デバイスダイバー4
機密データを巡る依頼の最中、俺とアイボーの前に現れたのは――黒いヴェールをまとう謎の女ダイバー。
冷たい視線と共に同じデータを狙い、対立する二人。
だがウイルスの罠に巻き込まれたとき、彼女は思わぬ行動に出る……。
近未来SF短編シリーズ第4弾。
デバイスダイバー4 ―黒きヴェール―
「ご主人、通路が二つに分かれてます!」
アイボーが球体をくるくる回しながら、矢印アイコンを表示する。
「どっちに行きます? 右は安定してるけど、左は……なんか、ぞくっとします」
「ぞくっとする方に真実はあるもんだ」
俺はため息まじりに左を選んだ。依頼は「機密契約に関わる古いデータを探してほしい」というもの。厄介そうな依頼には慣れている。だが、この空気はいつもと違う。
暗い通路を抜けた瞬間――。
「遅かったわね」
黒いヴェールのような光をまとった女が、そこに立っていた。
目元だけをのぞかせたマスク。声は冷たく低い。
「誰だ、お前」
「同業者。……そうね、ライバルとでも呼んで」
彼女は視線をそらさずに答えた。
「ご主人! 女性です! しかもミステリアス! こわいけどキレイです!」
アイボーが場違いに騒ぎ、俺は思わず額を押さえる。
「悪いが、ここから先は俺の依頼だ。引き返してもらう」
「それはこちらの台詞。真実を追うのが、私の依頼よ」
互いに一歩も引かず、同じデータを狙う。
だが、その瞬間、床が裂けて黒い渦が開いた。
「ウイルス!?」
「ご主人、引き返しましょう!」
アイボーが青ざめアイコンを浮かべる。
足元が崩れ、俺の身体は渦に吸い込まれかけた。
必死に腕を伸ばすが、指先は虚空をつかむ。
「チッ……」
女が舌打ちし、手を伸ばしてきた。
冷たいはずの指先が、驚くほど強く俺を引き上げる。
「助ける理由はないはずだろ」
「……気まぐれよ」
吐き捨てるように言いながらも、その目はかすかに揺れていた。
二人で協力し、ウイルスの渦を封じ込める。
残されたのは、依頼人が欲していた機密データ。
「渡せ」
「嫌よ。これは私が持ち帰る」
火花を散らしながらも、結局はそれぞれ別のコピーを手にする。
そして別れ際――。
「なぜ助けた?」
俺の問いに、彼女は黒いヴェールを揺らしながら言った。
「理由は、あなたが知る必要はない」
背を向けて去っていく彼女を、アイボーが見送る。
「ご主人、これは……恋の始まりですか!?」
「バカ言え」
俺は苦笑し、アイボーを抱えて通路を後にした。
胸の奥に、さざなみのような違和感を残しながら。