止めてくれると強く思った──。




