元公爵令嬢と自転車と田舎の村
勝手に婚約したり破棄したりの第二王子をぶん殴ったら、追放されました。
私の名はリリアーヌ。公爵家の次女だ。
「リリアーヌ嬢。この度、王女殿下との真実の愛に目覚めたため、貴様との婚約を破棄する!」
第二王子が目の前で言い放った瞬間、私の頭の中で何かがぷっつりと切れた。
「勝手に婚約したり破棄したりで、このクソッタレが!」
私は右の拳を振り抜き、王子の自慢の整った顔面に叩き込んだ。手応えあり。
後日、国王からの丁重な謝罪と共に言い渡されたのは、王族を殴った者への形だけの処罰「辺境の田舎の村への追放」だった。
ドレスを脱ぎ捨て、泥まみれの作業着に袖を通す日々。唯一の娯楽は、父の書庫で見た「二輪駆動」の設計図を参考に、村の鍛冶屋に作ってもらった『自転車』だった。
この辺境の村は平和だったが、退屈しのぎにいたずらを仕掛けてくる悪ガキどもがいた。
「へっへっへ、元お嬢様の畑にイモムシぶちまけてやろうぜ!」
「……逃がすか、このクソガキどもが!」
私は自転車を漕ぎ、泥を跳ね上げながら奴らを追いかけ回す。奴らの悲鳴と、私の高笑いが村に響く。しまいには、畑を荒らす害獣まで追いかけ回すのが趣味になった。
猪だろうが鹿だろうが、自転車に乗った私から逃げ切れる動物はいなかった。獲物を追い詰めた時の風切音が心地良い。
「ほら、今日も『爆走公爵令嬢』が来たぞ!」
村人たちの間では、いつしか私に変なアダ名がついていた。
「今日も元気に爆走中だ、この野郎ども!」
私はペダルを踏み込んだ。王都での日々より、ずっと気分が良かった。




