第24話~雨、傘、しおり、すこしの嘘~
──あの、雨の日。
放課後、教室のドアを開けると、外は雨が降り始めていた。
僕は軽くため息をつきながら、窓の外を眺める。
「……傘、忘れたわ」
その一言は、どこか予定調和のように響いた。
まるで、この瞬間がくるのを誰かが待っていたかのように。
しおりと玖郎さんが帰ろうとする、その瞬間に──雨。
──僕は、事前にすこし悪だくみをしておいた。
「雨じゃあ…」
しおりが小さく呟いた。
彼女は慌ててバッグを持ち替え、雨に濡れないように身を縮めている。
影からその様子を見て、僕は内心でちょっとだけ笑みを浮かべた。
2人は一つの傘に入って、すこし距離を保ちつつ一緒に歩き出す。
──しばらくして。
僕は、隠していた傘を取り出し、ふたりに向かって走った。
(実はさ、昨日の雨、俺が仕組んだんだよ)
──なんて、言えたらよかった。
でも、そんなの……柄じゃない。
僕はただ、2人の“お邪魔虫”をさせてもらうだけ。
今はこの距離、この関係が、心地いい。
……本当は、しおりさんの反応が気になって仕方がなかった。
だって──
しおりさんが、なにかを“気づいている顔”をしていたからだ。
──2人の関係が、もどかしい。
しおりさんは何も言わず、静かに傘を広げて歩き出す。
僕もその後ろを黙って歩きながら、何気ない会話を続けた。
どうやら、しおりさんは僕の企みに気づいている。
しおりさんは、名探偵だから。
「ばか……」
きっと、そんなふうに心の中で呟いてる。
それでもあえて触れないところが、しおりさんらしい。
その優しさが、僕には少しだけ嬉しくて──
こっそり、心の中で笑った。
ふたりは傘の下で、少しずつ距離を縮めていく。
その様子を、背中越しに眺めながら思った。
(しおりさんが照れてるところも、いいな)
そう思うと、口元が自然とゆるんでいた。
(……俺も、恋したい)
でも、今はまだ。
このふたりの関係を、見届けよう。
それが──名探偵の“助手”の勤めというものだろう。
(山口視点の雨の日のお話でした)




