番外編~入部希望と、選ばれし帰宅部~
四月の放課後、黎進高校の校舎裏には、ぽつんと開け放たれた倉庫がひとつ。
その前に立つのは、三人の生徒だった。
帰野玖郎──帰宅部を名乗る男子生徒。目つきは鋭く、髪はボサボサ、制服はだらしない。
だが口を開けば「ふむ、事件だな」とか「この状況、謎を感じる」とか、まるで推理小説の主人公を気取っている。
「鍵が……消えた、だと?」
玖郎が倉庫の扉を前にして呟く。
「さっきまで鍵、挿しっぱにしとったんやけど……戻ってきたら、無くなっとって」
そう答えたのは、新聞部の福山しおり。
ギャルっぽい見た目に、口調は広島の備後弁。だが中身はしっかり者で、玖郎とは幼馴染の腐れ縁。
「まさか……これは“選ばれし者”にだけ訪れる、帰宅部入部試験──!」
玖郎の謎のテンションに、しおりは額を押さえる。
「いや、単なる忘れ物じゃろ」
そこに現れたのが、山口。どこにでもいるような平凡な男子生徒。やたら謝り癖があり、よくモノを落とす。
「え、えっと、ぼく何もしてないよ?ほんとに!」
玖郎はしゃがみこんで、倉庫の前に落ちていた砂を指でなぞる。
「この足跡……三人分。しかも一人は……スキップしてる?」
「いや、あんたがスキップしてたんじゃろ」
「たしかに僕が来るときスキップした。でもそれは喜びからだ」
「なにが嬉しかったん……」
「謎に出会えたことが、僕にとっては至上の喜びだからさ」
「…それで鍵、どうなってるんですか?」
山口の問いに、しおりは頷く。
「ちょっと席はずして戻ってきたら……この通り、鍵だけなくなっとった」
「犯人は……この校舎に潜む“第六の部活動”の関係者だな」
「第五までしか部活ないじゃろ」
「だから第六だ。公に認められていない、闇のクラブ……たとえば“鍵マニア部”だ」
「絶対ちゃうじゃろ」
「ちょ、ちょっと待って!」
山口が声を上げた。
「もしかして……僕、持ってるかも……」
ポケットをごそごそ。
──チリン。
鍵が、出てきた。
「……え?」
「……は?」
「………………やっぱりおまえか」
「違う!これは、落ちてたのを拾って……その、拾ってポケットに入れたのを忘れてた!?」
「それが犯人のセリフやろ」
こうして事件は、たった数分で解決した。
犯人は、山口。
理由は「拾ったけど、渡すタイミングを見失ってた」という凡ミスだった。
だが、玖郎の推理は終わらない。
「違う……これは“表の事件”にすぎない……」
玖郎は、空を見上げた。
「本当の謎は、なぜ山口は鍵を持ち歩いたのか……“鍵を握る男”──その裏に、組織の影が……!」
「もうええて!!」
こうして、黎進高校の春は過ぎていく。
だがこの日を境に、玖郎、しおり、山口の三人は、なぜか一緒に下校するようになった──
「帰宅部」の名のもとに。
(玖郎としおりは幼馴染です)




