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「…………あの、質問しても?」
「ええ。勿論です」
大佐に笑顔で促されるが、ちょっと頭の整理が追いつかない。何から聞いたもんか。
「ええと、まず、騎士とは?」
「ああ、貴方にとっては馴染みの薄い制度でしょうか。帝国が小王国の連合体であるというのはご存知のことと思いますが」
「はい」
「帝国として再編されていく過程で、旧王国の王族と重臣は帝国貴族として、その他の家臣は騎士として身分が整理されていきました。今、帝国で騎士と言うと領土を持たない貴族、と考えていただければ良いかと」
「はあ」
うーんと、日本で言うと明治維新後の士族みたいな感じ?詳しくは知らないけど。
「今般の戦争で、騎士は指揮官として重要な役割を果たしました。彼等は勇敢に戦い、それ故に一族が断絶するほどの損害を受けた家系も多いのです。新たに騎士を任ずるにあたり抵抗が少なかったのも、そうした事情があるのかもしれません」
あーどっかで聞いたな。帝国軍の尉官以上は基本的に貴族だったから、私も『閣下』呼びされる流れになったとか何とか。師団ごと消えて無くなるような戦争をやっていく中でそういった身分制も崩壊して、今は叩き上げの平民が士官をやっているのも珍しくないらしい。形骸化しつつあるにせよ、今の私の階級に合わせた身分が用意されたということだろうか。
「騎士になると、何か変わるのでしょうか?」
「皇帝陛下に拝謁できるようになります」
いやべつに要らないなそれ。
「後は貴族院議員への立候補資格を得るとか年金が出るとかいったことがありますが、まあ瑣末なことです。政治に興味があるようでしたら詳しく説明しますが」
「いえ、特には」
「帝国騎士は名誉ある称号です。それに恥じぬ行いを心掛けていただければ、貴方自身が気を付けなければならないことは無いかと」
「はい」
まあよく分からないけど、「いらない」と言ったところでどうにもならなそうなのは分かった。三日後。三日後かあ。どうしよう面倒臭い以外の感想が出てこない。
「もう一つ。同時に大尉への昇進辞令も発出される予定です。貴方の益々の活躍に期待しております」
「ええと、大尉になると何か変わりますか?その、任務というか、今の私の部下の扱いはどうなるのでしょうか」
「今のところ変更の予定はありません。もちろん今後の任務によって変更は有り得ますが、なるべく貴方の希望に沿うことができるよう配慮はします」
「了解しました」
とりあえずユーリアとスザナには影響は無いようだ。スザナだったら「お給料増えて良いことですね」とか言うだろうか。
「あー、あと、その、マリーアについては」
「彼女も基本的には貴方と一緒に行動してもらおうと思っています。年齢的に軍組織には編入できませんが、貴族の従者見習いとしてなら未成年でも帯同できます。彼女ともよく相談したうえで、貴方に決めていただければ」
「はい」
従者見習い、というのがあるのか。……その制度を利用するために騎士にしたんじゃないか?大佐の笑顔は相変わらず空っぽで、何も読み取れない。
「今から宮廷作法を身に付けている時間はありませんので、大まかに失礼にならない振る舞い方についてお伝えしておきます。なに、皇帝陛下は開明的な方です。多少失敗しても不興を買うようなことはありません」
「……はい」
あーまあ偉い人に会うんだったら色々あるよね……。正直苦手だけど仕方ない。はあ。
この時の私は、皇帝を始めとする帝国首脳に『聖女』の存在が現実のものとして認知されている意味をまだ理解していなかった。




