私が彼にだけ素っ気ない理由
私、宮森あかりは元々今のような成績優秀者でも人気者でもなかった。
囲まれている友瀬くんを見てチクりと胸が痛む。
私だけが知っている本当の友瀬くんが少し周囲に知られてしまっただけで寂しい気持ちになる。自分で期待しておいて本当にめんどくさい性格してるな、とあきれてしまう。
でも──とくんっと心臓が跳ねる。私は自分の手を胸にくっと当てる。歌唱を見せてくれた時以上に彼への意識が強くなっているのを感じる。
午前の授業の最中も横目で彼の横顔をちらちらとうかがって集中出来なかった。本当はこんなことは日常茶飯事。意識しないようにすればするほど、意識してしまうもの。
「宮森さん、今日は守たちは別々に昼食取るって、良かったら二人で食べない?」
「え、ああ」
「宮森さん・・・・?」
友瀬くんは心配そうな顔で私の顔を覗き込む。一気に緊張が強まり、気が付いた時にはいつもの態度をとっていた。
「いいかな、私も一人で食べたい気分だから」
「そっか、なら僕もたまには屋外にでも行って食べようかな、じゃあ」
「あ・・・・」
表面上ではなんでもない口調だったけど声には明らかに落胆の色が出ていた。一人で食べたいなんて、そんな嘘をどうして私はあんな突き放す言い方でついてしまうんだろう。
私は一人お弁当を開けて、おかずを口に運ぶ。いつもは頬がほころぶ美味しさも今は感じなかった。
あの時から友瀬くんは変わっている。でも私はなにも変わっていない──小中の頃からなにも。
「宮森さんは少々人見知りなようですが、とても努力家で授業を聞く態度は非常に良いですよ」
小中、どちらの定期面談でも教師は同じようなことを親に説明していた。
努力家、真面目、だけど成績はパッとしない。加えて人見知りで距離が少しでも近くなるとそこから先どう接すればいいか分からなくなる。
最後は戸惑いながらも付き合ってくれた友達すら次第にはなれていってしまう。
両親はそんな私に、今考えれば心配からだったのかもしれないけど厳しかった。家と学校どこにもやすらげる場所はない。
気が付けば、私は真夜中こっそり家を出て近所を散歩する習慣が出来た。中学三年を通して続けたそれは今の私を作った原点のようなもの。
なぜならその行為が──私と友瀬くんを引き合わせたのだから。
チャイムがなり、私の意識は現在に引き戻される。お弁当、食べ切れなかったな・・・・。とんとんと隣から肩を叩かれる。見れば友瀬くんが申し訳んなさそうにお願いしてきた。
「ごめん宮森さん、どうやら教科書忘れてきたみたいだ」
友瀬くんは頭が良いのにどこか抜けているところが多い。でもそれも彼の魅力の一部、むしろこういう抜けたところがない完璧人間だったら私がこんなに意識することはなかったくらいだ。
近くて遠い、遠いようで近い存在──そんな彼が好きなのだ。
「何回目なの、仕方ないな」
私は机を必要以上にくっつけて中央に教科書を開いて置いた。
「あの宮森さん、毎回そんな近づかなくても」
「嫌なら見せないけど」
「そんなことありません、お願いします」
──彼はすっかり私のことを忘れている。でもそれは仕方ないこと、あの時名前を名乗らなかった私のせい。
理想は彼の方から気づいてくれることだ。そうじゃなくても教えるのは今じゃない。
今の私に真実を伝えて大きく関係を進展させて、上手く付き合える自信がない。彼の方から気づいたら? 真実を知ってもなお関係を進めてくれると言ったら。
そんな時がもし訪れたら──それこそ運命的だ。




