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 しばらくはすんすん静かな泣き声が響いていたが、お茶がすっかり冷める頃には落ち着いた。まだ鼻をすすっている家永さんの空のカップに、ポットに残っていたお茶を注ぐ。

「すみません。なんか、昨日から」

「気にしないで」

 真っ赤な目でカップを傾ける家永さんは、本当に儚げで可愛らしい。こんな顔で頼られたら何でもしてしまう。借金してまで貢ぐ人の気持ちが分かってしまったかもしれない。意識していないんだろうけど今もぴったり横にくっつくように座っていて、なんかこう庇護欲をくすぐられるというか。

「失礼いたします」

 私が煩悶としていたら、ユーリアとスザナが戻ってきた。ぴっと敬礼をして近付いてくる姿に、家永さんが横で姿勢を正す。

「報告は後にした方がよろしいでしょうか?」

「ああ、今で大丈夫」

 報告?

「市民には西部戦線を帝国軍が突破したこと、沿岸地帯を包囲したことが伝わっています。新聞報道と相違はありません」

「……本当に情報収集してたんだ?」

「はい。そのような指示でしたので」

「うん、そうだね。ありがとう」

 私の指示を忠実に実行する部下。優秀で真面目で素晴らしい。次は「遊んできて」ってはっきり伝えないとダメか。

 ユーリア達にも座ってもらい、報告を続けてもらう。イーペルでの劇的な勝利と共和国軍の潰走は、大袈裟なくらいに味付けされて伝わっているようだ。新兵器──毒ガス──使用についても匂わせているようなので、これは大佐の言っていた私の存在を隠蔽する工作の一環だろうか。後方にあたるこの街でも、前線に向けて兵士と物資が大移動しているのは一目瞭然。戦況が大きく動いたのは肌感覚でも伝わる。

「帝国軍への感情は良好です。軍服の我々を拒絶することなく、むしろ好意的に受け入れていたように感じました」

「久し振りの街はどうだった?」

「そう……ですね。私が知っている頃よりは落ち着いているようです。前線は膠着していましたが、この辺りは直接戦火に晒されてはいませんから」

「そっか」

 ユーリアと話していると、横の家永さんがちょいちょい袖を引いてきた。振り向くと、ぽかんと口を開けたちょっと間の抜けた顔が待っていた。

「あの」

「ん?」

「なんか、あれ?」

「どうしたの?」

「おかしいんです。あの、ユーリアさん?の、あれ?」

「えーっと?」

 目が泳いでいる家永さんを見て、ユーリアも怪訝そうに眉を寄せた。

「一度席を外した方がよろしいでしょうか?」

「あ、大丈夫、です。……あれ?」

「はあ」

 家永さんがユーリアと私を交互に見ている。何が何やら。……ん?

「……ユーリア?」

「はい」

「彼女の言うことが、分かる?」

「はい」

「…………」

「あの、それが何か?」

「あ、いや。うん、何でもない」

 家永さんが縋るように腕を絡めてきた。何が起きているのか分からない様子だ。私にも分からない。こっちの言葉を聞いているうちにいつかは、とは思っていたけど。

 とにかく、家永さんにも自動翻訳スキルが発動した、ようだ。

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