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第11話~失踪したピアスの謎~

 体育の授業が終わり、みんなが着替えを済ませてロッカーに向かっていると、突然、福山しおりが大声で叫んだ。


「うちのピアスがない!」


 彼女の周りにいた友達が驚き、次々に振り返る。


 しおりは焦った様子でロッカーを開けたり、床を探したりしたが、どうしても見つからなかった。


「大丈夫?どこで落としたんだろう?」


 友達が心配そうに声をかける。


「落ち着いて、しおり。もしかしたら、誰かが拾ったかもしれない。」


 その言葉に、しおりはほっとした表情を浮かべ、周囲の床やロッカーを見渡し続ける。


 しかし、なかなか見つからない。その時、山口が手を挙げた。


「あのぉ…これじゃないですか?」


 山口はしおりのピアスを手に持っていた。


「えっ!それ、私のだ!」しおりは目を輝かせてピアスを受け取り、感謝の言葉を口にした。


「ありがとう、山口!助かった!」


 山口はにこやかに笑いながら言った。


「体育の時、床に落ちていたのを拾っておいたんです。急いで持ってきました。」


 しおりはピアスを耳に戻し、胸をなでおろした。しかし、その時だった。


「ふむ…」突然、静かな声が響いた。


 振り向くと、帰宅部の帰野玖郎がいつの間にか現れていた。


 玖郎はしっかりとした表情で、まるで大きな事件が起きたかのように、しおりと山口をじっと見つめている。


「何?もう解決したんじゃ…」しおりは少し困惑しながらも、玖郎がまた何かを始める予感がした。


「いや、しおり、まだ事件は終わっていない。」玖郎は、重々しい調子で言った。


「え?だってピアス見つかったじゃん?」しおりがつぶやく。


「その通り、確かに見つかった。」


 玖郎は頷いたが、次の瞬間、表情が一変した。「だが、問題はそこだ。なぜ、ピアスは山口の手にあったのだろう?」


「は?」しおりは目を丸くした。


「山口が拾ったから、何も問題ないじゃん。」


「──それがトリックだとしたら?」


 玖郎は自信満々に言い放った。


「まず、体育の時にしおりはピアスを外した。しかし、問題はその時、誰もピアスを拾わなかった…そして、なぜか山口が後から現れてピアスを見つけた。これは単なる偶然ではない。」


「それ、ただ拾っただけでしょ?」しおりは呆れ顔で言った。


「俺、体育館の掃除当番だったんだけど…」


「…待ってくれ。問題はもっと深いところにある。」


 玖郎は無視するように話を続けた。


「ピアスが失われた原因を考えてみろ。もしこれが偶然であれば、なぜ山口だけがそれを見つけたのか。仮に、誰かが故意にピアスを隠したとしたら、その犯人は一体誰だ?」


 しおりはさらに困惑した。


「だから、山口が拾ったんだってば!」


「待て。」玖郎は指を立てて言った。


「ここに重要な手がかりがある。それは、ピアスのデザインだ。」


「デザイン?」しおりが眉をひそめた。


「しおりさん、普段からバラの形のピアスしてるから、しおりさんのピアスだとおもったんだけど…」


 玖郎は山口を無視して真剣な表情で続けた。


「…それに気づいていたのは、僕だけではない。ピアスが落ちていたとき、他の誰もそれを見逃したが、山口だけがそれを拾い、しおりのピアスだと認識した。なぜなら、それがバラの形だからだ。」


「うん…まあ…」


 しおりは微妙な表情を浮かべた。


「だからうちが普段からバラの形のピアスをしてるから、山口がすぐに気づいたっていってるじゃろ??」


「…そうとも言う…」玖郎はニヤリと笑った。


「だから、ピアスが失われた瞬間、それを拾うべくして拾ったのが山口だったんだ。偶然ではなく、必然だった。」



 玖郎は腕を組み、眉間にしわを寄せて立ち上がった。

 その目は、妙にキラキラしている。


「やはりそういうことか……!」


 机をバンッと叩いた音に、しおりと山口がびくりと肩を跳ねさせた。



「待てよ、山口くん。君が“たまたま拾った”というその言葉、本当に信じていいのかな?」


 帰野玖郎が突然、鋭い目つきで山口に迫る。


 山口は驚きのあまり、目を大きく見開いた。


「えっ……?」


「しおり先輩が大切にしていたピアス。それが体育の時間中に“たまたま”落ちて、君が“たまたま”拾う……偶然が、あまりにも重なりすぎているとは思わないかい?」


 玖郎の声は次第に高まり、やる気に満ちていた。


 しおりは少し困ったように肩をすくめ、「いや、ただ拾っただけじゃろ? ありがとね」と呆れた声で答える。


 しかし玖郎はそんな言葉には耳を貸さず、しっかりと黒板に向かって歩み寄り、手にチョークを取ると、次の瞬間にはその手が止まることなく、猛烈な勢いで図を描き始めた。


「いや、ここが事件の起点なんです!──では、再現してみましょう!」


 玖郎は黒板に、体育倉庫の位置関係やピアスを外したタイミング、山口の動線を無駄に図解し始めた。


 しおりと山口は無言でその様子を見守る。


「まず、ピアスが失われた“正確な時間”を特定する必要があります。ピアスは……重さ約3.2グラム。風に飛ばされるには軽すぎる。ならば誰かの“意志”が関わっていたはず!」

 玖郎は勢いよく話を続ける。


「いや、体育のときタオルで汗拭いたら引っかかって落ちたんよ。たぶんそれやと思うけど」

 しおりが淡々と反論すると、玖郎は軽く笑みを浮かべながら、きっぱりと言った。


「ふっ……それもまた、“情報操作”という可能性がある!」


 山口は一瞬、恐怖に目を見開いた。

「(怖い……もう返したのに……!)」

 その表情を見て、玖郎はますますヒートアップしていく。


「そして、拾ったとされる場所……そこにいたのは山口、だけじゃない。もうひとり……“彼”もいたはずだ……!」

 そう言いながら、玖郎は次のターゲットを探し始める。


「え、俺? いや、偶然近く通っただけなんだけど、掃除当番だし」

 クラスメイトAが、手を上げて不安げに声を上げると、玖郎はすぐに鋭い眼差しで彼を見つめた。


「君の“偶然”を、僕は信じない……!」


 その瞬間、登場人物が増えるごとに謎の容疑者がどんどん増えていく。

 どれが本当の犯人なのか、誰もわからない。


 しおりは呆れた顔でため息をつき、「……ほんま、ようやるわ……」とつぶやく。


 山口はただただ困惑していた。

「これ、どのタイミングで止めたらいいんですか……?」


 しおりは少し肩をすくめて、ため息をつきながら言う。

「もう放っといてええよ。どうせそろそろ、『真犯人は校長じゃ……!?』とか言い出すけえ」


「──そう! 校長のあの鋭すぎる視線……あれが薔薇のピアスを狙っていたのでは──」

 玖郎は次々と不自然な推理を繰り広げ、さらにその勢いを増していった。



「……ほんまに校長なん……」

 しおりは呆れたように呟き、横で無駄に熱心に推理を繰り広げる玖郎を見つめる。


「これ、どのタイミングで止めたらいいんですか……?」

 山口は、何度目かの困惑を顔に浮かべながら、しおりに視線を送る。



 案の定、玖郎の推理は止まらない。教室が再びその声に支配され、ひとしきり騒がしくなる。


 しおりはもう、この流れに慣れた様子で、ため息をついた。

 玖郎は目をキラリと輝かせ、にやりと笑みを浮かべた。

「ピアスはただの装飾品じゃなかった……それは《国家機密が封印された極小メモリチップ》だったんです!」


 教室が急に静まり返る。誰もがその言葉の意味を理解できず、妙な間が生まれる。


「……は?」

 しおりが、あきれた顔でその言葉を繰り返すと、玖郎は得意げに言葉を続けた。


「つまり、あの薔薇の形。あれはただのデザインではない。極秘組織《花びら機関》のシンボルです。そしてその中心には、黎進高校における10年分の“生徒指導記録”と“校内恋愛統計”が詰まっている……!」


 しおりと山口は目を丸くして、互いに視線を交わす。


 玖郎はゆっくりと上着の内ポケットに手を伸ばす。その動作に周囲の空気がピリッと張り詰めたが、次の瞬間、玖郎が取り出したのは空っぽの手だった。


「そ、それを狙っていたのが……校長先生です!」


「……校長…?」

 山口が声を震わせて問い返すと、玖郎はうなずく。


「ええ。彼は自らの黒歴史――1982年の運動会仮装大会で《タイツマン》として出場してしまった過去を葬りたかった。その記録が、あのピアスの中に……!」


 しおりは手にしたピアスを、再びじっと見つめた。彼女の顔には驚きの表情が浮かぶ。


「うちのピアス、そんなすごいもんだったん……?」


 玖郎は胸を張って言い放つ。


「しかもこれは序章にすぎません。あのピアスを巡って、世界規模の諜報戦が始まる可能性がある。だからこそ、我々は今すぐ――!」


 その時、突然、職員室からくしゃみの音が聞こえてきた。


「……!」


 玖郎はその音に反応し、顔を引き締める。


「やはり動き出しましたね、校長……!」


 しおりはその発言にすぐに反応した。

「いや、風邪じゃろ、ただの!」

 しおりはピシャリとツッコむと、何とも言えない表情で玖郎を見つめる。

 その目はあきれと笑みが入り混じり、優しさが感じられた。


「うちはただ、ピアスが戻ってきてよかったんじゃけえ。ありがと、山口くん」


「い、いえ……なんかすみません……!」

 山口は申し訳なさそうに頭を下げる。


 それでも玖郎は、窓の外をじっと見つめ、真剣な表情を崩さない。


「……だが、真実はいつも大体一つ……そしてたいてい、誰も聞いていない……」


 しおりはその言葉を遮るように、鋭いツッコミを入れた。「聞いとらんわ!」


 その一言が、教室に爽やかな風のように響き渡る。



 しおりはそこで、急に話題を変えた。

「……あのピアスな、実は――中3んとき、ある人にもろうたんよ」


「“ある人”?」

 玖郎は一瞬、目を細めてその言葉に反応した。


「ふふ。……ほんまは、ちょっと特別な人からのプレゼントなんよ」

 しおりは少し照れくさそうに笑う。


 玖郎はその言葉に驚き、顔を赤くしながらも、心の中で興奮が高まっていく。


「それはまた……意味深ですね。恋の香りがします」


 しおりはすぐに首を横に振って、「そんなんじゃないし……たぶん。いや、どうやろ……」とぼやきながら少しだけ照れた表情を見せた。


 玖郎はその微妙なニュアンスに気づき、ふっと顔をほころばせる。


「……つまり! そのピアスが失われるということは、あなたの青春の欠片が消えてしまうということではありませんか!」


 しおりはその言葉に思わず目を伏せる。


「……そんなん言われると、ちょっと泣きそうになるやん」

 と、少し感情を抑えきれずに言った。


 山口はその姿を見て、心の中で安堵した。


(やっぱり拾ってよかった……ほんとにしおりさんの『恋愛メモリー』だったし…)


「ん?山口、なんか言った?」


「いえ、なんでもないです!」


(次の事件も大体3ページくらいで!)

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