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第14話~夜鷺いおん、コロッケに浮気する~

 黎進高校・放課後。

 いつものように、教室には玖郎、しおり、山口が集っていた。


 廊下なにやら人影が…


 黒いツインテールにコウモリのヘアバンド。

 一年生の地雷系・夜鷺いおんだ。 

 しかし、今日は何かが違う。

 玖郎が、ふと顔をしかめる。



「……いおんの様子がおかしい」

「いや、もともとおかしいじゃろ」

 しおりが即座にツッコむ。


 だが玖郎は真剣な顔のまま、空中を嗅ぐように鼻を動かす。


「いや……今日は“香り”が違う。ソースと……じゃがいも……これは……!」


 そのとき、部室のドアが「ギィ」と音を立てて開いた。

 現れたのは――もぐもぐと何かを口にする夜鷺いおん。


「……もぐ……もぐ……うん、やっぱりコロッケ………」


「ついに……手ぇ出しちゃったっすか、いおんさん……」

 山口がそっと呟いた。


 いおんの様子はどこか、うっとりとしていた。

 目を閉じ、まるで誰かと語らうように、コロッケを口に運んでいる。


 玖郎は静かに口を開いた。


「……あの日、カツを失った彼女が……なぜ、こんなにも早く立ち直れたのか。その謎が、今――解き明かされようとしている」


「言い方が探偵のそれじゃけど、ぜんぶどうでもええ内容じゃからな!」

 しおりの怒りも虚しく、いおんはコロッケ片手に語り始めた。


「……カツを失ったあの日。私は……ただ彷徨ってたの」


「ハ〇ーズ行ったんじゃろ…」


 回想――


 夕暮れの校内、影のように歩くいおん。

 そしてふと、学食の掲示板に貼られた紙に目を留める。


 《期間限定 謎のコロッケ 登場!》


「……そのとき、運命が動いた気がしたの」


 厨房から香る、ほのかなソースとじゃがいもの匂い。

 そして現れた、それを作る職人――


「って、あんたかい!!」

 しおりがツッコむ先には、コック帽をかぶった山口の姿。


「まぁ……学食の人と仲良くなった結果っす。揚げ加減も任せてください」


 場面は戻り、部室。


「……でも玖郎、夜鷺が急にコロッケに走るなんて、ほんまになんかあったん?」


 玖郎がうなずいた。


「しおり、よく聞いてくれ。あのコロッケ……ただのコロッケじゃない。見た目はコロッケ、中身は――!」


 息を飲むしおりと山口。


「……うむ。牛肉がつかわれているな」


「推理の無駄遣いにもほどがあるじゃろ!!」


 そして始まる、コロッケ地獄。


「これが、カレーコロッケ。こっちはクリーム。で、これが……カニクリームコロッケ!!」

 いおんが机の上に次々と揚げ物を並べる。


「最近、語尾が……つい“〜コロ”になっちゃうのコロ……」

「病状進行しとるのぉ!」


 極めつけは――


「カツは過去。今はコロッケって時代なんですよ、センパイ」


 山口が膝をついた。

「……あんなに“会いたい”って言ってたのに……っ」


「振られたみたいにいうなや…」

 沈んだ山口をよそに、玖郎は静かに立ち上がった。

「……これは、戦いだ」

「何と何のじゃ!!」

 しおりが突っ込む。


「でもさ…コロッケって…熱々じゃないといまいちじゃない?冷めたのはおいしさ半減っていうか」


 しばしの沈黙。


 ――そして、山口がつぶやく。

「俺にいい考えがあります」


 ──数分後

 山口は調理実習室から戻ってきた。


「これは……!?」


「“禁断の融合”っす。特製・カツ&コロッケ合体サンド。名付けて――“ダブル罪悪感バーガー”!」


 いおんの手が、震えながら伸びる。

「これは……カツと……コロッケ……!? 一つに……!?」


「しかも、コロッケパンの要領なんで、冷めてもおいしく食べれるっす」


(ザクッ)


 その一口で、彼女の中に何かがよみがえった。


「……やっぱり、私……カツも、好き……!」


 しばらくの沈黙のあと――


「浮気から始まる恋も、ある、か」


「やめんさい。なんかカッコよさげに言うとるけど、意味わからんけぇ」


 いおんは静かに、言った。



「……私は、決めた。明日は……メンチカツにする」


「終わらんのんかい!!」


 揚げ物の旅は、まだ始まったばかりである。


「あ。ちなみに、コロッケは期間限定なんですけど、コロッケパンなら冷めてもおいしいってことで食堂のおばちゃんに提案したら、それいけるってことでレギュラーメニューになるらしいです」


「あんたすごいな!」


【次回予告】

 夜鷺いおん、さらなる脂の世界へ!

 次回『夜鷺いおん、メンチカツに惑う。』乞うご期待。

(次回はメンチカツではないと思われます)


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