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番外編~しおりとあかり~

 ──福山しおりがお好み焼き屋で闘いを挑んでいた前夜。

 しおりの妹、中学二年生の「福山あかり」は、冷蔵庫を開けると、そこに置かれているはずのプリンが無くなっていることに気づいた。


「……無い」


 その一言に、彼女の眼鏡の奥の瞳が鋭く光る。


 あかりは小柄な体格におさげ髪、やや大きめの丸眼鏡をかけていて、一見すると内気で大人しそうに見える。けれども、その実は正義感が強く、理詰めの思考を好む筋金入りのライトノベルオタクだ。自称・「ラノベ探偵」。


 そして──彼女の姉は、黎進高校の新聞部員・福山しおり。


 外見こそ似ていないが、二人は確かに姉妹であり、共通するのは、やや目立つ“安産型”の体型。あかりも年頃らしく気にしてはいるが、姉ほど開き直ってはいない。


「……これは、許されへんやつじゃ……」


 冷蔵庫の棚を見つめながら、あかりはすでに“犯人”に目星をつけていた。


 ――事件は昨日の夜、つまり、姉が帰宅してすぐの時間帯に発生した。


 テーブルの上には、まだ包装の取られていないプリンの空きカップがあった。スプーンは台所のシンクに、洗われもせず放置されている。


「現場は……かなり雑じゃ。衝動的な犯行。計画性は、無い」


 口調はまるで、自分が読みふける推理小説の登場人物のよう。


 あかりは部屋に戻ると、ノートを広げて『プリン喪失事件』と見出しをつけ、手帳のように情報を整理し始めた。


【被害日時】

 本日夜。19時〜22時の間。


【被害内容】

 冷蔵庫に保管していた“限定とろけるプリン”(あかり私物)が喪失。


【状況】

 ・冷蔵庫に鍵は無し。

 ・家族構成は父・母・しおり本人あかり

 ・父母は仕事で不在、帰宅は22時以降。


【容疑者】


 1. 姉(福山しおり)

 2. 母(不在)

 3. 父(甘いもの苦手)

  →消去法で姉、確定。


 ノートにそう書きつけると、あかりはすっと立ち上がった。


「──姉の部屋、捜査じゃ」


 彼女の目は真剣そのもの。


 ドアをノックせずに開けるあたりに、姉妹の遠慮の無さがうかがえる。


「しお姉、ちょっとええ?」


「んー? あ、あかり。どしたん?」


 しおりはベッドに寝転びながら、スマホをいじっていた。見れば、口の端にまだカスタードらしき痕跡がある。


「……しお姉、さっき、あかりのプリン食べたじゃろ」


「え……」


 しおりは動揺した様子を見せるが、すぐにニヤリと笑った。


「うわ、バレたか。ちょっとだけ、な?」


「全部やろ」


「うっ……」


 あかりは懐から、いつものノートを取り出した。


「動機は明白や。夕食のあと、物足りんと思うて冷蔵庫開けたんやろ? で、目に入ったのがあのプリン。

 しかも、昨日わざわざコンビニ寄って買って帰ったやつや。あかりの大事な“限定とろけるプリン”。


 しお姉、あれ、わざとやろ?」


「わざとは言わんけど……あかりおらんかったし、ちょっとくらい、ええかなって……」


「はぁ〜……」


 あかりは深々とため息をつく。


「弁償や。次、二個買ってきて。あたしの分と、しお姉の分な」


「ええっ、二個も!?」


「犯人が自腹で買うのが、推理もののルールや」


「そんなルール、あるん!?」


「ある(※あかりの中では)」


 そう言い切るあかりの姿は、まさにラノベ探偵そのものだった。


「……ていうか、しお姉、最近ちょっと食べすぎなんちゃう?」


「え……」


「昨日のご飯もあかりの分の残りまで食べたってし」


「だってあかりが“食べきれんからどうぞ”って言うたじゃろ……」


「どうでもいいけど、お尻のライン、目立ってきてるで」


「や、やめぇや……」


 しおりがクッションを投げると、あかりはそれを難なくかわして笑った。


「食べたもの全部お尻につきよるじゃろ」


「う、うるさいわぁ!」


「あかりのプリンがしお姉のお尻についちゃえばいいんだ!」


「うぅ…やめてぇ」


「しお姉、次の事件は“ダイエット宣言の謎”になるかもしれんね」


「うっさいわ……!」


 ──こうして、福山家の小さな事件は、

 あかりの冷静な(?)推理と、しおりの若干の開き直りによって、解決した。


 けれども、ラノベ探偵・福山あかりの捜査ノートには、また一つ新たな事件の予兆が記されていた。


 そして、姉しおりは次の日お好み焼きを山口の分までたいらげることになる。


【次回予告】

 事件名:「減らない体重と、謎のプロテインバー」──乞うご期待。

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