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 1階に下りるとロビーはビジホの朝食ビュッフェみたいになっていた。兵士が入れ代わり立ち代わりやってきてはサンドイッチになっている食事を頬張り、コーヒーで押し流して去っていく。あ、ローストトマトとベーコンのサンド美味しそう…。司令部は奥の方に移動していて、相変わらずシュメルツァー大尉が座っていた。

「ああ、コートリー中尉。少々お願いしたいことがありまして」

 大尉は何やら書きつけていた紙に署名すると、封筒に入れた。このホテルのロゴ入りレターセットだ。封筒にも流麗な筆致でサインし封をする。

「これをリール市街の守備隊司令部に届けてください。案内役の共和国軍兵と護衛は選定しています」

「了解しました。……ん?」

 さらっと言われたけど、市街の守備隊司令部におつかい?敵陣ど真ん中に?

「ええと、大尉殿。質問してもよろしいでしょうか」

「どうぞ」

「司令部に…というのは、その、司令部に?」

 何言ってんだ私。

「ええ。朝にもお伝えしたとおり、敵に降伏を勧告する書簡を送り時間稼ぎをします。こちらの郵便事業者に任せるわけにもいきませんので、帝国軍士官である中尉にお願いしたいと思いまして」

「ああ、なるほど?」

 分かったような分からんような。正式に降伏を促すのであれば、それなりの立場の者が出向く必要があるのは理解できる。軍事的な役割を持っていない私が選ばれるのも、まあそれはそうだろう。

「確認ですが、文書だけ届ければ良いのでしょうか?何か伝言はありますか?」

「この書簡が帝国軍としての正式見解である旨は伝えてください。後は中尉の判断でこちらの情報を伝えても構いません。ただし、『黄』号作戦の機密となる『黄』弾について、および第3軍の戦略目標については伏せてください」

「了解しました」

 こちらの規模や鉄道駅制圧の目的については伝えても構わない、と。降伏云々は守備隊長だけで判断できる内容では無いし、情報はより上位の軍組織まで伝わるはず。規模不明、目的不明の敵対勢力が目前にいると伝えるよりは、優勢な火力を持つ敵一個中隊が鉄道網の機能喪失を目的として鉄道駅を占領中とした方が無茶な攻撃命令は出にくいだろう。

「大尉は今回の任務の危険度をどのように判断されますか?」

「戦闘になる可能性は極めて低いでしょう。軍使に対してその安全を保障するのは慣習となっています。共和国側が拘束を試みるかもしれませんが、その場合は火器使用を許可します」

「はい」

 使節に危害を加えるのは許されないが、拘束はいいのか。その辺の匙加減がよく分からん。

「移動用に馬車3台を調達しました。護衛には昨日中尉と行動を共にした小隊から一個分隊を抽出します。昨日と同様、カント少尉が指揮を執るそうです」

「はい」

 道中会話が全く無いのは確定か。まあいいけど。

「準備が出来次第出発となります。馬車だと片道20分といったところでしょうか」

「すぐに準備します」

 まあ準備といっても携行装備品の確認くらいだ。シュメルツァー大尉に敬礼し、私達はいったん部屋に戻った。

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