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 ホテルの外に出ると、ロータリーを挟んだ駅舎前には土嚢が積まれていた。板で即席のバリケードが築かれ、帝国兵がその奥にいるのが見える。ロータリーをぐるりと取り囲むように3階建てくらいの建物が並んでいて、広めの道が合間から延びている。建物の間は路地になっていて、奥には民家なのか従業員の住宅なのか、平屋の建物が見えた。こうして見ると夜の印象よりも建物はあるらしい。それにしてもこれで『駅周辺は都市化が進んでいる』?日本の感覚からすると寂れたローカル線の駅以下だが、この時代なら栄えている方なのか?

 駅舎に入りホーム…というか広場に出ると、遠くに何かが積み上げてあるのが見えた。あれが夜通しかけて構築した防衛陣地だろうか。それに地面に真新しい溝ができているなと思ったら、どうやら塹壕らしい。塹壕というか動線?匍匐前進ならなんとか隠れそうなくらいの深さで、駅舎から陣地に向かって伸びている。所々で兵士が穴を掘っているのが見えるので、ここから見慣れた塹壕の深さまで掘っていくつもりなんだろうか。人力でひたすら掘り進めるしかないのだから大変だ。

 駅舎横には昨日の駅事務室、それから倉庫群が並んでいる。煉瓦造りの立派な倉庫の向こうには、テントの仮設倉庫が広がっている。雰囲気としては野戦補給廠に近い。何本もある線路の向こうには車庫と、たぶん給水塔。駅全体がだだっ広くて、何もない空間の方が多いと思う。将来はもっとみっちり建物で埋まる予定なのかな?

 空から聞き慣れた音が聞こえたので見上げると、帝国の複葉機が2機飛んでいた。朝早くから偵察に余念がないようだ。わりと低い位置で旋回を始めたので手を振っておく。そういえば司令部にはリール鉄道駅制圧の情報は届いているんだろうか?シュメルツァー大尉はそのへんは抜かりなさそうだけど。

 またロータリー側に抜けてぐるりと建物の中を覗いていく。事務所が主で食堂が1つ、商店っぽいのが2つ。中で店員さんが動いていたが、軍服の私達を見るとあからさまに警戒した感じになる。リール市街に続く道沿いには厩舎があって馬と馬車が並んでいた。駅前のタクシー会社みたいなもんか。少し進むと建物は無くなり、両側に畑の広がる風景になった。畑の中をまっすぐ伸びる道。所々に背の高い木が立ち並び、小さく農家が見える。戦争の真っ只中とは思えないほどのどかな光景だ。板を渡した即席の検問所と兵士が見えなければ完璧なんだけどな。

 ゆっくりホテルに戻ると7時を回っていたので、ルームサービスを依頼して部屋に戻った。それほど間を置かずに運ばれてきたのは、目玉焼きにベーコン、ローストした玉葱が添えられた皿。バゲットと濃い赤色のジャム、バター。テリーヌっぽい茶色いペーストもある。ポットにはコーヒー。朝食!って感じだ。食べ始めると3人とも無言になる。仕方ないよね、ちゃんと美味しい食事なんだから。このテリーヌ、何を使ってるんだろう?ハーブなのか変わった香りがする。

 黙々と食べ続けてお腹が満足し始めると、ぽつぽつ会話も増えてきた。ホテルの部屋でコーヒーを傾けながらおしゃべり。戦争中なのを忘れそうになる。

「共和国には敵に玉葱を食わせるな、という感じの軍歌があったように思いますが」

「なんで玉葱?」

「詳しくは存じ上げませんが、人気の野菜なのと健康に良いから、でしょうか?南方の言い伝えにも玉葱があれば病気にならない、というのがあったかと」

「へー」

 ユーリアととりとめもない会話をしていたらノックの音が聞こえた。スザナが応対に立つ。

「閣下ー、速やかに司令部に出頭せよ、ですー」

「了解」

 コーヒーの残りをあおって立ち上がる。さて、お仕事かな?

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― 新着の感想 ―
玉葱を油で揚げたものが好きだ!!!
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