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大佐による宮廷作法のレクチャー。口を開かず跪く。以上。
細かいことを言えばもう少し色々あるが、大事なのはそこだけ。騎士の叙任式は秒で終わるので、皇帝が入ってくる前から跪いていて出ていくまでじっとしていればいいらしい。そこから先、皇帝の面前に出る機会など一介の騎士にはほぼ無い。貴族としての生活に興味があるなら詳しく教えると言われたが、全く興味が無いので丁重にお断りした。
叙任式の格好は軍の礼装。野戦補給廠に出発する前、最初に持たされたものがあるのでそのまま使える。当日までにマントを用意してくれるらしい。思っていた以上に準備することも少なく拍子抜けした。
乙女とは今後について話し合った。この館に残る選択肢もあると説明したが、私と一緒に行動したいらしい。まあまた一人になるのも不安か。正直なところ彼女を戦場に連れ出すのには抵抗があるので、どうにかうまいこと後方に置いておけないか思案中だ。人間だったものの破片が散乱する大地。あの独特の臭い。人が人を殺すのが当然の世界。経験しなくていいならしない方が良いに決まってる。
……あ、スザナが何をしているのかも分かった。出かけていって占いをやっていたらしい。なんか館の中で植民地──スザナの地元──の占い道具を見つけたとかで、辻占いの真似事をして小銭を稼いでいたそうだ。大佐コレクションの中でもあからさまにヤバいものは地下にしまってあるので、スザナが使っていたのは貴石と小動物の骨、それと布を組み合わせた、ちょっと怪しいくらいのものだった。東洋系のスザナがそれっぽいベールを被ると、この時代で言うと「ジプシーの占い師」みたいな雰囲気がある。環境にへこたれない彼女らしいというか、よく考えたもんだ。
叙任式前日、私のマントが届いた。マットな中に上品な光沢のある、くるぶしまである黒マント。控えめに施された金糸の刺繍が美しい。軍の礼装の上から羽織ってみると、ちょっと気恥ずかしいくらいにかっこいい。着られている感というか、コスプレ感というかが山盛りだ。興奮した乙女にきゃーきゃー言われて顔が熱くなるのが自分でも分かる。うん、叙任式が終わったらもう着ない。
同時に乙女の礼装も届いた。従者見習いのお仕着せで、軍装がベースになりつつ優雅な感じだ。同じく黒の、腰までの長さのマント付き。着てもらったらめちゃくちゃカッコかわいかった。髪をまとめてキリッとしてもらうと舞台俳優顔負けだ。今度は私が年甲斐もなくきゃーきゃー言う番になる。照れつつもポーズは取ってくれるのは今時の子だな。スマホがあったら写真撮りまくるんだけどな……。
そんなこんなで、叙任式当日。薄曇りの肌寒い朝、私達は自動車に分乗して連合王国首都、皇帝の待つ旧王宮に向けて出発したのだった。




