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たぶん舞踏会とかやってたんじゃないかという広い部屋の窓際にテーブルがセットされ、きらきら輝く銀食器が並んでいる。ユーリアとスザナは軍服のまま窓の外を眺めていたが、私に気付くとぴっと敬礼してきた。
「おはようございます、閣下。……そちらは?」
「あー、まあ同郷の知人、というか。細かい話はまた後で」
私の後ろに隠れるようにしている家永さんを見て、ユーリアは怪訝そうな顔をしている。スザナはいつもの人好きするにこにこ顔だ。
「えーと、この2人は私の部下でユーリアとスザナ。後でちゃんと紹介するね」
「は、い」
まだこっちの世界の人に対する警戒心が抜けない家永さんに椅子をすすめて私も座る。ユーリア達が腰掛けるのを見計らって、使用人のお姉さんが朝食を運んできてくれた。本日の朝食はブール?だっけ?スライスした丸いパンにソーセージ、目玉焼き。人参と、なんか見たことない野菜をローストしたもの。それにザワークラウトが山盛り。たぶんアンズと思われる果物がついている。飲み物はコーヒー。とりあえず食べ始めてから2人に謝っておく。
「ごめんね、何も指示を出してなかった」
「いえ。昨日のうちに確認しておくべきでした」
ホテルのご飯も良かったけど、大佐の館の食事はやっぱり美味しい。なんというか、塩加減が絶妙だ。
「あのままリールに置いておくわけにもいかなかったから付いてきてもらったけど、今はまだ2人に任せられる仕事が無くて。いったんは待機というか、自由にしていてもらって構いません」
「はあ」
「了解です」
真面目なユーリアは何とも言えない表情だ。ここでは使用人の皆さんが何から何までやってくれるし、傷病兵がいるわけでもない。私の任務が終わったので日報を書く必要もない。本当にやってもらうことが無いのだ。
そんなやりとりをしていると、家永さんがちょいちょい袖を引っ張ってきた。顔を寄せて耳打ちしてくる。
「あの、どうなってるんですか?」
「ん?何が?」
「あの、どう聞いても日本語で話してるようにしか聞こえないんですけど。それで、あの人達はなんか外国語で話してて。で、なんか会話できてて。なんでですか?」
「うーん、何でだろうね?なんか通じるんだよね」
「ええ……」
客観的に見るとそんな会話になってたんだ、帝国語限定の自動翻訳能力。最初は話し言葉だけで文字は無理だった。今は文字も読めるようにはなったけど、書くのはかなり頭を使わないといけない。共和国語はさっぱりだったけど、共和国の兵士達にはどう聞こえてたんだろうな?
実はこの朝食会を設定したのも、家永さんにも自動翻訳が発動しないかを期待してのことだった。私が何度か音読していたら文字を読めるようになったように、私とユーリア達との会話を聞いているうちに意味が理解できるようになるのでは、と思ったのだ。今のところはその気配は無いようだけど、それでもこうしているうちに少しはこっちの世界に慣れていくんじゃないかと思う。大佐の使用人達は仕事は確実なんだけどなんか機械的なんだよね……。そうでないとオカルトグッズのメンテとかやってられないんだろうけど。
納得のいかない顔でパンを頬張る家永さんは、年相応に可愛らしい。昨日の地獄から這い出してきたみたいな惨状からすれば別人だ。このまま行けば少しの間ならユーリア達に預けても大丈夫になるかな?




