戴冠の誓い
ミューラ平原の風は、血と鉄の匂いを運んでくる。私の兄、ドガ三世王がそこで息絶えたと聞いたとき、心臓が凍りついた。8年間、彼はエレイン王国を導き、民を愛し、公正な統治を貫いた。それなのに、ガラジアの軍勢に蹂躙され、混乱の中で命を落とした。兄の死は、王国を揺さぶる嵐となった。
私はロクサナ、17歳。今日、王冠を戴く。だが、この冠はあまりにも重い。
大広間の石壁は冷たく、色とりどりのステンドグラスから差し込む光が、私の白いドレスに淡い影を落とす。祭壇の前で、私は跪き、大宰相の声が響くのを聞く。彼の声は力強く、しかしどこか疲れている。
「ロクサナ姫、エレインの民に誓いなさい。ドガ三世の遺志を継ぎ、王国を守り、敵を討つことを」
私は目を閉じ、兄の笑顔を思い出す。彼はいつも私を「小さな星」と呼び、どんな嵐も共に乗り越えられると言った。だが今、彼はいない。私は一人だ。
「誓います」私の声は震えていたが、言葉ははっきりと広間に響いた。「ガラジアに復讐を。エレインの誇りを、必ず取り戻します」
大広間は静まり返り、やがて貴族たちの拍手が響く。だが、その中に冷ややかな視線を感じる。キジュ公爵の不在が、かえって不穏な空気を漂わせる。彼が王位を狙っていたことは、誰もが知っていた。大宰相の素早い行動がなければ、今頃、彼の陰謀が王国をさらに混乱させていただろう。
戴冠式の後、私は玉座に腰を下ろし、ヴェルユイヌ公爵を呼び寄せる。彼は50歳を過ぎ、灰色の髪と鋭い目を持つ男だ。兄が信頼した軍の英雄。だが、彼の瞳には私への疑念が宿っている。17歳の少女が王国を率いるなど、誰が信じるだろう?
「公爵」私は背筋を伸ばし、声を落ち着かせる。「あなたを軍の最高司令官に任命します。兵を再編し、ガラジアとの戦いに備えてください」
彼は一瞬、眉をひそめる。だが、すぐに膝をつき、頭を下げる。「お言葉に従います、女王陛下」
その夜、寝室の窓からミューラ平原の方角を見つめる。星空の下、兄の魂がまだそこにいる気がする。私は拳を握り、心に誓う。兄の死を無駄にはしない。ガラジアを討ち、エレインを再び輝かせる。たとえ私が若く、経験がなくとも、この冠を背負う覚悟はできている。